第13話 来訪者

 カンカンカン


 鐘の音が小さな村――いや集落に響いている。


 昼飯時に鐘が鳴らされるのは珍しい。


 住人たちは次々に家屋の外に出て、鐘が鳴っている集落出入り口付近に目をやる。


 ライアンもそんな住人の一人であるが、彼は他の住人がただ眺めているのとは違い、すぐに鐘に向かって走っていた。


「何があった?」


「おお、ライアン、あれを見てくれ」


 鐘を鳴らしていたブライアンは、集落正面の少し離れた所を指さす。


 ブライアンが指さした先には”アレ”が突っ立っている。アレはそのままこちらを見ているようだ。


 二人してアレを見つめていると他の住人もボツボツと集まってきた。


「ブライアン、何があった?」


 住人たちは着くとすぐに聞いてくるので、ブライアンは同じように答えていく。


「あそこにアレがいる」


 皆はアレを目にすると、何も言わずに見続けた。


「門はどうした?」


「ああライアン、とりあえず門は閉めてロックも厳重にしてきた」


 そのやり取りの後はみなアレの動向を注視している。鐘はすでに鳴らされておらず、皆アレを見る以外に何も出来ない。


「おい、あれは……」


 誰かが声を出した。みながどこのことか分からずにキョロキョロしていると。


 「すぐ下だ」と指をさす者がいた。指の先には小さな子――女の子がアレに向かって走っていた。


「クレサじゃないか!」


 ライアンは言うと同時に門に向かおうとしたが、他の住人が止めに来た。


「待てライアン、今はアレを刺激するな。俺たちに出来るのは子との成り行きを見守ることだけだ」


「ふざけるな! 俺の子だぞ、俺が行くから問題ないだろ! どけ!」


 そう言ったライアンを住人たちは抑え込んだ。


「見ていることしかできないんだ」


 誰かが言った。ライアンは抑え込まれ、娘が危険に飛び込んでいる様を見ることしかできない。


 そうこうしている内にライアンの娘――クレサはアレの前に着いた。


 アレとクレサは何か話しているようで、アレはクレサと同じ目線までしゃがんでいる。


「クレサー!」


 不意にライアンが叫んだため、ライアンを抑え込んでいた住人たちは驚き、必死にライアンの口に猿ぐつわを噛ませた。


「ふー、ぐふー」


 ライアンはクレサを見つめたまま息を荒げている。


 ライアンの声が聞こえたのか、アレとクレサはこちらを見ていた。住人たちに緊張が走る。


 しかし、クレサはアレに一旦向き返り、手を振ると、こちらに向かって走り出した。


「みんなライアンを放してやれ」


 ブライアンが言い、住人たちが力を緩めるとライアンは起き上がり、すぐさま門に向かった。


 ライアンは門に着くとすぐに厳重になされたロックを外していく。


 ロックを外し終え、門を開くとクレサが目の前に現れた。ライアンはクレサの首根っこを掴み、門の内に引きずり込む。


 門を閉めるとライアンはひざまずき、クレサを強く抱きしめた。


「ブライアン、アレはどうした!?」


「アレはまだ立ったままだ」


「クレサ、お前は何をしているんだ!? 死にたいのか!?」


 急にライアンが怒鳴り、クレサは目に涙を溜め出した。ライアンはクレサの肩を軽く押して、少し距離をとり「何があった」と今度は優しく聞いた。


「あのねぇ、あのおじちゃんがねぇ、ここの偉い人とねぇ、お話ししたいんだってぇ」


 クレサは涙を流し、しゃっくりをしながら答えた。

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