第6話
見渡しても女性の姿はもうどこにもなかった。アレだけ強かった殺気も威圧感も完全に消え失せている。チサの間抜け面がどうとか言っていたが、とにかく今は生き残ることができて良かった。安心しながら車に乗って再びエンジンをかける。すると、隣から寝ぼけた声がした。普段ならあり得ないことである。
「誰?知り合い?」
止まっている時間が普段より長かったから目が覚めたようだ。それとも。
「いいや、知らない人だよ。道に迷ったかもしれないから確認したかったんだとさ」
キョウヤ自身で思っている以上に素っ気なく嘘をつくことができた。ここだけ聞いただけであれば、チサは絶対に気が付かないだろう。あの女は妖怪で、チサの肉体になれば戦力になることは間違いなくて、魔王の手がかりも得られるかもしれない。だが、それだけの情報は、今必要なことではないと、キョウヤは判断した。
「そう。じゃあいいわ。着いたら起こして」
それだけ言うと、すぐに寝息を立ててしまった。相変わらず寝つきが異常に良いと思いながら、キョウヤは小さく笑った。
「はいはい、おやすみなさい」
†
到着後、昼前のタイミングである。帝都の自宅でキョウヤは休んでいた。寝るだけ寝たチサが車に乗って剣とキョウヤのポーチを返却――キョウヤたちのような妖怪退治人は、公的機関に所属している場合、武器は全てその時だけのレンタル品である――しに行ってしまった。使えるものはキョウヤの妖怪の肉体――左手も、レンタル品がなければマッチ棒代わりにしか使えない――だけである。そういう状況で、玄関前でドタバタと足音がして、たたきつけるようにベルが鳴らされた。
『キョウヤさん。お話があります』
玄関ベルに応答すると、小さく、鋭い声がした。キョウヤの所属する機関の役員の声だ。チサが何かしてしまったとは考えられから、何が起こっているか理解できない。
「わかりました。中へどうぞ」
玄関で、職員三人を出迎える。
顔を合わせるとすぐに、先ほどの別の職員が要件を告げた。
「千紗・ユキカワに魔王の嫌疑がかけられています。匿名の通報で、以前よりも強力な魔力を有していることから可能性が高いとこちらでは判断しています。現在こちらで勾留中です。そして、香也・サキオカさん。あなたも共犯者だ。同行を」
反論したいことは山ほどあったが、匿名の通報というやつの犯人も大体察しがついた。機関が内心ではチサとキョウヤの二人を疎ましく思っているのも知っている。逆らうことなく、キョウヤは職員三人と機関へ向かうことにした。
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