第18話
「幻聴だなんてひどいじゃないのさ。いつだって一緒にいたのに」
幻聴が更に強くなる。いや、確かにこれは幻聴ではない。こいつの名前はオオカミ。最初に移植した時からずっといる、肉体を持たない妖怪だ。寄生することで生き延びる妖怪で、移植される前は妖怪の体を転々としていたらしい。チサの体に来てからは、肉体機能をより向上させることを引き換えに、余分なカロリーを要求してくる。「あんたのせいで、こうして私が苦労してるんじゃないかしら、オオカミ」
言い返してみるが、自分の声に力がない。とうとうヤバいところまで来てしまったかと思いながら、もう少しだけと念じて歩く。行き先に、わずかに
「失礼な宿主様にいいこと教えてあげるわ。ここ、何があったのか知らないけど我らが魔王様の城の中よ。気配で分かった」
オオカミの血の気がみなぎっている。おかげで、少しだけ歩く速度が上がった。もう少しでゴールにたどりつけることだろう。さっきも人の力を上回る動きで事務所の職員の腕を砕いたばかりなのに、まだまだ戦闘するつもりでいるらしい。だが、それよりもチサにとって気になったのは。
「魔王の城?なんでそんなところに私が?」
ケタケタとオオカミが笑う。不思議そうなチサが心の底から面白くてたまらないといった様子だ。かつてないほどに愉快そうな様子で、チサまでその楽しさが伝わってくる。
ゴールに辿りついた。ドアになっていて、隙間から外の光が漏れている。手をかけて、開くと、王宮の中のように豪奢な景色に包まれた空間に出た。古い燭台から絨毯から、何から何まで高級品に見える、後ろを見ると、チサが先ほどまでいた場所は玉座の裏側であるとわかった。それほど広い空間であるようには見えないが、オオカミの話では妖怪たちの王の住む城だ。多少の不可思議なことは気にならない。呆気にとられながら周囲を見渡しているチサに、笑い転げていたオオカミがようやく口を開いた。
「なんでってそりゃあ、今度の王様はアタシたちってことなんじゃないの?」
玉座は空席で、今は誰もいない。玉座の前には紙切れが一枚。チサは恐る恐る手を伸ばし、取り上げて、広げる。ばさりと、何かが落ちる。誰かの白髪だった。溜息をつきながら紙を改めてみてみると、一行だけ、真っ赤な文字で書いてあった。
『ツギ オマエ 魔王』
片言で、最低限のことしか書いてないが、意図していることは分かった。分かってしまった。
「冗談じゃないわよ……!」
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