第15話

「次の質問だ。前にも、千紗は移植されてからや妖怪との戦闘中、戦闘後に新たな能力に目覚めたことは……」

苦い顔になりながら、ドクターが台本を読むようにキョウヤに告げると、言い終わる前にキョウヤが言った。重く、鋭く、小さくはあるが深い怒りのこもった声だった。

「ドクター。今更その質問はないだろう。何年も、俺と千紗を診て、それでもなお治療と称した人体改造や、大量の薬剤投与を施して、妖怪たちと戦わせてきた人間がしていい質問じゃない」

15年前、生き残った二人は、当時まだ幼かったこともあって、ここの本部で預かることになった。キョウヤの体も、チサの体も隅々まで調べつくした。その結果。キョウヤは、本来の肉体を奪い去った妖怪から直接奪い返す以外に元の体に戻る方法がないことが分かってしまった。それを聞いてから、チサは変わった。兎に角誰よりも強くなることを望んだ。今回の事件前の時点で、既に一対一の勝負なら本部の誰よりも強い。それでも、チサは自分の研鑽を休もうとはしない。移植しては、副作用に苦しんでのたうちまわり、時にはドクターに緊急手術されながら、能力を増やしに増やし、戦い続けてきた。ほとんどは使い魔で、口や腕を増やすもので、先日まででキョウヤが把握している数はおよそ百。「これ以上増やすとしたら体に対する負荷の方が大きくてだめだと思うわ」と言っていたから、それ以上にはならないだろう。

そして、この事実はすべてドクターも把握している。だから、キョウヤは怒ったのだった。キョウヤの言葉にうなずいて、ドクターは録音機器の電源を切った。

『香也が不安定な状態だと判断したため、治療を優先した。医者として、当然の務めである。言い訳なんてものはな、おっさん長いことやってりゃパパっと出るものなのさ。さて、香也。お前、千紗を救う気はあるな?本部が正真正銘の怪物だと断定した千紗を、まだ人間だと認める気は、あるな?』

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