1-2お姫様はわがままなようで

俺はとても悪いタイミングで彼女と出会ってしまった。

よりにもよって『下着』を持っているタイミングで。

そしてもう一つ誤算があった。


彼女はとても美しかった。


身長は俺と同じくらいか、いや、気持ち少し低いくらいか。

俺が172cmだから170cmあるかないか。そしてモデルと見間違えてしまうばかりの身体の細さ、脚もスラっとしてて長く、ぱっと見8頭身くらいに見える顔の小ささ。顔も非常に整っておりつり目の具合から気の強さも伺える。


で、要するに俺は彼女に見とれてしまい返答をし忘れてしまった。


「ちょっと無視しないでよ、不審者さん?それとも変態さんかしら?」


その言葉と見下したような目で俺は我に返った。どうやら俺は酷いMではないらしい。


「不審者でも変態でもないよ。俺は優子さん、あっ寮母さんに本棚とかベッドとか作ってあげてって言われてね。仕方なくこの部屋に来て、仕方なく作業していたんだよ。」


俺は目を泳がせながらそう言った。彼女の目は怖い。自分という人間を簡単に見透かされてしまいそうだ。そして『下着』、どうしよう…。


「ふーん…。」


さらに見下された。あれっ?なんか汗出てきた?おかしいな?まだ四月だぞ。


「まあ寮母さんの話は私からしてくれたら嬉しいな的なこと言ったから信じてあげるわ。ただ下着入ってる段ボール持って汗だらだらで目を泳がしてる人間は変態にカテゴライズできる気がするのよね。」


俺は再び『下着』の段ボールを足の甲に落としてしまった。今回は「イタっ!」と反射的に反応するための神経は遮断されていた。

「いや、これはですね。ベッドとかの組み立てをするためのスペースを確保しようと思って段ボールを端の方に動かしていた訳であってですね、決して疚しい気持ちがあったわけではないんですよ。ははは、ははは、はははは……、」

疚しい気持ちは無かった。だがしかし、『下着』と言う単語には反応してしまった。男の子だもん。無感情ではいられないよね。


「はぁ…。まあいいわ。これ以上あなたをいじめても面白みがないし。」

「それに下着を見られたわけでもないし…。」


いじめってあなたドSですか。と思ったが頑張って声には出さなかった。女の子に余計なことを言うべきではないからね。本気で殺しにかかる人もいるし、亜夜とか、亜夜とか、亜夜とか…。

それとなんか後半ぼそぼそと言ってたけど何だったのだろう。勿論俺は聞き返さないぞ。

亜夜だったら「もう!お兄ちゃんのバカッ!」と言いながら全力ビンタだ。俺はそういう属性の持ち主ではないので勘弁である。


さて、『下着』を持っていたことを許されたことだし、


「じゃあ、邪魔だろうし俺はここからから出ていいかな?」


と平穏を選択した。ベッドとかの組み立てとかダルいし。


「何言ってんの?仕事は済ませないよ。」


俺は現状彼女には勝てないことを悟った。



そして、俺はベッドの組み立てを始めた。

彼女は部屋の隅に置いてある勉強机の椅子に反対向きに座り俺の作業を静かに眺めている。


なんだ、この状況…。


「ねえ。退屈なんだけど。なんかしゃべって。」

話し始めは彼女の方だった。


「なんかしゃべってって、いや別になんもないよ。」

なんもないんだ。興味の無い人間に対して話すことなんてないからだ。

興味が無いというよりは興味を持つことが怖いんだ。誰かを知るということは自分を教えることと同義となる。


「なんもないって失礼ね。絶対君モテないでしょ?というか友達いる?」


「…ッチ、うるせえな。」

子供レベルの煽りに子供レベルの返答しかできなかった。悔しいというよりはむかつく。自分にも彼女にも。


「図星ね。ところで君は一体何者?」

全く自分本位な奴だ。というか何者ってどういうことだ。


「何?日本語理解できないの?こっちは自己紹介してって言ってんの。名前くらいさっさと教えなさいよ。私としてはあまり嬉しくないけどこれから1年間一緒なんだから。」

ああ、そうかお互い名前を知らないまま会話してたのか。それにしても気に障る口調だ。親の顔が見てみたいものだよ。


「明。花折明。学年は3年で部屋は201号室だ。…そっちは?」


「そっちじゃないわ、花折君。私は円谷咲姫。名前では呼ばないでね。」


「呼ばねえよ、気持ち悪い。」

本当に気持ち悪い。嫌ってるような気がするけど、近づいてきている気もする。


そんな俺の気持ちを他所に円谷は意味の分からないことを言ってきた。


「ふふん。よく分かったわ。君は友達もいないし、面白くもない。私が最も望んでいた人材だわ。」


「なんだ?喧嘩売ってるのか?」

果てしなく意味が分からない。世の中で最も望まれないタイプの人間だろそんなの。

しかし、俺の考えとは裏腹に円谷の言葉はもっと明後日の方向に飛んでいった。




「私と一緒に学祭で劇をしてくれない?」









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