第11話

「さて、と。ねえ、あなたキョウヤっていう名前でしょ。妖怪たちこっちじゃそれなりにあなた有名人なの。それでなんだけど」

キョウヤは油断せず間合いを確かめながら、常にブラッディの動きを伺い続けているが、ブラッディはこの血みどろの建物の中で、笑って話している。匂いも見た目も、狂気を催すような空間の、その中心で。

「実を言うと、あなたの相棒を見失っちゃったのよ。いくつか死体は転がってたし、痕跡もあったんだけど、肝心の本体が全く見当たらない。生きてるにしても死んでるにしてもこの近くにいることは間違いないわよね」

キョウヤはブラッディの、自問自答を兼ねた言葉に対して首を横に振った。もしもチサが自分の知らない妖怪の肉体を手に入れていたとしたら、その限りではないからだ。

「俺の知らないところで、脚力を強化している可能性や、瞬間移動の能力を得ている可能性がある。チサは人間だが、半分以上は妖怪お前らだ。人間の血を啜れば強くなる可能性は否定できない」

得心がいったように、ブラッディは両手を合わせた。

「なるほど。道理で死体の一つに大型犬の歯形がついてたわけだ。じゃあ余計に早く話を進めるべきね。キョウヤ。私たちに協力してくれない?残念ながら、拒否権は存在しないけど」

そう言って、ブラッディは持っていた剣を投げ捨てて、両手を見せる。その手のひらには、わざと刻んだらしい継ぎ接ぎ模様があり、キョウヤの物とうり二つだった。

「当然だけど、使った剣の柄の全部にこの模様は付着しているわ。そのためにわざわざ余分に返り血を浴びたんだから、当然よね。さて、疑惑の逃走犯、しかも行方不明と、支部を全滅させたと思しき逃走犯の相棒。更には残念なことにその二人は15年間もの間ひたすら真面目に妖怪退治にいそしんできたのに、体質を理由にずっと鼻つまみにされてきた可哀そうな人たち。どうする?妖怪退治の側に残って、私たちと戦う?それとも、私たちに協力するフリをして、寝首をかく隙をずっと伺い続ける生活をする?……選ぶ時間は、あんまり多くないわよ?」

ブラッディは意地の悪い笑みを浮かべながら、死体のポケットから携帯電話を取り出して、アドレス帳を探している。本部に匿名で通報するつもりなのだろう。チサとキョウヤが妖怪となって、支部を一つ全滅させてしまったと。私は唯一の生き残りで、生き残ることに必死の余り、どうすることもできなかったのだと。電話をかけている瞬間だけは隙だらけであることをわざと見せつけるつもりで、ゆったりと落ち着いた動作でブラッディは携帯電話を操作している。キョウヤの心の傷の上で、楽しく愉快にフォークでできた靴を履いてダンスしているのだ。

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