第8話

連行されていく場所がいつもの支部だということを確信して、キョウヤは口を開いた。

「ひとつだけ、確認したいことがある」

既に携帯電話は取り上げられており、手錠もされているので思うようには動けないし、武器もない。徒手空拳で戦えるほど強いわけでもない。職員の顔は、明らかに油断していた。

「言ってみろ」

頷いて、深呼吸してから、キョウヤは口を開いた。とある予想があった。だが、そのとある予想がもしも的中していた場合、チサへの疑惑がより確かなものになってしまう。自分も確実に不利になるだろう。予想が的中していた場合、支部に着きたくないという思いもかなり強い。それに何より、この後どうすればいいかという考えが、まだまだ出来上がっていない。

「千紗には、鎖をかけたくらいで、麻酔で眠らせたりだとか、四肢にダメージを与えたりだとかはしていないな?」

職員が、キョウヤの言葉を鼻で笑った。

「当然だ。仮にもまだ疑惑の段階。いくら敵のトップであるかもしれないという疑惑であるからと言って、仲間の一人に危害を加えるわけにはいかない」

当然のことだ。妖怪退治は深夜や早朝の労働、大量の時間外労働、休日出勤による事実上の年中無休が当然の仕事であるが、れっきとした公務員。守らなければならないものは守らなければならない。職員たちは何も気づいていない。チサが、自らを不当な理由で拘束されたと感じた場合、それも殺されるかもしれないという危機に遭遇した場合、どのような対処をするか、どのような行動に踏み切ってしまうのか、彼らは何も知らない。キョウヤは息を吐いて、そっと覚悟を決めた。支部が全て職員の血で染め上げられていて、生存者もチサもいない確信が持てたからだ。

(これから、俺がしなければいけないことは三つ)

手錠をかけられた状態で、三人の職員から逃走する。これ自体は特に難しいことではない。まだが残っている。妖怪に使えるようなものではないが、生身の人間相手となれば時間稼ぎには使える。

二つ目、手掛かりを探し、武器を手に入れ、チサと世間機関を納得させる材料を確実に揃えていく。長丁場になることは避けられないが、やらなければならないことだ。そうでなければ、チサの巻き添えで自分まで死ぬ羽目になりかねない。怒り狂った猛獣チサをなだめて、機関彼らがどれほど不当な行いをしてしまったのかを証明しなければならない。

三つ目。機関や機関の雇った民間の妖怪退治人よりも早く、欲を言えばチサを狙う妖怪よりも早く、チサを見つける。昨夜――厳密には本日未明――に出会った妖怪の言葉から察するに、妖怪たちもチサを探している。かたき討ちが狙いだろう。同族の死体を好き勝手に使われて気分がいいなどということは、多分あり得ない。ゆえに、素早く、本音を言えば本日中にチサを発見しなければならない。彼女に、協力するためにも。

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