第三楽章
「ご存知の通り、このラボでは主に兵器の開発をしています。兵士が携行する銃やナイフの類から戦車や地雷、ミサイルまで幅広く製造していて、業界でのシェアの約30%を占めています。代表的なものだと……」
「『イエローサンダー』とかですか?あの鉄球の代わりに電撃を浴びせるクレイモア地雷」
「その通りです。もしかして、使ったことがあるのですか?」
私の問いにハウエバー氏は顔をしかめて、
「いいえ。使われた側です。あれは非常に厄介な代物でした」
と答えた。私は少し申し訳ない気持ちになったが、すぐに気を取り直した。
「それよりも、件のアンドロイドを兵士にするプロジェクトが始まった経緯を聞かせていただきたい」
彼は単刀直入に切り出した。
「プロジェクト発足の経緯は単純なものです。私のチームでは、兵士が携行、運用できるサイズでありながら高威力を発揮できる兵器を開発していました。しかし、実際には負荷が強過ぎて到底人間の身では耐えられないものしか造れませんでした」
「その負荷とは?」
「文字通りのものです。一発撃つだけで腕がもげてしまう、あるいは反動が大き過ぎて照準を定めることすらできないような」
「兵器としては落第点ですね」
「おっしゃる通りです。ですが、それは運用するのが人間であるからです。仮に、人間より強靭なボディを持ち、また一部が損傷してもすぐに修復、取り換えることができるものが運用したら」
「そこでアンドロイドの出番というわけですか」
彼も合点がいたようで、頷きながら言った。
「私たちは早速戦闘用アンドロイドの設計に取り掛かりました。結果として、ボディはすぐに完成しました。問題は中身。AIです」
私はタブレット端末を操作してハウエバー氏に見せた。
「アンドロイドの訓練の様子です」
そこには武器を構えて走るアンドロイドの動画が表示されていた。彼はそれを見て一言、「動きが雑で鈍いですね」
と断じた。
「そうなんです。AIの学習能力は問題ないのですが、私たちは研究者です。戦場での状況判断や発砲の際の姿勢制御といった兵士としての考え方を教えることができないのです」
そこで、と私は言葉を続ける。
「結論として、実際に戦場での経験が豊富な人間にご教授願うことになりました。最初は国の軍人を呼ぶことも考えましたが、私たちの製品は国外にも流通しています。なので、一つの勢力に借りを作ることは避けたい。そういう事情もあって、フリーランスの傭兵を雇うことになり、ハウエバーさん、あなたが選出されたのです」
私は自分が早口になっていることを自覚しながら一気に説明を終えた。彼は少し思案した後で、
「それで、僕のギャラはいくらになるんですか?」
と問うた。私は再びタブレットを操作し、金額を提示する。
「一年契約です」
彼が目を見張るのが分かった。私たちも傭兵を雇うにあたって相場を調べてある。提示した金額は、その相場で言うなら三年分以上だった。
「このラボは、よほど儲けているんですね」
「と言うより、それだけこのプロジェクトが期待されている、と受け取っていただきたいですね」
それを聞いて彼は笑った。
「いいですね。面白い。分かりました。この話お受けします。ギャラも十分だし、なにより」
そこで彼は言葉を区切り、天井の方を見上げて言った。
「なにより、この仕事では、人を殺さなくてもよさそうだ」
そうして、ハウエバー氏は私の方に向き直って右手を差し出した。
「よろしくお願いします。えぇと、ミツルギ博士、とお呼びした方が?」
私はその手を握り返しながら答えた。
「博士はいりません。どうぞ、普通にミツルギ、と呼んでください」
これが、彼と私のファーストコンタクトだった。
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