ちょっと思いついたので。
亀虫
風が強かったので。
私は料理をしていました。熱したフライパンに油をしいて、全体に油が行き渡るようにします。そしてベーコンを、乗せます。ジュージューと音を立てて、肉が鳴いていました。油が弾けて、飛び散りました。
キッチンの窓から外の様子が、見えます。料理中にもかかわらず、外の様子が気になり見ました。どうやら、思いのほか風が強いようで、木々が自分から見て左側へ揺れる様子が、ありありと見えます。
木の葉が、舞う。ひらひら、舞う。強い風に翻弄されるように、中空を揺れ動く。
どこかからやってきたチラシのような紙も、窓を覗く私の視界に躍り出ます。それは木の葉よりも激しく、窓の中のステージで、乱舞する。チラシの出番は一瞬でしたが、その一瞬を華々しく飾り、強烈な印象だけを置いて退場していきました。
ジュー、と肉の焼ける、音。もうちょっとで、食べごろです。でも、私は、気付きませんでした。窓の劇場に釘付けでしたから。
外は暴風、大きな盛り上がりを見せます。普段見ないようなものも、飛んでいます。ビニール袋が、飛んでいる。新聞紙も、飛んでいる。でもそれさえも、にぎやかし。真の主役は他にあるのです。
劇場に舞い上がり、姿を見せたのは、パンツ。真っ白なブリーフ。どこの家から来たのでしょう。誰がはいていたパンツなのでしょうか。持ち主か、その家族か、はたまたお手伝いさんか、そのうちの誰かが無謀にも、こんな風の日に洗濯し、外に干し、それは強い風に飛ばされました。そして風に手を引かれ導かれ、この劇場にやってきました。珍客にして、真打。そりゃ気になりますよね、普段ハンガーや人の身体に束縛されたきみが、自由に踊っていたら。観客の注目は、彼らが全部さらっていきました。
パンツはしばらく舞い踊り、そしてそのままどこかへ去っていきました。
そして去ったのを見届けた私は、手元を見ます。調理器具の上を、弾ける油。もくもくと、立ち上る煙。
私は思いました。パンツ。飛ぶパンツ。……フライ、パンツ。フライパンツ。
そう、フライパン。あれがホントのフライパン。少しの間、私はひとりで勝手にツボに入って、お腹が苦しくなりました。
フライパンの上のベーコンは、既に真っ黒こげでした。
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