第7話
チサが魔王かもしれないというのは、いつか来るかもしれない話であった。
人間よりも、明らかに妖怪の方が強い。そして、妖怪が人間や動物を食べてしまう前に、より強い力で退治する必要がある。機関の所有する剣を作る金属が、それだ。剣の素材に使われている金属は、妖怪に触れるだけで妖怪を弱体化させる。だから、様々な武器に加工して――音がしない方がいい場合には刃物や鈍器、音がしてもいい場合にはもっぱら銃弾が多い――妖怪退治に用いる。武器であるのだから、人間に振るってもそれなりに危ない。だから、長い訓練期間が設けられているのだが、チサはその期間を、首席のまま突破した。まだ妖怪の体を移植する前の、すべてが生身だった頃の話だ。
その後、妖怪の腕をまず移植することになるのだが、本来であれば武器を扱う技術は落ちるはずだった。その代わりに、キョウヤの持つ左腕のような、人間の科学で解明しきれない未知のものによる能力――妖怪の体に火を付けたり、切り刻んだりするような――を体得するはずだった。しかし、現実は誰もが知るように、さらなる剣術の向上である。あの金属に触れている間落ちるはずの膂力も腕力も、落ちるどころか上がっている。そんな特殊な妖怪の腕など、今までの機関のデータには存在しない。移植することの前例を遡っても、チサの様に本来の身体能力すべてがデメリットなく向上することなどありえなかった。
チサに何か非常に大きな理由がある。誰もが疑うところであるし、キョウヤも疑っている。故郷を襲われたときに、二人一緒でいた時間は短い。その間に、何か起こったのではないか。何度も問いただしたが、チサがその問いに答えることは一度もなかった。
「さて、と。私の敵は、いつだって全員殺す。降参してくる奴も、その内復讐してくるかもしれないから見逃さない」
自分に言い聞かせる。チサは現在全身を拘束されているが、大きな障害にはならない。キョウヤの携帯に録音されているような、妖怪を弱体化させ、人間に妖怪の術を使いこなせるようにする音声も流れているが、チサには特に関係がない。いつも通り、全力で殴る、蹴る。掴んで、投げて引っ張って押して。両手両足を拘束する鎖を、体を丸めて負荷を与える。
「私を勘違いするような奴は体に覚えこませてあげる」
派手な金属音を立てて、鎖が千切れた。二人の見張りが、チサを睨みつけて、持っている拳銃でチサを狙う。
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