道をたずねられたので。

 知らない人に道を聞かれました。アメリカ人か、ヨーロッパ人か、わかりませんが、大柄な白人の男性でした。えくすきゅーずみー、から始まり、そのまま英語で、道をたずねられたのです。私はただあたふたしてしまい、意味不明なジェスチャーと、ジャーゴンじみた謎の言葉を発して、その場から逃げ去るように移動しました。


 私は、英語が、苦手です。もっと言うと、英語だけでなく、日本語も苦手です。喋ること自体が、苦手です。なので、道を教えるなんてこと、私にとって、難易度が、高すぎます。


 もっと流暢にしゃべれたらなあ、と思うことが、よくあります。英語も、日本語も。そうしたら、こんな場面でもスラスラと、わかりやすく答えることが、できます。細かい道順の説明や、目印になるオブジェクト、その道を通るときの注意点、もしかしたら、近くのおすすめのスポットまで、教えることができるでしょう。いや、そこまでは、やりすぎでしょうか。逆に、混乱してしまいそうですね。ともかく、ちゃんと道をたずねてきたその人のお役に立つことが、できるのです。


 そう考えながら歩いているうちに、先ほど道をたずねてきた外国人の方と、すれ違いました。彼の足取りに迷いはなく、目的地への道をしっかり踏みしめています、と言わんばかりの様子でした。きっとわかりやすい案内人を見つけたのでしょう。彼の目にはワクワクした光が灯っているのが見えます。


 ところで、私はどこへ、向かっているのでしょうか。慣れない人に話しかけられたので、そのショックでうっかり忘れてしまいました。何かを買いに行こうとしたような、気がするのですが。そうだ、こういうわからないことがあるときこそ、人に聞けばいいのです。彼のように上手く聞き出せないと思いますが、私も勇気を出して聞いてみましょうか。あのう、そこのあなた。えくすきゅーずみー。

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