第16話

キョウヤは力強く頷いた。チサを助ける唯一の手掛かりに、ドクターならばなってくれると信じていた。十五年間、妖怪のことに関しては一番詳しく、有益な情報を提供してくれるのが彼だ。信用できないはずがなかった。

「それでこそだ。いいか?一度しか言わない。本部の受付で、『マコト・ヒロセに会いたい』に会いたいと言え。そうすると、受付の事務員が必ず『要件はなんでしょうか?』と聞き返してくる。それに合わせて一言いうんだ。『俺と会えば分かる』とな。分かったな?」

意図の分からないことだが、ドクターの言うことだ。裏切られることはないだろう。キョウヤが頷いたのを確認すると、ドクターは再び録音機器のスイッチを入れた。

「香也・サキオカの精神状態が安定したので取り調べを続行する。いいな?香也」

少しだけ遠回りをするということをドクターが目で謝ってくる。だが、必要なことだ。件のマコトという人物は本部に所属していて、ドクターがよく知る人物だ。しかし、支部に所属していたキョウヤは知らない。となると、本部で保護されているか、何か機密情報に関する人物なのだろう。つまり、キョウヤがマコトに会うためには、まだ本部に所属し続けなくてはいけない。ドクターの謝罪に対して、キョウヤは首を横に振った。気にすることなど、何もないと。

「もちろんだよ、ドクター」



チサが目を覚ますと、そこは明かりのない部屋だった。明かりどころか、手の届く範囲にはたいらで凹凸一つない床があるだけだ。立ち上がろうにも、足に上手く力が入らない。仕方がないので、周囲を這って確かめると、おおよそ部屋の大きさは六畳分だと分かった。壁は高く、やはり凹凸がない。何度か力を込めて床や壁を叩いてみるが、びくともしないほどに分厚い。どこかにとじこめられている。よく耳を研ぎ澄ませてみるが、自分の発する音と、壁や床を叩いた時の音以外は何も聞こえない。床や壁に顔を近づけて匂いを確かめるが、やはりどうように匂いもない。味も確かめようかと思ったが、そんなことをして成果が得られないと自分のプライドが傷つくのでやめた。

「どこよ、ここ……」

銃を向けられたところまでは覚えているが、そこから先の記憶が、チサにはなかった。試しに自分の移植された部位に力を入れて使い魔を出現させようとするが、反応がない。五感や筋力は強化されたままだが、それだけだ。体感としては強さ半減。チサにとってその数字は致命的なものである。

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