第15話 道明先輩

「いやあ、まいったね。神からのお告げで大安吉日に大量にぶっ込んだやつが、まさかの全滅。6等さえ来ねえんだから、マジでビビるわあ。ゴッドすげーよ。まじゴッド」


 道明先輩は極度の宝くじ依存で、宝くじを買うために仕事をしていると自負している。


「まじゴッドってなんですか?」


「春雄、勢いって言葉、知ってるか? あと、流れって言葉も知ってるか?」


「分かります」


「話の流れに乗って勢いで出てきたワードに意味なんてねえよ。分かれよ、神のお告げに乗っかって大量買いしたってのに、全部外れたんだぜ? まじゴッドだろ? まじゴッドしかねえだろ?」


 そう言って道明先輩は、頭をボリボリ掻きながら悔しそうに顔を上に向けた。


「ところで神のお告げって、どんなことが起きたんですか?」


「いやいやいやいや春雄ちゃん。ねえから、お告げなんてねえから。勢いよイ・キ・オ・イ。ぶっちゃけ ”来る” って直感が俺にささやいたんだけどよ、そのまま話したらいつもどおりじゃん? 面白くないじゃん? だからわざわざゴッドぶっ込んだわけ。勢いよイ・キ・オ・イ」


 道明先輩はバッグをゴソゴソしながら言った。


 イライラする。なんだろうこのイライラは。

 きっとウザイってこういうこと言うんだろうな。


 結局のところ、何となく当たる気がして大量買いしたら外れたっていう何の変哲もない、むしろいつも通りの話。


 それをここまで無理やり膨らませておきながら、笑いが1つも無いことが逆にすごいと思う。が、イライラする。


 せっかく話を聞いて質問までしたのに、話を振っておきながら急に冷めた態度をとるってどういうこと?


 道明先輩は、まだバッグをゴソゴソしている。


「先輩、どうしたんですか? 何か忘れたんですか?」


「ん? ああ」


 そう言ったっきり、道明先輩はバッグをゴソゴソし続けている。


 ええ!? ええ!? もしかしてこの人、僕の話し聞き流した!?


 イライラで満たされた僕は、その場に居続けることができなかった。

 無言で立ち、ドアを開けて外に出た。


 空は綺麗な薄青色で雲も無く、太陽の光に包まれている。

 

 室内から出てきたばかりで目をチカチカさせていると、ちょうど良い冷たさの風がイライラで茹で上がった僕の頭に吹いてきた。


 僕は空を見上げたまま、大きく息を吸い込んで、吐き出した。

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