ラーマでの生活の始まり

街は、人で溢れかえっていた。


「そこのあんた。駆け出し冒険者かい?肉串買ってきなよ。安くしといてやるぜ。」

露店商の男が声をかけてきた。


うーん。美味そうだ。

腹も減ってきたし、食べてみるか。


「じゃあ二本で。」


「まいどあり!青銅貨四枚だ。」


おー。本当に安い。


金は、さっき売ったワイバーンの魔核が金貨五十枚で売れたので十分ある。


俺は青銅貨四枚を出現させた。


「またきてくれよな。」


見送る露店商を後にして、俺たちは歩き出す。


「ヘス。」


肉串を渡すと、ヘスはそれを美味しそうに食べ、こちらを向き、キョトンとする。


「ヒロ様は食べないのですか?」


おっと。ヘスを見ることに夢中になっていた。


肉串は、かじると味が滲み出てきた。


少し硬めの中だが、またその硬さも良い。


美味い。


これで、青銅貨ニ枚か。


俺なら小銅貨四枚でも買うな。


その後、俺とヘスは肉串を含めフライドポテトなどをたらふく食べた。


うん。もうお腹がいっぱいだ。


じゃあ、冒険者ギルドに向けて再出発するか。



ギー

年季の入ったドアを開け俺たちは冒険者ギルドに到着した。


ギルドの中は、活気があふれており依頼が貼ってあるであろう壁の前では、たくさんの人々が、真剣に選んでいる。


また、ヘスのことを見ている人も多い。


冒険者という職業は、危険な仕事のため女性からは敬遠されるのであろう。


そのため、女性の冒険者は少ない。


なので、女性であるヘスが珍しいのだろう。


これからは、しっかりと目をつけたかなければならないな。

せめてそこだけは、主神らしくあろう。


そんなことを、考えつつギルド内を横断しカウンターに向かう。


カウンターには、エルフのお姉さんもいる。


よし、わざとそっちに向かうか。


よし、予定通りついたぞ。


「冒険者登録ですね?銀貨一枚が必要ですがよろしいですか?」


エルフのお姉さんが言う。


「はい。よろしくお願いします。」


「こちらこそ。アイリーンといいます。」


なるほど、アイリーンさんか。


アイリーンさんは、緑色のロングヘアーで、いかにもできる司書といった感じの落ち着いた雰囲気を醸し出している。


体型も、男性の視線を引きつける魅力がある。


「では、登録を始めます。」


「まず、説明をします。登録のために必要なのは、こちらのカードに手をかざすことだけです。手をかざすと名前、レベル、ステータスがカードに浮かび上がります。」


「ちなみに、カードの色はレベルによって自動で変化します。色はレベル1から10が白。11から20が黄色。その後10ごとに、緑、青、赤、銀、金となり、81以上は黒になります。黒は、現在三人しかいません。黒色の、ギルドカードを夢見て頑張ってください。」


アイリーンさんは、こう言って微笑んだ。


美しい。

惚れてしまいそうだ。


「では、実際にやって見ましょう。どちらから先に行いますか?」


なるほど、功績でカードの色が変わるのではなく、レベル制なのか。


「じゃあ先にヘス、やってみて。」


「わかりました。」


ヘスが手をかざすとカードが明滅し虹色に光った。

そして、銀色になって止まったのだ。


アイリーンさんの口が大きく開いている。


「あっ…。では確認します。」


これで分かったヘスのステータスはこうだ。



「レベル 63 ヘスペリス

HP3500 ATK3700 MP4800」


どうやらこれは、ベテラン冒険者並みの数値らしい。


すごい。


俺には、これしか言えない。


てか、ベテラン冒険者すごいな。

ワイバーンを楽勝で倒せるんだ。


怖いから、あんまり関わらないようにしよう。

いや、仲良くしといて助けてもらおう。



次は俺の番だ。


何故かギルド内が全員俺に注目している。

おそらく、ヘスが銀色のギルドカードだったのをみていたのだろう。


やりにくいな。


俺は手をかざす。


そしてカードが明滅し虹色の光を放った…。



************************



俺は、落胆した。


異世界に転生して、活躍できると思っていたのに。

そのために、最初からレベルが240くらいあると思っていたのに…。


そう俺のギルドカードの色は白色。

レベルが1だったのだ。


心なしか、ギルド内の人々も期待を裏切られたような顔をしている。

いや、ライバルが一人消えて嬉しそうにしている人の方が多いか…。


まぁ、でもそんな烏合の衆のことはどうでもいい。

悲しいのは、アイリーンさんが受付カウンターの中で落胆していることだ。


もう、これで彼女と話すことはないかもしれない。

その一方でヘスは、平然としている。


ヘスはいいよな。

顔がいい上に、強くて。

どちらか、片方でも分けて欲しいよ。

てか、今気づいたけど俺って今どんな顔してんの?

死んだ時のままかな?

まぁ死んだ時の記憶も曖昧だし、記憶の整理ついでに後で確認するか。

閑話休題



「では、確認します。」


アイリーンさんの声が心持ち暗い。


そんなに俺に期待していたのだろうか。


うん。そんなことを考えるな。


俺は、冷静にいるべきだ。


異世界に来た時も冷静だったじゃないか。


こんなことで取り乱すな。


俺はなるべくアイリーンさんの方を見ないようにしてそんなことを考えていた。


「ヒ、ヒロさん…。」


アイリーンさんの声がする。


しかも、声が震えている。


そんなに俺が雑魚かったのだろうか。


アイリーンさんの顔が見たくない。


おそらく、俺を心の中では馬鹿にしているに違いない。


しかし、顔を上げなければ。


俺は、重い顔を上げた。


しかし、そこにあったのは落胆しているアイリーンさんの顔ではなく、希望に満ちた顔だった。


「素晴らしいです。」


俺にはなにが素晴らしいのか、理解できていない。

俺はレベル1なのですよ。


とにかく、アイリーンさんが俺にもう一度ギルドカードを見るように言ってきたのでみてみよう。



「レベル1 ヒロ

HP4600 ATK4600 MP6400」



へ?

あれ?一桁間違えたかな?


「素晴らしいです。」


再度アイリーンさんが言う。


「レベル1でこんなにステータスが高い人は、歴史上でも確認できません。」


「おそらくこのステータスは、レベル80並みでしょう。」


おー。

いきなりすぎて、また脳みそが付いて行かなくなりかけた。


我ながらチートだ。


やはり転生者には、チートステータスが備わっているらしい。


とにかくよかった。

ヘスより強くて。


これで主神の面目が保てる。


ていうか待てよ、ワイバーン、逃げずに俺が倒せたんじゃ…。

ヘスにかっこ悪いところ見せてしまった。


でも、これで異世界ハーレムライフが始められる。


では、ここでどこかで聞いたセリフを。


「ハーレム王に、俺はなる!」


あっ。もちろん心の中でしか言ってないよ。



************************



ギー

俺たちは冒険者ギルドを後にした。


出る時冒険者たちから、恨めしそうな目線を感じたのは気のせいだと思っておこう。



俺たちは、あの後アイリーンさんから冒険者としての話を聞いた。


ここでは、話を要約して話そう。


まず、冒険者は依頼をこなすことでお金を手に入れる。


そしてその依頼は、AランクからHランクに分けられており、それぞれAランクがレベル81以上の冒険者推奨のクエスト。Bランクがレベル71以上のクエスト。というように、ギルドカードの色で推奨クエストがわかるそうだ。


基本的に誰でも、どのレベルのクエストでも受けれるようになっているが、推奨レベル以上のクエストを受けて負傷した場合は、ギルドは保証しないらしい。


俺の場合は、レベル80相当のステータスがあるが、レベル1で新人冒険者のため、CやDランクのクエストを勧められた。


うん、レベル1でレベル50や60のクエストをするとは。

普通の人が聞いたら自殺志願者かと思うだろう。


また、クエストで要求されている素材以外のものでも、ギルドが買い取ってくれることもあるらしい。


他には、ポーションの使い方などを教えてもらった。


アイリーンさんの説明はとても優しく、時々上目遣いで見つめてくるのでドギマギしてしまった。


本当にアイリーンさんは美人だ。


恐らく、男性冒険者のファンも多いのだろう。


もしかして、これが先ほどの冒険者たちの冷たい目線につながったのか…?



そして今、俺たちはギルドに紹介された宿に向かっている。


『夕焼けの湖』というなんともロマンチックな名前の宿だ。


とにかく、飯が美味いところを探してもらったら、ここが見つかった。


どうやら、マツサカ牛という聞き覚えのある牛のステーキが美味いと評判らしい。


「マツサカ牛早く食べたいな。ヘス。」


「はい。そうですね。」


ヘスがにこりと笑う。

ヘスは、表情の起伏が少ないから笑顔はとてもレアだ。


しかし、とても可愛い。


普段から笑っていれば…。



おっと、マップ上を二つの点が移動してくる。


「こら。待てー!」


大きな声が響く。


前を走っているのは、15歳くらいの男の子だ。


銀色の髪をしていて、少し今は顔や服が汚れておりわかりにくいが、美青年と呼べる風貌をしている。


そして、なんといっても頭の上にある狼のような耳だ。


獣人発見!


今まで見なかったから、この世界にはいないのかと思っていた。


そして、それを追いかけるのは、人族の男。


「スリだ。あいつを捕まえろ!」


人族の男が叫ぶ。


どうやら、人狼少年はスリに手を出してしまったらしい。


人族の男が、人狼少年に追いつきかけている。


グー

人狼少年のお腹が大きく鳴る。

どうやら人狼少年は空腹で力が出ないようだ。


そして、ついに追いつかれてしまった。


ドカン。

人族の男が、人狼少年を地面に倒した。

そして、その上に乗る。


「獣人が。人様のものを取るとはいい度胸だな。」


男が、今にも殴ろうと手を振り上げたその時…。


「辞めなさい。」


ヘスが、男を投げ飛ばした。


手加減はしたようで、男はすぐに起き上がったが、ヘス。投げ飛ばすのはやりすぎだ。


ほら、男の顔が赤くなり怒りマークがつきそうなくらい怒っている。


恐らく、殴る邪魔をされた怒りと、女に投げ飛ばされた恥ずかしさからくるのだろう。


このままでは、大きないざこざが勃発しそうだったので、俺が動こう。


「申し訳ありません。私の仲間があなた様のような男らしさが溢れる素晴らしい男性に迷惑をおかけしまして。」


俺は素早く人狼少年から、男の財布を取り返す。

そしてそれと、一枚の金貨を男に握らせる。


「どうか、許していただけないでしょうか。」

男は金貨をみて、ニヤリとした後、


「いいだろう。次はないからな。」

と言って去っていった。


なんとも、モブキャラらしいセリフだ。



俺は男を見送った後、人狼少年に向き直る。


「君。名前は?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る