第五楽章
「ネモ、調子はどう?」
ネモは調整カプセルに横たわっていた。両目のメインカメラが私たちを映す。
「コンディションに問題はありません。技術班長にもそう述べたのですが、脚部を取り外されました」
「あの人のことは気にしないで。そういう人なの」
今頃技術班長はネモの脚部の内部構造をうっとりと眺めていることだろう。私も彼には思うところがあるが、腕は確かなので何も言えないでいる。
「ネモ、今日の訓練はどうだった?」
隣にいたハウエバー氏が尋ねた。
「ナイフを用いた近接戦闘訓練ですね。実戦にも堪え得る水準に達していると判断します」
「その根拠を聞かせてもらえる?」
私の質問にネモは簡潔に答えた。
「ハウエバー担当官のポテンシャルです」
「僕の?」
「はい。今回の訓練において、当初担当官はご自身の持つポテンシャルをセーブして訓練にあたっていました。そして私の動きを確認しながら徐々にアップさせていきました。結果として、私は姿勢制御、反応速度、その他全ての評価項目において担当官の全力に応えることができました」
私はハウエバー氏の方を見た。どうやらネモの言う通りだったらしい。彼はとても鋭い目をしていた。
「……ネモ、今回の訓練と同じ条件でもし僕と君が戦場で相対したら、どちらが勝つと考える?」
「ボディのスペックの差などから判断するに、私が勝ちます」
ですが、と目の前のアンドロイドは言葉を続ける。
「無傷で勝利する確率はほぼないと判断します。勝つことはできても、その後の戦闘続行は非常に難しいものになるでしょう」
ハウエバー氏は満足そうに頷く。ネモの回答は正解だったらしい。
「よし。そこまで判断できているなら大丈夫だろう」
ここでハウエバー氏は私の方を向いて、
「次の訓練でネモの最終試験をします。内容は追って知らせます」
と有無を言わせない口調で言った。その宣言に私は首を縦に振ることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます