本編2

 拓実「あ、じーじ!!」

 歳三「たっくん、よく来たね。怖くなかったかい?」

 拓実「怖かったよー、沢山揺れて、痛いし、もーヤダー!って泣いちゃった。でもね、このお兄ちゃんが居たからへーきなの!」

 ユキ「トモキ……来ちゃったんだね」

 トモキ「……」

 かーちゃん「あ!みっげだど!ごのバカたれが!」

 篤「うわ、ちょっ! かーちゃん、たんま! 」


 篤とかーちゃんの追っ掛けっこが始まる。


 歳三「トモキ君、孫が世話になったみたいだね。ありがとう」


 トモキ、何かを喋ろうとするがなにも発せずに俯く。


 拓実「ねー、じーじ」

 歳三「なんだい」

 拓実「もうママとパパに会えないの?」

 歳三「うーん、そうだね。もうお家には帰れないけど、いつかママとパパに会えるかもしれないね」

 拓実「ばーばも?」

 歳三「ばーばには一番早くに会えるかもなぁ」

 拓実「いつかなぁ?」

 歳三「ずっと先さ。寂しくなったら、じーじと一緒に見に行こうね」

 拓実「うん」

 歳三「ユキさん、落ち着いて暇になったら是非家に来て下さい。(走り回る篤をみて)篤君もね! では」

 拓実「バイバイ、おねーさん。バイバイ、おにーさん」


 ―歳三と拓実、上手に捌ける。


 かーちゃん「っづがまえだど!」

 篤「ぎゃ! ごめんってかーちゃん! もー許してよ」

 かーちゃん「んったらごど言って、いづも口ばっがりじゃねーが! 」

 篤「だからぁ、」

 かーちゃん「おめーは、逮捕されちまうわ、賠償金支払いでどんだげかーちゃんが苦労しだどおもっで! しまいにゃ、バイクでグシャグシャにひんまがっちまって! 葬式屋さんも大変だっだど!」

 篤「えー、そこ怒るぅ?」

 かーちゃん「せがらしか!こったらとこでノンビリしよってからに!! かーちゃん、どんだけオメーを心配して、どんだけ悲しくて泣いたこどが!」

 篤「ごめん、ごめんってかーちゃん! 俺さ、さっきやっとこっち来たんだよ。ほんと」

 かーちゃん「何を言ってるだ! なんけ? 地獄でもいっとたかや!」

 篤「ん、そう。かーちゃんがさ、来るまでには此処に来たくて俺結構頑張ったんよ?」

 かーちゃん「そったらこと、生きてるうちにしとかんか!」

 篤「ごめん、ごめんな。でも、かーちゃんがさ、毎日お供えしてくれただろ? だからさ、俺早くに許されて此処に来れたんよ。かーちゃん、ありがとうな。バカな息子をずっと愛してくれて。やっとわかったんだよ、やっと……」

 かーちゃん「心配かけよって、バカ息子が」

 篤「うん、うん。かーちゃん、長生きしてくれてありがとな。初めての飛行機、どうだった?」


 ―篤とかーちゃん、寄り添いながら上手に捌ける。

 ―既に舞台上にはユキとトモキだけが立っている。


 ユキ「……トモキ」

 トモキ「……」

 ユキ「トモキも来ちゃったんだね」

 トモキ「……」


 ―ユキ、トモキをじっと見つめる。うつ向いたトモキの頭を撫でようとするが、触れないことに気づく。

 ―ユキは泣き笑いのような顔を見せる。


 ユキ「私、さ。トモキに謝りたくて 」


 ―トモキ、顔を上げて何かを言おうとする。


 ユキ「いつも、下らないことで怒ってごめんね。 ほんとは、分かってたんだよ? トモキが私を巻き込んで、皆と仲良くできるようにしてくれてたとか。ほっといてよって思うときもあったけどさ、助かってたよ。ありがとう」


 ―トモキ、何かを叫ぶが音にならない。ユキはただ微笑んでいる。もどかしそうにユキを掴もうとするトモキ。ユキは簡単に避ける。


 ユキ「だからねトモキ、よく聞いて。 私はトモキを恨んでないよ。トモキは私の大切な弟なの。だから、だからね、此処に来るのはまだ早いから、……戻りなさい。今なら、帰れるから」


 ―トモキ、自身に異変を感じたのか手を見て身体を見る。小さく、心電図の音が鳴っている。


 ユキ「ありがとう、愛してくれて。お父さんもお母さんも、トモキもずっとずっと長生きしてね。お爺さんになって夜叉孫出来るまで、此方に来ちゃ駄目だよ」


 ―心電図の音がどんどん大きくなる。トモキ、ユキを掴もうと必死になるが、ユキは笑いながら佇む。トモキの手はユキをすり抜ける。

 ―心電図の音が急に鳴り止む。


 ユキ「さよなら、トモキ」


 ―ユキ、トモキの身体を強く押す。


 トモキ「姉ちゃん!!」


 ―心電図の音が再び鳴る。徐々に強く、うるさいほどに鳴り響く。

 ―ユキに押されたトモキはスローモーションで倒れていく。同時に徐々に暗闇へ。

 ―ユキは闇に紛れるように笑顔で去っていく。


 ―暗転―


 ―仏花を抱えて立つトモキが浮き出される。ユキは遠くに佇む。


 トモキ「あれは、夢現の出来事で、きっと黄泉の国とか三途の川とか呼ばれる場所だったのだろう。死者を黄泉に運ぶのが渡し舟じゃなくてただのバスだったとか、少し期待はずれだけど。

 ……なぁ、ねーちゃん。聞こえてる?

 俺、夜叉孫抱くまで長生きするからさ、会えるのはずうっと先だけど、ねーちゃんの代わりに親孝行しとくからな!

 なあ、ねーちゃん、ねーちゃん。

 俺はとても、寂しいよ 」



 ―涙を流すトモキに近寄りユキはゆっくりとトモキを抱き締める。

 ―トモキはユキが見えていないが、なにかを感じ、顔を拭いて微笑む。

 ―下手から上手に篤と手を繋いだオカン、拓実と歳三が歩く影が見える。ユキに気づいた篤がユキを呼ぶ(マイム)振り返るユキ。歳三に手招きをされ一緒に光の中へ舞うように消えていく。


 ―――おしまい

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終点のバス停でまってるよ イチカワ スイ @ku-si

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