第16話 ナビー

「ナビー、とりあえず何処に行けばいい?」


 僕はVRMMORPG内の、チュートリアルが終わってすぐのフィールドにいる。


 最近リリースされたゲームは、ゲーム内に入り込めるようになっている。


 ナビーは各プレイヤーに1つ付いてくる、このゲームの案内役のことだ。


『見たら分かるでしょ? ここを真っすぐ進めばいいのよ』


 少なくとも僕に着いたナビーは、言葉の使い方を知らないらしい。


『ほら! あそこにモンスターがいるわよ!』


 ナビーに言われた方を向くと、丸っこくてモフモフした毛玉がちょこんと落ちていた。


『モンスター ラビよ。 崖から落ちないように気を付けて倒してね♪』


 フラグを立てたのだろうか?


 勘弁してほしい。


 もちろん崖から落ちるなんてヘマはしないが、不吉だ。


 本編最初の戦闘だ。


 問題は無い。


 やってやる。


『もっしもーし? ねえ、聞こえてる? 無視? ねえ無視?』


 うるさいナビーだ。


 やる気が失せる。


 やめよーかな。


 いやいや駄目だ。


 出来るだけ先に進まないと、友達と話しが合わなくなる。


 まさかみんなが速攻で買って遊んでるなんて、これっぽっちも思っていなかった。


 最近はみんなこのゲーム内で一緒に遊んでいるらしい。


 もちろん僕抜きで。


 もちろんって何だよ。


 とにかく早くみんなに追いつかないと、一人寂しい青春をおくることになりかねない。


『分かったー! ビビったんでしょう!?』


 うっさい。


 僕はラビに向かって走り出した。


 右手に持ったショートソードでラビに突きを入れる。


 ラビの頭に 1 と数字が飛び出す。


 次に上から振り下ろすと 2 と数字が飛び上がった。


 するとラビは白い光となり、音も無くハジケて消えた。


『やーっとやっつけたね! 遅いぞ♪』


 僕はナビーを無視することに決めた。


 まずはこの先に進まなければ。


 気が急いているのか、僕は走り出した。


「ぬあああああ!」


 いきなり左側の何もない空間から、何かが叫びながら現れた。


 僕は驚き過ぎて、叫び声が聞こえるのとは逆方向に飛んだ。


 叫び声の方を見ると、頭にネクタイを巻いたような、裸のおっさんが両手を上げて立っていた。


 おっさんふざけるな。


 おっさんが原因で、いま僕は空中に立っている。


 崖の向こうにいるのだ。


 僕の身体は一気に落ちていく。


 目の前は、おっさん、地面、壁と変わっていく。


 上を見ると、どんどん地面が遠のいていく。


 すると急に視界が真っ黒に塗りつぶされた。


 真っ黒な視界に、不意に白色で GAME OVER の文字が浮かび上がった。


 おっさんのせいで崖から落ちた。


 直ぐにナビーの声が聞こえてくる。


『崖から落ちないように気を付けてって言ったよね? ぷぷぷ……ダッサ』


 うっせえ。

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