1-3お姫様は主人公になりたいようで

「いやいや、何の冗談だよ。俺と劇だなんて。バカにしてるのか。」

俺は円谷の方を振り向いてそう答えた。学祭で劇なんて陽キャがすることだ。陰キャの俺が舞台になんかたってみろ。氷河期の再来だ。


「私は本気だよ。」

どうやら円谷は氷河期の再来を望んでいるようだ。


「なんだ?俺を晒し者にでもしたいのか?」

しかし、彼女の答えはやはり意味の分からないものであった。


「君は人生で輝いたことはあるかい?」

質問を質問で返された。


「あるわけないだろ。俺は物語にも登場できないモブ以下の人間なんだから。」

組み立て途中のベッドに向けてそう答えた。つくづく彼女は人の劣等感を煽ってくる。


「だからさ、ここでさ、人気者が輝くためにある学祭の舞台で私たちみたいな日陰者の人間がバッ…、って場を沸かせることができたら凄くキラキラできると思うんだよね!目指せ学祭ハイジャック!的な!どう?面白そうでしょ!そうすれば君も物語の主人公になれるよ。いや、でも劇の主人公は私かな。だから、脇役!君はこれから物語の脇役になるのです!」


今までの人を見下すような声色から夢を信じるような少女の声色になったのが後ろを向いててもわかる。まあ、円谷の顔を見てないからそこしか感情の判断材料が無いのだけれども。

そういう眩しさは嫌いだ。自分は手に入れることができないと諦めてしまったものだから。

それに非現実的過ぎる。俺と組んで学祭の劇なんて出れるのか。出れたとしても成功なんてできないだろ。



「嫌だ。」



俺は円谷を見ずにきっぱりとそう答えた。


「嫌って何?もしかして脇役が嫌なの?えー、どうしようかなー。主人公の座は譲りたくないからダブル主人公にでも…」

「劇なんて出ないっていってるんだ!」


俺は円谷の言葉を遮るように少し声を荒げて答えた。

今円谷はどんな顔をしているだろうか?ちょっとくらい怯んだ顔をしてくれていると嬉しいのだがたぶんそんな顔はしていないだろう。


円谷とこれ以上会話をするのは危険だ。陰は日差しを嫌う。


俺はここから逃げるために立ち上がった。


「ベッドはほとんど完成した。分かんないところは説明書読んで自分でどうにかしろ。本棚も自力でやってろ。自分のだろ。」


俺はそんなみっともない捨て台詞を吐いて言うほど完成していないベッドを置いて走って部屋を出ていった。「ちょっと!これ完成してないでしょ!」って声が聞こえてきたが俺は気にしない。


ざまあみろ、と思いながら出ていったがその時俺はすぐに夕飯で円谷と再会するということをすっかり忘れていた。

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