第14話 訪問! 近くの集落!

 復活ではない。動き出しただけだ。

 

 しばらく静かだったのは、皇帝が感染者を率いて駆除していたからだ。


 皇帝がいなくなった今、動き出すのは当たり前と言える。


 こちらもボケッとしていたわけではないが、そもそも外見は奴らと変わらないのだから、人間と関りをもつに至っていない。


 しかし、さすがに限界か。これ以上遅くなるわけにはいかない。


 さて、どこに行こうか。選択肢は少ないが、人口が多い町よりも、集落のような小規模なところがいいだろう。


 どちらにしても警戒されるんだから、だったら規模は小さい方が心の傷も小さくて済みそうだ。


 はい決定。


 そういうことなら……おお! そうだそうだ、目の前にあるじゃないか! どう見ても集落だ。いいところにあるね集落。


 はい決定。


 次はどうやって関りをもつかだな。


 これまでは積極的に声をかけていたが、ことごとく驚かれて、すぐに攻撃されてたからな。違うやり方にしないとな。


 ジッとしておくか。しばらく動かなかったら、向こうさんも慣れてくれるだろう。


 慣れてくれればいいなあ。


 どのくらいジッとしていられるかな? 一日くらいなら大丈夫かな? 大丈夫だろう。


 そうと決まれば行動あるのみだ。


 ◇


 集落は壁で覆われている。


 材質は木。


 正直、私なら簡単に破壊できるだろうが、しかし集落を覆う壁を作るのはなかなか苦労しただろう。


 作りっぱなしという訳ではなく、ところどころ補修の跡がある。


 あまり近すぎず、遠すぎずの距離を意識して、しばらく様子を見ようと思うが、さっそく気づいてくれたらしい。


 カンカンカンという警鐘が鳴っている。


 鐘は壁の上部に有り、そこが見張り台となっているようだ。


 続々と人が集まってきている。


 とりあえず、このまま様子を見続けよう。なにも取って食おうという訳ではなく、話し合いに来たのだから。


 そんなことを考えていると、小さな影が壁から出てきた。


 見張り台に集まった人達も、それに気付いたようで慌ただしく動いている。


 小さな影はどうやら走っているようだ。


 小さな影――子供か? 女の子のようだな。


 女の子は疲れたのか走るのを止め、歩き出した。


 子供だから仕方ないのだろうが……遅い。


 私は女の子の様子をうかがい、待つことにした。


 女の子は目の前まで来ると、私を見上げて言った。


「おじちゃん、なにしてるのう?」


 ほう、なかなか肝の据わった子だな。


 しかし、おじちゃんって……


 目線を合わせるべくしゃがみ込むと、女の子は興味深々というよりは ”なんでここにいるの?” という目をしていた。


 恐怖は無いようだ。


「おじちゃんじゃないぞ。お兄さんだぞ」


 すると女の子は私を指さして言う。


「ええ~、でもシワシワだよ~」


 私の表面は枝が敷き詰められているため、シワなど見えない。


 どうやらこの子は敷き詰められた枝がシワに見えているようだ。


「これはシワじゃないぞ。枝だぞ」


「ええ~、変なの~」


 全く理解してもらえてない。


 しかし、だからこそ恐怖を感じていないのだろう。


「おじちゃん、ここでなにしてるのう?」


「うん、話し聞いてたかな~? おじちゃんじゃないんだよう。お兄さんだからねお兄さん。君が出てきた集落の偉い人と話がしたくて来たんだよう」


 この子に理解できるかは分からないが、伝えるだけは伝えておかないとな。


「クレサ―!」


 見張り台から男が叫んだ。


 女の子は振り返り、私も見張り台に目を向ける。


 どうやらまだ慌ただしくしているようだ。


「あのねえ、お父さんが呼んでるから帰るねえ」


「今の声は君のお父さんなの?」


「うん」


 ということは、この子のお父さんを通じて、こちらの目的が伝えられるかもしれないな。


「君の名前はクレサでいいのかな?」


「そうだよ」


「そうか。クレサ、集落に帰って君のお父さんに、私が偉い人と話しをしたがってるって伝えてもらえるかな?」


 クレサは集落のほうに振り返ったままだ。


「うん、いいよう」


 なんとも礼儀を知らない子だ。


「じゃあ頼んだよクレサ。それと、私はおじちゃんじゃないからね」


「わかった。バイバイ」


 クレサはそう言い、私に手を振ってから集落に向かって走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る