第5話
「はぁ。それで、つまり、あなたは、華子のことが好きで崇拝してるわけですね?」
目の前の胡散臭い男、星野をじろり睨んだ。
「いえいえ!確かに華子さんのことは愛していますが、俺は、その、崇拝とかじゃなくて......」
じゃあ、なに?という言葉を飲み込んで、私は、目の前の慌てふためる男の顔を見た。
「華子さんを見てると俺、寂しくなるんです。二人でいても、ふと、頼りない顔をする時があるんです。ーーそれでーー華子さんとずっと昔から知り合いだっていう成瀬さんならなにか知ってるかなって......」
「寂しそうな顔ねぇ......」
私は、そう言えば、創太も似たようなことを言ったことがあったっけ、と思い出しながら、星野くんの言葉を繰り返した。
あの時も、隣の私に、はなちゃんは、僕といてもつまらないのかな、と相談を持ちかけたアホは、隣の私がどんな顔をしているかなんてまったく気にしていなかったと思う。
「知らないわよ、そんなこと」
私の声に、星野くんは少し不愉快そうな顔をした。
「華子さんのこと嫌いなんですか?」
勝手なこと言ってくれる。私は、あの子は、元カレのこと想ってるのよって教えてあげたら満足するのかしら、なんて考えながら、星野くんの長い指が机をたたくのを見ていた。
「はっきり、言うとね、寂しい顔に気づいてもらえることほど、しあわせなことってないわよ。自分で訊いてみたらいいじゃないの。気づいて貰って心細さが減らない女なんてただのわがままよ」
私は、無性に華子に会いたくなった。お店のカーテンが揺れて、金木犀の匂いが入ってきた。
「古くさいカフェすよね」
「なにか、問題でも?」
星野くんの、発言が少し不愉快で、私はつっけんどんに訊いた。
「いいえ、こういうのいいなって。」
「そう。それはよかった。マスター、おかわりもらえますか?」
私の声に、オールバックのハンサムがこちらにやって来た。
「華子くんの、勤務時間とずらしてまでここに来る必用はないと思うがね」
マスターの呆れたような一言に私は、いいじゃない、と手を降った。
「え、ここ華子さん働いてるんですか?」
「そうよ。でも来ないでね?華子華子されたらたまんないから」
キラキラと目を輝かせた星野くんに私は冷たく言った。
そのあとはなにを話したかあまり覚えてなかった。ただ、なんとなく、星野くんのことは嫌いだと思った。
私は、パンプスを脱ぎ捨てると、しばらくそれを見て、中に入ったが、手を洗っても、どうしても靴が気になって、きれいに並べなおしに行った。
「くだらない」
私の周りの男は、みんな華子が好きだ。そう思うと、なんだか虚しくなった。
並べられたパンプスを見て、私は、華子の雨の色のパンプスを思い浮かべた。
「創太」
創太は、私と、華子が一緒に声をかけたら、やはり華子をさきに見ただろうか。知りたいような知りたくないような気がして、髪をまとめて脱衣所に向かった。
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