第6話 熱情

 私は、薄暗い部屋に入って、カーテンを閉め、電気をつけた。電気は、パチパチとなって明るい光を灯した。

 台所に立って水道の蛇口を捻ると、カフェで働く華子が、長く白い指でお皿をあらう姿が、頭を横切った。

 星野くんと会うと華子のことを考えてしまう。私は、疲れた気分になって蛇口を閉めた。

 お風呂から出て、窓を開けて網戸だけになったベランダの前に座って風に当たっていると、電話が着信を知らせた。私は、重たい腰を持ち上げるようにして立ち上がった。

「はい、もしもし?」

ホシノデス、という声は、なかなか星野くんと結び付かなかった。

「あぁ。星野くん、こんばんは。どうしたの?」

「今日、華子さんと会ったんだ」

「なんで、私に言うの?」

「華子さんが、君が妬くって言ってたから」

「そう。面白いこと言うのね......ところで敬語やめちゃったの?」

華子が、私のことを話したというのがなんだか嫌で私は軽く流した。

「別にいいじゃないすか」

「そうねーーそれで、ーーどこであったの?」

「庭園のあずまやです」

「公園のあずまやね......」

私は、しあわせそうな星野くんが、かわいそうになった。

「あそこ、雨が降るともっと綺麗なのよ。艶っぽくて」

私は、雨が降る日本庭園のあずまやで、男女二人が並んで座っているのを想像してみた。華子と、創太の二人。華子の陶器のような肌、創太の長い睫毛。

「雨の日にあそこに行くとね、雨の色がわかるわよ」

私は、少し、意地悪を言いたくなって、なんにも知らない電話口の星野くんに、にっこりと伝えた。あなたの入る余地はありません、と。もっとも星野くんは気がつかなかったようだけど。

 私は、挨拶をして電話を切ってしまうと、ひどく惨めな気持ちになった。

 私は、続きを想像した。柔らかい手で、創太の頬に触れる華子。慈しむように華子を抱きしめる創太。そこに、私の入る余地はなかった。 

 美しい一組の男女は絵画のようで、どうしても、仲間に入りたくなった私は、風になって二人の隙間を通る想像をしてみた。ふんわりと、華子と創太を包む私。

 

 いつか、華子に、創太が好きなのか、と聞かれたことがあった。そのときに私は、すぐに答えられただろうか。頭の片隅でそんなことを思い出しながら、私は、布団を敷いた。ゆっくりと、丁寧に。

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