第5話、これぞ真に現実的な異世界転移だ⁉

 ──気がついたら、僕は、『異世界転移』をしていた。


「………………」


 いや、何をいきなり馬鹿げたことを言い出しているんだ──と、自分でも思わないでもないのだが、


 ──の大空に、おそらくは『ドラゴン』と思われる巨大生物が、四、五匹ほど群れをなして飛んでいる姿を見れば、誰でもそう思わざるを得ないであろう。


「……とはいえ、僕も最初のうちは、単なる記憶喪失か何かかと思っていたけどな」

 それというのも、最初に時、すでに自分が置かれていた状況が、あまりにも前後の脈略がなさ過ぎたのだ。

 ほんのついさっきまでは、地方都市とはいえ現代日本としては極ありきたりの、中高層のビルが何軒も並び立っている市街地にいたはずなのに、何と眠ったり意識を失ったりした覚えのないままに、見渡す限りの大草原のど真ん中にたたずんでいたのである。

 もちろん、ただそれだけのことで、自分の身にいきなり異世界転移なんていう超常現象が起こってしまったなぞと、決めつけたわけではなかった。

 目の前の光景は確かに見覚えのないものではあったが、けしてまったく非現実的なものとも言えず、例えばほっかいどうや海外においては、結構目にすることができるであろう。

 ただし、現時点の僕自身には、北海道に行った覚えも海外旅行に出かけた記憶も、微塵もなかった。

 そこで自分のことを、突発的な記憶喪失にでもなったんじゃないかと疑ったのであるが、着ているのがご近所への外出用の普段着のままであり、所持しているのも財布とスマートフォンだけという、まさしく記憶が途切れる寸前までと同じ格好をしているので、とても北海道や海外を旅行中とも思われなかったのだ。

 ……そもそも空の色が、地球上ではけしてあり得ないし。しかもそのうち、ドラゴンみたいのが飛んでくるし。


 ──何はさておき、現時点における最重要の緊急課題は、「これからどうするか?」であるが、その前提条件として、現下の異常なる状況を、ある程度論理的に説明付ける必要があった。


 例えば僕が、そこら辺のありふれた十把一絡げのWeb小説の主人公なら、自分が唐突に異世界に送り込まれたとしても何ら疑問を持たずに、「うほっ、これって異世界転移じゃん! ラッキー♡ ようし、ここに転移する直前に女神様にもらったチート能力で、ハーレム築いてウハウハだぜ!」とか、頭の悪そうな台詞を口走りながらゲーム脳全開で、最初にエンカウントした雑魚キャラであるコボルトの群れあたりを殲滅して、経験値を貯めたりレベルを上げたりしつつ、いかにもタイミング良く盗賊やオークに襲われていたやんごとなき御令嬢をチート能力で救ってやり、それをきっかけにして最初のクエストが開始されるといった、うんざりするほどありふれたストーリーの流れになるところであろうが、生憎とこちとらあくまでも現実の存在であり、どこまでも常識的思考しかできない極一般的な男子高校生に過ぎず、自分が現在置かれている異常きわまる状況にある程度の理由付けができない限りは、のんきにいわゆる『なろう系』作品の主役を演じる余裕なぞありはしなかった。


 まず第一に挙げられるのは、これが夢だということである。


 ──だが、残念ながらそれについては、除外して考えるべきであろう。


 それというのも、夢と現実との関係はけして絶対的なものではなく、確かに現実と思われたものが実は夢であったり、また逆に、夢でしかあり得ないと思われていたものが実は現実であったりすることは、絶対に無いとは言えないのだ。

 例えば、ここが正真正銘本物の異世界であり、僕は本当に異世界転移してしまったとしよう。

 よってこれから先は、それこそ『なろう系』Web小説において腐るほど行われている、血湧き肉躍る大冒険を経験することになるかも知れない。


 ──しかし、すべてが終わった後で、無事に現代日本に帰還した場合、僕は今回の異世界転移を、『現実のもの』として、見なすことができるであろうか?


 まさしく、Web小説なんかではない『完全なる現実世界』である、現代日本に帰ってきておいて、周囲の人々に「僕は確かに異世界転移したんだ!」と言い張ったところで、「いやいや、おまえはただ単に、なんだよ」と言われるだけではなかろうか?

 しかもそれは、僕自身についても、同様であった。

 確かに自分自身で体験したことなんだから、最初のうちは、「誰が何と言おうが、僕は本当に異世界転移をしたんだ!」と思い続けることができるであろうが、それが、一年、五年、十年と、たっていくうちに、「……僕が異世界転移なんかをしたというのは、もしかしたらただ単に、そういった夢を見ただけかも知れないな」と、思い直すことも、十分あり得る話であろう。

 ──むしろこれこそが、『常識的考え』、というものなのである。


 それに反して、Web作家の皆さんは、あまりにも『常識的考え』が足りな過ぎるのではなかろうか。


 何よりも異世界転移系の小説家の皆さんには、『自分の作品の登場人物の気持ちになって作品づくりを行う』という、作家にとってのイロハのイから、是非ともやり直してもらいたいところである。

 二つ以上の世界の間を移転する、異世界転移やタイムトラベル等を実際に行った場合、本人はいつまでたっても、いわゆる『前の世界』のことを、現実のものとして思い続けることができるのであろうか?

 ──いいや、そんなことは絶対にあり得ないと、断言することができる。

 嘘だと思うんだったら、あなたが実際に戦国時代にタイムスリップしてしまった場面を、想像してみるがいい。

 もちろんWeb小説でもライトノベルでもない本物の戦国時代においては、戦国シミュレーション系のゲームの知識なぞ何の役にも立たず、一瞬でも気を抜くと命を失いかねない状況の中で、否が応でも目の前の異常事態こそを『現実のもの』と見なして、何とか生き延びようと必死にあがいていくことであろう。

 ──そう。戦国時代なんかに放り込まれておいて、「ようしゲームやラノベやWeb小説の知識で、成り上がってハーレムを築いてスローライフを送るぞ!」なんて馬鹿げたことをほざけるのは、それこそゲームやラノベやWeb小説の中においてのみ存在することが許された、文字通り創作物フィクション登場人物キャラクターだけなのだ。


 すなわち、異世界転移などといった状況に見舞われた場合、ほぼ間違いなく夢やゲームや小説の世界であるものと思われようが、実際にその世界の中に存在している限りは、まさに目の前の異世界こそを、夢やフィクションなんかではなく、自分にとっての『唯一絶対の現実世界』と見なさなければならないわけなのである。


 これは『世界というものは現時点においては一つだけしか存在しない』という、非常に常識的な考え方に基づくものであって、もし万一異世界転移やタイムトラベルの類いが行われるとしても、そこには具体的な『転移』や『トラベル』といった二つ以上の世界間の『移動行為』が行われるわけではなく、ある人物が『移動後の世界』で目覚めることによって、それまでは確かに現実世界であったはずの『移動前の世界』が、文字通りの夢となって消え去ってしまうという、いわゆる『夢と現実との逆転現象』が起こるだけの話なのだ。

 しかも現実世界における物理法則に鑑みても非常に正しい考え方なのであって、この世に『質量保存の法則』が存在する限り、ある世界に存在していた人物が突然消え去って、人間一人分の質量が消滅したり、別の世界に異世界転移やタイムトラベルを行って、新たに人間一人分の質量がいきなり増加したりするなんてことは、絶対にあり得ないのだが、ただ単に夢から覚めると別の世界に異世界転移やタイムトラベルをしていて、これまで現実世界と思われていたほうこそがただの夢だったということになれば、物理法則を損なうことなく、事実上異世界転移やタイムトラベルを実現することになるのである。

 更にはこの異世界転移のやり方であれば、本来質量保存の法則的にはけしてあり得ない、『現代日本の男子高校生が、自身の肉体どころかスマホ等の機械すらも伴って』異世界転移を行うことすらも、けして不可能ではなくなるのだ。

 そもそも常識的に考えて、まったく異なる世界が二つ以上存在していて、しかもその二つの世界の間をスマホ等を持ったまま肉体丸ごと行き来するなんてことは、夢や小説やゲームの類いでもなければ、実現するはずがなかった。

 それに対して『夢と現実との逆転現象』方式であれば、僕はただ単に最初からスマホが存在している異世界において暮らしていて、これまでは『現代日本』という夢を見ていただけに過ぎないことになり、すべての物理的かつ論理的問題が解決してしまうのだ。

「……そうだ、そうなんだ、僕は最初からこの世界の住人で、『現代日本』なんて、ただの夢でしかなかったんだ。──さあ、とっとと家に帰ることにしよう」

 そのように無理やり自分に言い聞かせるようにしてつぶやくや、山村のほうへと踵を返そうとした、

 まさに、その刹那であった。


『──あらあら、文字通りのは、そのくらいにしたら?』


 唐突に右手の中のスマホから聞こえてくる、どこか人のことを小馬鹿にしたような、幼い声。

 大きくため息をつきながら、液晶画面へと見やれば、そこには全身黒ずくめの絶世の美少女が、にんまりとほくそ笑んでいた。

「……なろうの、女神」

『はーい、こういった異世界転移モノではお馴染みの、女神様でーす♡』

「──ということは、おまえがように、僕は本当に現代日本からこの世界へと、世界間転移をしたわけなのか? しかも、スマホなんかを持ったままで? 質量保存の法則とかはどうしたんだ? 実はこれもすべては、『女神様』ならではの、人知を超えた御業によるものなのか?」

『いえいえ、むしろこの世のことわりを守護することを旨とする、「夢の主体の代行者エージェント」である私が、物理法則を無視した方法で異世界転移なんかをさせてあげるわけがないでしょう? それをやったのは、この世界最大の人間国の宮廷魔導師連中よ。何が何でも魔王を倒すためには、どうしても異世界から勇者を召喚しなければならないのですからね』

「………………おい、まさか『すべては魔法の為せる業だから』ってことで、物理法則をガン無視するつもりじゃないだろうな?」

『嘆かわしいことよねえ。ただ「魔法」や「魔術」が存在しているというだけで、何でもかんでも実現可能にする、インチキWeb小説ばかりがはびこっちゃって』

「他人事みたいに言うなよ! だったら女神であるおまえは、何をやっているんだ⁉ 物理法則がいい加減な世界なんて、まともに生きていけるわけがないだろうが!」

 もはやたまりかねてまくし立ててれば、途端に冷ややかな表情となる、女神を名乗る少女。


『──だからこそ、「作者」であるあなたをこの世界に転移させて、魔法文化に物理法則を──特に量子論と集合無意識論とを、導入させようとしているんじゃないの?」


 なっ⁉

「『魔法上等』のファンタジー異世界に、量子論と集合無意識論を導入するだと? それに僕が『作者』って……」


『ほぼ100%の的中率を誇る「正夢体質」であるがゆえに、夢で見た出来事を小説にしたためれば、それをほぼそのまま現実のものとすることができる、禁忌の一族神楽かぐら家においても更に特異なる存在、「かた」であるあなただったら、この異世界の「作者」となり、すべてを意のままにすることなぞ、造作もないでしょうよ』

 ──っ。

「……知っていたのかよ」

『ええ、もちろん。──何せその力があってこそ、あなたは御神楽家において最も忌まわしき「不幸な予言の巫女姫」だった、最愛の御主人様にしておんお嬢様を、一族の古き因習から解き放つことができたのですからね」

「それで、僕はこの異世界において、一体何をすればいんだ?」

『そりゃあ、「作者」に求められることなんて、決まっているじゃない?』

「はあ?」


『小説を書くのよ、これからあなたがこの異世界で体験する出来事の、一部始終を細大漏らさずにね。──そうすれば私がそれをネットに上げて、現実世界において世界中に公開してあげるから』



「世界中に公開って、このスマホ、現実世界のインターネットと接続しているのかよ⁉」

『だって、最初に会った時言ったでしょ? 私こと『なろうの女神』は、ネット上の「電子プログラムの妖精」のようなものだと』

 ええー、あれって、ふざけていたわけじゃなかったのかよ?

「いやでも、何で異世界と現代日本とを、ネットで繋ぐことができるんだ⁉」

『厳密に言えば、このスマホが直接コネクトしているのは、現代日本で言うところの、ありとあらゆる世界のありとあらゆる存在のありとあらゆる記憶や知識が集まって来ている、いわゆる「集合的無意識」なのであり、その下位互換的存在である、無数のパソコンを介して現在及び過去における世界中の人々の記憶や知識が集まって来ている、いわゆる「電脳版集合的無意識」とも言い得るインターネットとは、現代日本において接続することができるわけなの。──つまりは、あなたはこのスマホで小説を書いたり書き換えたりすることによって、集合的無意識を直接改変できるわけで、異世界の一つや二つを意のままにすることなぞ、朝飯前って次第なのよ。特に現代日本において大のSF小説マニアだったあなたは、このファンタジー小説そのままの剣と魔法の異世界を、どうしても量子論や集合的無意識論に則って再解釈していくことになって、「作者」としての世界改変能力によって、次第にこの異世界そのものが、魔法技術と科学技術とが相合わさった、「ハイブリッドワールド」と変貌していくことになるの』


 ──‼ 魔法と科学との、ハイブリッドワールドだと⁉


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「……何だよ、これって」


 その時僕こと村人Aにして実は公爵様の落とし子である、アルバート=クダンは、魔導書(型タブレットPC)の液晶画面に表示されたWeb小説、『なろうの女神に導かれて、俺は異世界の神様となる』を読みながら、思わずつぶやいた。


『何って、あなたが知りたいと言ったから、わざわざ現代日本の「小説家になろう」サイトからダウンロードしてあげたんじゃない。いわゆる「前回この世界に転移してきたあなた」であり、現在のあなた自身にとっては「近い将来のあなた」が、一番最初にここに異世界転移した際の出来事の一部始終をしたためた、神楽かぐらひびき著作のWeb小説よ』

「確かに『もう一人の自分』とも言える彼のことを知るのは、今の僕にとって最優先課題だけど、スマホの携帯はもちろんのこと、『ゲンダイニッポン人』が肉体丸ごと異世界転移してくるなんて、いくらここが剣と魔法の世界だからって、物理法則上あり得ないだろうが⁉」


『──ええ、まさしく今のあなたの発言こそが、すべての答えなの』


「は? 僕の発言が、答えって……」

『元々「剣と魔法上等!」だったこの世界は、物理法則なんてガン無視した、インチキWeb小説そのままの「何でもアリ」のクレイジーワールドだったわ。それを「作者」として世界の改変能力を持つ、「もう一人のあなた」である御神楽響が異世界転移してきて、世界を解釈し直すことによって、たとえ魔法であろうが必ず物理法則に則るように改変したってわけなのよ』

 し、信じられん。以前の世界って、物理法則をまったく度外視して、魔法を使い放題していたってわけなのかよ?

 そんなんで本当に、『世界』としてやっていけていたのか?

「……いやでも、物理法則──特に質量保存の法則が適用されることになったんなら、そもそも肉体やスマホ等を伴った物理的な世界間転移が不可能になるから、文字通り本末転倒じゃないのか?」

『そんなことはないわよ、物理的な世界間転移ができなければ、精神的な世界間転移をすればいいじゃない』

「へ? 精神的な、世界間転移だと?」

『何を驚いているのよ? それこそWeb小説においては、昔からお馴染みでしょうが?』

 え。


『異世界転よ、転。あれってまんま、物理的な世界間転移である異世界転移を、精神的な世界間転移にしたようなものじゃない』

 ──あ。

『つまり、物理法則に反することなく、突き詰めればただ単に本人が「妄想状態」にあるようなものであり、現実性リアリティを微塵も損なうことがないという、最も理想的な異世界転移の仕方とも言えるの。──まったく、「なろう系」のWeb小説家ときたら、ほんの目の前にこんなに素晴らしいお手本があるというのに、何でいまだに「物理的な異世界転移」作品ばかりを書こうとするのかねえ』

「え、でも、異世界転移と異世界転生とでは、Web小説においてはジャンルやタグが異なるほどに、別物扱いされているんじゃなかったっけ?」

『それは作家陣はおろか、各創作サイトの運営陣までもが、本質というものを見極めることができないだけよ。物理的な世界間転移があり得ないとすると、転生と転移の違いってぶっちゃけて言えば、現代日本人サイドが死んでいるのか存命中なのかの違いでしかなく、異世界人サイドにとっては、現代日本人としての記憶や知識に目覚めるという意味では何ら違いはなく、本質的には区別をつける必要は無いわけ』

「……つまり結論としては、現実的な異世界転移を実現するためには、異世界転生だけでなく転移のほうも、『ゲンダイニッポン人』が肉体丸ごと転移してきたりすることなく、あくまでも生粋の異世界人の肉体に『ゲンダイニッポン人』の記憶や知識が憑依するって方法以外はあり得ないってことか? しかしそもそもたとえ精神体だけとはいえ、どうやって『ゲンダイニッポン』からこの世界へと転移させるわけなんだ?」

『それはもちろん、集合的無意識を介してよ。そのWeb小説にも書いてあったように、「なろうの女神」である私は、誰であろうが強制的に集合的無意識にアクセスさせることができるからして、この世界の人間を適当に選んで集合的無意識を介して現代日本人の記憶や知識を脳みそに刷り込めば、あ〜ら不思議、「現代日本からの精神体のみの異世界転移」の一丁上がりってわけよ。──何度も何度も言うように、そもそも二つ以上の世界の間を肉体を伴って行き来することなぞ、物理的に絶対不可能なんだから、異世界転移やタイムトラベル等の世界間転移の類いは、集合的無意識を介して時代や世界そのものが異なる人物の記憶や知識をインストールすることによる、「記憶や知識の二重保持」でしか実現不可能なの。だって、そうでしょ? 現代日本人に未来人の記憶や知識をインストールすれば、事実上未来から現代へのタイムトラベルの実現だし、戦国時代の武将に現代日本人の記憶や知識をインストールすれば、事実上現代から戦国時代へのタイムトラベルの実現だし、生粋の異世界人に現代日本人の記憶や知識をインストールすれば、事実上異世界転移の実現だし。──まさしく、現在のあなた自身のようにね』

「げ、現在の、僕って……」


『そもそもあなたが本来なら関知することなぞなかったはずの、「現代日本の夢」を見ているのは、夢の中で集合的無意識とアクセスして、御神楽響の記憶や知識をインストールされているからなの。──言うなればあなた自身も、現在において精神的な異世界転移状態にあるわけ」


 ──‼

「……つまり僕って、『ゲンダイニッポン』の御神楽響の、転生体のようなものなのか?」

『一応彼はいまだ存命中だから、「精神的な異世界転移状態」と言うべきですけどね」

 そうか、だからさっきこいつは御神楽響のことを、『近い将来の』と呼称していたわけか。

『それでここからが本題なんだけど、これを見てちょうだい』

 女神がそう言うとともに、魔導書の画面が切り替わり、別の小説を表示する。

「……あれ、これって、まさに今この時の僕たちの状況を小説化して、『ゲンダイニッポン』の『小説家になろう』サイトで公開している、『ただの正夢体質の俺が異世界の神様だと⁉』じゃないか。──うん? しかもこれって編集画面──すなわち、書き換え可能になっているんじゃないのか⁉」

『だってあなたは、存在する世界こそ違えど、御神楽響本人であるようなものだから、彼の著作物へのアクセス権が認められているのよ』

「……ということは、まさか、まさか、まさか──」

 そして手元の魔導書の画面内で二重写しになっているその少女は、まさしく女神そのままに、文字通り驚天動地の託宣を下すのであった。


『ええ。彼同様に強力無比なる「正夢体質」ゆえに、「作者」としての力を有するあなたは、この小説の記述を書き換えたり書き足したりすることによって、目の前の世界そのものを、意のままに改変することができるの』

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