第10話

昨夜未明に見た女性の今日の服装は、真っ赤なドレスだ。やはり細身であることには変わりがないが、ゴテゴテと装飾がつけられている。動きやすさや機能性よりも、見た目重視。自分を鼓舞する目的で愛用品を持つことの多い妖怪退治人と通じるところがある。しかし、武器は支部の所有する見慣れた剣である。女性の両手がほんの少しだけ怪我をして血が滲んでいるところを見ると、最初は素手で戦っていたが、より効率的だということで剣を持ったようだ。パワーもスピードも凄まじいものだが、慣れてない太刀筋だとキョウヤの本能が告げたのは、間違いではないらしい。あの剣は上手く使えばかなり長持ちするものなのに、刃こぼれもひどいし、少し歪んでしまっている。キョウヤの奇襲に失敗して、女性は数歩身を引いた。すかさず、職員たちが女性に剣を向ける。「余りもの」の部分から、妖怪だと考えたのだろう。

「やめろ!お前らでは歯が立たない!」

キョウヤの必死な叫びと同時に、職員たち三人は女性の剣によって無残に切り裂かれてしまった。一瞬の出来事である。どう動いたのかもよく分からなかった。兎に角自分の身体能力を全力で振り回した動き。遅かった、と思う間もなかった。折れた剣がキョウヤの頬を掠めて飛んでいく。

「邪魔をしないで。このブラッディに挑めるだけの鍛錬も気合もないのに」

女性――ブラッディが冷たく告げて、職員の一人の出血部分に口をつけて、静かに血を啜る。倒れこむ別の職員の血を浴びる。真っ赤なドレスの赤さは、返り血も含まれているのだ。剣の柄を放り投げ、最後の一人の職員の死体を引きちぎり、壁にたたきつけていく。その様子を見て、ようやくこの匂いと景色がブラッディの強さの源を導き出しているのだと気が付いた。職員の持っていた剣を拾い上げ、強度や歪みを確認しながら、ブラッディは微笑む。

「今度襲撃に来るときには私の斧も持ってこないといけないわね。一々そこら辺の質の悪い剣を使ってちゃ面倒くさいわ」

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