第9話

「どういうことだ……!」

支部に到着した際の職員のセリフは、キョウヤの予想した通りのものだった。そして、覚悟した以上に血に塗れた支部が、職員たち三人と、キョウヤを待っていた。深く、息を吐く。

支部の天井と床と壁の全てに、ここにいた人間だったものが塗りたくられている。見知った顔と目が合って、いたたまれなくなって目をそらした。この状況は、いくらなんでもやりすぎである。チサの痕跡を探そうと足を踏み出したタイミングで、職員の一人に声をかけられた。

「犯人など一人に決まっている!そして香也!貴様も共犯だ!」

「だから確認したじゃないか。誰も望まない最悪の事態を引き起こしてしまったのは、千紗が猛獣であると認識しなかったためだ。武器を持って脱走していたりしたら目も当てられない。今この場で千紗に対処できるのは俺だけだ。できれば手錠を」

言い切らない内に、キョウヤに叫んだ職員とは別の職員が、キョウヤを脳天から真っ二つにしようと斬りかかる。治安維持の職員が護身用に持ち歩いている短剣だ。長さがあるわけではないが、分厚く、破壊力がある。

「ありがとう。それを待っていたよ」

キョウヤは手錠でその斬撃を受け止める。手錠にはヒビが入っただけだが、それでキョウヤにとっては十分だ。思い切り力を込めて、引きちぎる。

「いくら千紗ほどの戦闘力はなくたって、人間一人じゃ俺一人を止められないくらいには強いという事実を忘れているくらい頭に血が上っているんだ。まずは本部に連絡して、ここから避難することをお勧めするよ」

そう言って肩をすくめた瞬間、刺すような違和感を感じて、キョウヤは叫んだ。

「しゃがめ!」

剣を振り回しながら、何かが飛びかかってきた。幸い職員三人とも傷はないようだ。キョウヤも、何かの腕を抑えたので無事である。

「やっぱり、あなた相手に奇襲は通用しないわね。まぁいいわ。あの子の余り物をたっぷり食べて元気になれたし」

「お前は、昨日の!!」

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