第12話

「答え、か。選ばなければならない、か。ブラッディ、俺の答えは既に決まっている」

剣を下段に構えて、切り上げて携帯電話だけを破壊する。隙だらけなのだから、そう難しいことではなかった。安い携帯ではないが、どうせ回線は本部の所有物を使っている携帯電話だ。失ってそう痛いものでもない。キョウヤの生活は元々妖怪たちと戦うか鍛錬するか、自分の体の妖怪としての要素を使いこなせないか訓練するだけの日々だ。携帯電話は、必要がない。

「支部側から本部へ連絡は既にされているはずだ。千紗が魔王候補で、俺は重要参考人だとな。その俺の携帯電話がこうして破壊された。本部は間違いなくそれを探る術を持っており、ここで時間を稼げば少なくともブラッディを捕縛することはできる。魔王をへの手がかりになるのは俺でも千紗でもなく、お前だ」

剣を構え直すと、ブラッディはこちらに拍手した。

「それでこそだよ、キョウヤ。千紗を探すのは、ゆっくりにしてあげる。だから、必ず、目的を達成することね」

言うことだけ言ってしまうと、ブラッディは前と同じように姿を消してしまった。キョウヤの力ががくっと抜けて、膝をつく。剣を支えにして、肩で息をする。ブラッディに奇襲される瞬間から、キョウヤの動体視力はずっと限界を超えて働いていた。少しの動きでも追いつかなければ死につながる。その緊張感が抜け、疲労感に変わってキョウヤを襲う。そして、それは間もなく眠気へと変化した。

「逃げるわけにも、いかないか……」

逃げれば弁明の余地はなくなる。キョウヤの腕と同じもので剣を握って殺しまわったとブラッディは言ったが、キョウヤにそれほどの身体能力が備わっていないことは本部ならば把握している。犯人がキョウヤのフリをしたと、すぐに気が付くだろう。を使えば話は別だが、キョウヤは自分の最強の能力を記録に残さないように気を使っている。今回も、使わなかった。血の匂いのする海の中で、キョウヤは眠りについた。



チサが妖怪の体を移植すると言い出した時の夢は、15年経った今でもよく見る。やめろ、とキョウヤは叫ぶ。そんなことをするのは最後の手段だ。俺は、この体のままでも生きていける。だから、千紗は自分の体を大事にしてくれ。妖怪の体を移植すればするほど、妖怪へと近づいていく。そうなれば、やがて、討伐する側なのかされる側なのかの境界が曖昧になっていく。だから、だから。

「俺は、強くならなくちゃいけないんだ」

「バカを言うな、サキオカ。弱いままでも戦いようはあるし、今回ばかりは弱いから無罪放免だぞ」

キョウヤは誰かに声をかけられた。見渡すと、ここは本部にある医務室だ。手入れの行き届いたベッドの上に、キョウヤは寝かされている。部屋の反対側には、ふくよかなアメリカ人の医者が緑茶を啜っていた。

彼はドクター。金髪碧眼で、背は高く、ガタイも良いが、それよりも円筒形の輪郭がよく目立つ。彼は、本名を誰にも言わない。年齢もだ。四十台に見えるが、実際にはもっと年上であるそうだ。長く妖怪の体を人体に移植しており、時折仕事中であろうと誰かと電話をする。「女の腐った奴」だと看護師から陰口を叩かれる人格破綻者だが、腕だけは確かだ。

「さて、取り調べに移る前にいくつか確認しなければならないことがある。千紗・ユキカワの『主治医』として、放置しておけないことが余りに多い」

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