第14話
「待ってくれ、ドクター。なんでブラッディの名前を知っているんだ?」
監視カメラは音声をとらえない。支部での大暴れ具合を察するに、彼女の名前が本部への連絡に乗ったとは思えなかった。
「……あー。今はまだちょっとその件は保留だ。気になる気持ちは分かるんだが、本部上層部の意向で先に香也を取り調べろって命令を受けててな。すまない」
そんなものか、とキョウヤは納得した。キョウヤの境遇や、それによって生まれた肉体は珍しいものだし、チサにしてもあそこまでの妖怪具合はなかなかない。だが、代用が効かないほどでないということも、また事実だ。つまるところ、キョウヤもチサも基本的には下っ端なのだ。下っ端であれば、上層部の命令には従うほかはなかった。
「とにかく、香也は千紗と会うことができなかったことさえ確認が取れればいい。次の質問だ。千紗は転移術を使ったが、今までにも使った現場を見たか?正直に答えてほしい。こちらでも移植のひとつの参考にできる」
キョウヤはしばらく考える仕草をとる。どうだったろうか。確かに目にもとまらぬ高速移動はチサの得意技だ。妖怪とチサが互いの体を捕食しあうようにして戦い始めたときなど、レポートとして提出せずにはいられなかった。そのレポートは上層部で物議をかもして、現在では移植術も余り多くは使われなくなったのだが、キョウヤの知るところではない。
また、ドクターも知っていることだが、チサは姿を消す術と周囲の音を消す術を移植の結果得ることができている。こちらについては実はキョウヤが教えた術で、周囲の景色と溶け込むようにして、見つかりにくくするための術だ。だが、監視カメラに写っているようには消えることができない。消えるまでにそれなりの時間がかかってしまうからだ。
「ドクター。残念だが、俺は千紗があんな術を使えるとは知らない。こっそり会得していたか、さもなくば今回の事件で身に着けてしまった術だろう。」
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