グランとクララ

「君。名前は?」

俺は人狼少年に問う。


人狼少年は、恨めしそうな顔でこちらを見る。


「財布を勝手に取って返したことは悪かった。」


「しかし、スリは良くない。俺が何か買ってやるから、それで我慢しなさい。俺はヒロ。そして、こっちがヘスだ。」


人狼少年はしぶしぶといった様子で名乗ったのだった。



「僕は、グラン。この街に、妹と二人で住んでいる。」



ふーん。そういうことか。


恐らく、冒険者の子供によくある両親が魔物に殺されたというやつだろう。


不幸な身の上だな…。


「よし。俺についてこい。」

不憫におもい俺はこう言ったのだが…。


うん。

なんか、グランくんが俺を怪しんでいるようだぞ。

ついてこない。


「グランくん。いこ。」

ヘスが言った。

グランくんが歩き出す。


へ?

おい。お前何ヘスにくっついたんだ。

手を繋ぐ許可なんか出してないぞ。

なんて子供だ。

ニヤッ

なんだ、グランのやつ。

こっち向いて笑いやがった。

腹立つ〜。


「ヒロ様。行きますよ。」

何故か、俺がお荷物みたいな扱いだ。


おかしい。おかしすぎる。



道中、グランともめながらも、もう一度屋台がたくさん並ぶ惣菜街に来た。


「おっ。あんちゃんまた来てくれたのかい。」

肉串屋か。


うん。買ってやろう。

俺は、金を払う。

腹がたつが、グランはかわいそうな身の上なのだ。


「グラン。食べろ。」

「僕、手が塞がってる。」


おい。何ヘスに抱きついてんだ。

離れろ。


「はい。グランくん。」

「あーん。」

ムシャムシャ

「美味しいです。ヘスさん。」

…。

もう、突っ込む気力もない。


その後、俺たちは沢山の食べ物を仕入れ、グランの要望でグランの妹に、食べ物を持っていくことになった。


「そこを、左です。ヘスさん。」

グランは、ヘスに抱っこしてもらっている。」


おい。グラン。

お前何歳だよ。

確か、中学校3年くらいだよな…。


「着きました。」

グランの家は、町外れの小さな一軒家だった。

小さいながらも、手入れが行き届いている。


子供、それもただの一般人にメイドを雇うのは無理だから、グランの妹はなかなか素晴らしい人物だろう。


グランと違ってな。



俺が、扉を開けると、銀色の閃光と共に、体に負荷がかかった。

「おかえりなさい。お兄ちゃん。」



************************



俺の目の前には、銀髪美少女が顔を赤面させ立っていた。


彼女は、グランの妹であるクララだ。


なぜ彼女が顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのか。


これを語るには、数分前に戻らなくてはならない。



ー数分前


俺が、扉を開けると、銀色の閃光と共に、体に負荷がかかった。


「おかえりなさい。お兄ちゃん。」


俺は、その銀色の塊をよく見る。


銀色の塊には、上に二つの出っ張りがある…。


これは…

耳だ。

それも、狼の。


つまり彼女が。


「クララ…さん?」


俺の声を聞いて、彼女は俺に抱きついたまま顔を上げた。


やばい、そんなに近くで見ないでくれ。


クララは、とても可愛い。


目は、少女マンガのように大きく、髪は銀色。そして、鼻と口が最適な位置に最適の大きさでついている。

まるで、人形みたいだ。


あと、数歳年上で、なおかつ服が汚れていなければ、瞬間的にプロポーズまでしてしまいそうなレベルだ。


そんな可愛い娘に、抱きつかれた状態プラス上目遣いというコンボを加えドギマギしない人がいるだろうか。


俺は、決してロリコンではないぞ。


逆にこれでドギマギしなかったら、今すぐタイに行って、手術をしてきなさい。

(いや、別にそういう人たちをディスってるわけじゃないからね。)



クララは、上を見上げたあと即座に飛び退いた。


「あなた、誰?」


やめて。

そんな、変態を見るような目で見ないで。

そんなことされたら、俺はもう生きていけないかもしれない。


「クララ!」


グランが、クララに飛びつく。


「兄さん。どうしたの?いつもとなんだか違うみたい。あの人達と何か関係があるの?」


クララが、沢山のことを一息に言う。


「あの人がヘスさん。とっても優しいんだよ。しかも強い。僕が乱暴な人族の男に捕まりそうになった時助けてくれたんだ。あとついでに、あれがヒロ。」


おい。グラン。

相変わらず俺の扱いが雑だぞ。

もはや、『あれ』扱いか。


「そうだったんですか。そんなことも知らずに、いきなり飛びついてすみません。ヒロさん。」


うん。クララは素直ないい娘だ。


「全然気にしてないよ。それよりもこれを食べよう。」


俺は先ほどまでアイテムボックスにしまっていた、食べ物を出す。


あー。

クララもグランも驚いている。


「ユニークスキルですか…。」


まぁ、違うけど、そういうことでいいや。



クララはお腹が空いていたのか、沢山食べる。

もう、話しかける隙間ないほどだ。

特に、俺もオススメの肉串は好評だった。


しばらくすると、お腹がいっぱいになったようなので、少し提案してみた。


「クララもグランもお金が多分ないんだよね?じゃあ、俺とヘスと一緒に冒険者してみない?」


俺は出来る限り、優しく言った。


「一緒に来るなら、働きに見合った報酬を出すよ。」


おそらく、これは好条件だろう。


普通、獣人。それも子供を雇う人なんて少ないだろうからね。


それに実際、それでお金が無くてスリをしてしまったんだろうし。


「やらせて下さい。」


クララは乗り気のようだ。


「べ、別に俺はやりたくないし。」


うん?もしかしてグランってツンデレか?


男のツンデレキャラなんて誰にも需要ないだろうから、やめた方がいいと思うぞ。



とにかくこれで、クララとグラン。二人の獣人兄妹は、俺たちの仲間になったのだった。



************************



クララとグランと別れ、俺たちは宿である「夕焼けの湖」の前についていた。


この宿は、裕福な商人などが利用することもあるそうなので、見た目から立派に作られている。


まず、普通の宿と違いしっかりとした庭がついている。


さらにその庭には、季節の花、現在は春なのでチューリップと桜が咲いている。

どうやら、花は地球と変わらないようだ。


そして、色とりどりのチューリップと桜が咲き誇る庭を抜けると、そこにはやはり立派な玄関がある。

地球のスイートルームの扉も比にならないくらいの大きさである。


さらに、扉やその周りの壁に彫られている模様がまた素晴らしい。



「ようこそおいで下さいました。」


扉を抜けると、メイド軍団が待ち構えていた。


メイド喫茶以外でこれほどの数のメイドを目にする日が来るとは…。

人生は何があるかわからないものだ。


ヘスは、いつも通りすました顔をしている。


もうちょっとおどろこうぜ。


ヘスの感情を引き出すことも今後の課題の一つだな。



「ギルドの紹介で来ました。ヒロと言います。」


この世界の礼儀作法はわからないが、無難に挨拶をする。


「お話はお伺いしています。私はこの宿の総支配をしておりますセントールと申します。」

いきなりすごい人が出てきた。


ギルドは、何を伝えたんだ?


「ヒロ様並びにヘス様は、冒険者ギルド始まって以来の期待がかかる冒険者だとお聞きしています。そのため、ギルドの支援により格安でヒロ様方にはお泊りいただけます。」


ギルド。大袈裟に伝えすぎだよ。


まぁ、今回は格安で泊まれるから文句はないけどさ。


実はあんまり目立ちたくないんだよねー。

子供の頃から強さを隠して影で活躍する主人公に憧れてきたからな。


まぁ、もう十分目立ってる気もするけどな…。


「こちらへどうぞ。」




セントールさん直々に案内してくれた部屋は、とても広い。


部屋にマッサージ部屋。風呂二つ。寝室二つ。そして、大きなメインフロアがついている。


これで、ビルの高層階とかだったらシンガポールにある、マリーナベイサ◯ズってホテルのスイートルームそのものなんだけどな…。


ていうか、絶対高いよねこの部屋。

そのシンガポールのホテルなんか一泊100万円もするんだよ。


「お代はいくらですかね?」


失礼なのは、わかっているが流石に散財はできないので聞いてみる。


「お客様には特別に金貨二枚で一週間の滞在をしていただけることになっております。」


すごい。安い。


俺の今の所持金でいくと、働かなくても二十週間以上宿泊できてしまう。


冒険者ギルド万歳。




ぐー

隣でお腹が鳴った。


ヘスが赤面している。


今日は結構歩いた上に、ヘスは人狼兄妹にご飯を分けてあげて、自分があまり食べてなかったからな。


今日起こった出来事のはずなのに、ワイバーンを倒したことが遠い過去のようだ。

ていうか、この世界に来てまだ1日目なのか。

ハードな1日だったな。


「よし。ヘスご飯を食べるか。」


「かしこまりました。当店オススメのマツサカ逆のステーキを用意させていただきます。」


さすが総支配人だ。

客のことをよくわかっているな。




待つこと数分。


わざわざ部屋までステーキを運んで来てくれた。

ちなみに、ステーキの他にもコーンスープ、サラダ、パンなどがセットとなってついている。


普通は、サラダや、スープから食べるべきなのだろうが、俺は待ちきれなくてステーキを口に運ぶ。


「美味しいですー。ヒロ様ー。」


同時にステーキを口に運んだヘスが言う。

美味しすぎて、いつもより緩い喋り方になってしまっている。


まぁ、それくらい美味しいということだ。


焼き加減はウェルダンに近くかなりしっかりと焼かれているにも関わらず、肉汁が溢れ出してくる。


また、日本の和牛も比べ物にならないほど柔らかく、しかし肉を食べているということを感じさせるだけの噛みごたえはある。


そのステーキに奇跡的な配合で生み出された、至高のソースがかけられている。


美味い。




俺とヘスは至福のひと時を過ごしお腹が膨れ上がったのだった。



************************



至高のステーキを味わった後、俺は自分の地球での記憶を整理することにした。


俺は、佐藤大翔。


地球では、一介のサラリーマンとして生きていた。


最後に記憶にある年齢は、35歳。

中年真っ盛りだ。


そして、何故俺がここにいるかだが、そこに関してはまったく記憶がない。


いや、ないというよりかは思い出そうとすると何か霧のようなものが頭にかかるというイメージだ。


この記憶に関しては、おいおい考える必要がありそうだ。


そして、最も重要なこと…。


それは…、


俺の現在の風貌だ。


地球では、俺は中肉中背。

髪は真っ黒で眉のくらいまでの長さ。

そして目は細く。

鼻は低くはなく、かといって高くもなく。

口は少したらこ唇になりかけのようなものだった。

今思っても、本当にいいポイントが思いつかない。


では、一体俺は現在どのような姿なのだろう。


今まで部屋に鏡もあるが、あえて見ないようにして来た。


異世界転生では、姿が変わることもよくあるためそこに期待しているのだ。


では、鏡を覗くか。


いや、落ち着け。

みて、地球よりも悪くなっていたらどうする。

俺は、生きていけないぞ。


心配になってきた。


しかし、もしかすると最高のイケメンになっているかもしれない。


「よし。」


俺は、覚悟を決めた。


「イケメン。こい!!!」


俺は鏡を覗く。


「きたー!!!!!!!!」


うるさいくらいに叫んでしまった。


当たりだ!


俺は、背は185センチほどのスマートな体型。

そして、赤い髪。赤く燃える綺麗な瞳。

そして、高い鼻。

整った口。


この全てを備え、地球よりもかっこよくなっていた。


異世界転生サイコー!


今夜はこれでゆっくり寝れそうだ。



そして夜になり、俺が眠りにつこうとした時、ノックの音がした。


「ヒロ様。入ってもよろしいですか?」


ヘスだ。


もう片方の寝室で寝るように言ったのにどうしたのだろう。


何かあったのかもしれない。


「いいよ。」


俺はヘスを心配して、入るように促す。


すると、ヘスは部屋に入ってくるとすぐに俺の布団に潜り込んできた。


「へ?」


間抜けな声が出た。


「ど、どうした?ヘス?」


俺は、驚きのあまりうまく話せない。

俺は、どう対応すればいいんだ?



「ヒロ様。ヘスは一人では眠れないのです。」


あー。そういうことねー。


俺が、そんなことを考えているうちにヘスは眠ってしまった。


寝るの早すぎ。


俺は、どうすればいいんだ。

寝ようと思っても、隣にこんな可愛い子がいたら眠れないよ。





朝が来た。


ヘスは、ぐっすり眠りたっけていたのでよかったのかもしれないが、俺は、結局ほぼ眠れなかった…。


今日の予定は、毎日の日課のガチャ。

そして、クララとグランの冒険者ギルドへの登録。

さらに、ギルドでの初クエストだ!


もちろん美味しいものも食べたいな。


今日も、異世界生活の始まりだ!

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