眠くなったので。

 とても、眠いです。瞼が重力に負けて、とろんと垂れてきます。でも、今は眠っている場合ではないのです。お仕事の、真っ最中なのですから。


 お仕事をしながら、うとうと、うとうと。そんな経験がある人は、結構いらっしゃると、思います。理由は、なんでしょうね。やっている仕事が、つまらないから。昨夜夜更かしをして、寝不足だから。はたまた、次の休日に出かけるのが楽しみで、楽しみで、仕方がなく、興奮して眠れないから、だったり。私の場合は、このどれにも当てはまりません。お薬の影響だからです。


 私はお薬に関して、あまり詳しくないのですが、これは精神を安定させる作用のある、お薬なのだそうです。代わりに少し眠くなるようなので、機械の操作や、車の運転はしないでください、と言われました。私はお医者さんの言葉に了承して、その薬を飲むと決めました。


 しかし、これほど眠くなるとは。うとうと、うとうと。目の前がかすみます。書類の文字が二重に見えます。頭が急に鉛のように重くなり、がくん、がくんと落ちそうになります。それでも眠るまいと、必死に起きているのですが、起きるので精一杯で、仕事が一切進んでいないのに気付き、内心焦ります。でも、焦るのは気持ちだけで、身体は「そんなん焦ったって仕様がないないんだから、もうあきらめて休もうぜ」と提案してきます。身体としてはそちらを優先した方が、正しいでしょう。しかし、仕事としては、そういうわけにはいきません。期日までに、この書類の山を片付けなければいけないのです。


「おーい、大丈夫かー?」


 隣の席の先輩が声をかけてきました。流石に、眠気と格闘していることが、周囲にもバレバレだったのでしょうか。私はハッと頭を起こし、先輩の方に向き直りました。


「いや、ねえ。そんな眠そうにしてたらさ、仕事捗らないでしょ? ちょっと休憩する?」


 先輩が気を遣ってくれたようです。私は申し訳なく思い、小さく縮こまりました。


「あの……いえ、すみません……大丈夫です」


「そうは見えないぞ。どっちみちそんなうとうとしながらやっても進まないんだからさ、一旦休憩! コーヒー入れてくるね」


 先輩は強引に私に作業を止めさせ、席を立ちました。そうですね、何事も、活動と休養のバランスをとるのは大切なことです。先輩の言う通りですね。私はそんなことも忘れ……いえ、忘れてはいないのですが、休憩をとるのが申し訳なくて、つい無理をしていました。私は反省しなければなりませんね。休憩ということで、とりあえず楽な姿勢になって、ふっと目を閉じました。


 次に目を開けたら、終業の時間を、とっくに過ぎていました。既に部屋には誰もおらず、照明も消えていて、私のデスクライトだけが光を発していました。私のデスクには、カップが置いてあり、中には冷めたブラックコーヒーが入っていました。

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