第9話 孤独の独身

 家賃は月3万円。


 間取りは1R。風呂トイレ付き、キッチンは玄関入ってすぐの通路脇。


 部屋の半分を白いソファーベッドが占めている。これだけ部屋を狭くしてでもソファーベッドを置いたのは、女の子といい雰囲気になったらそのままいけるようにだ。


 遮光性が高い白いカーテンをしている。昼でもカーテンを閉め切ったら部屋はほぼ真っ暗になる。


 いつ女の子が来てもいいように掃除をしているから、すごく綺麗な部屋だ。部屋の隅にチリなんて一切ない。


 風呂場のシャンプー容器の底にヌメリが無い。便器なんて躊躇なく手で掃除できるレベルだ。


 毎日イランイランをディフューザーで流しているからか、室内はイランイランの香りに包まれている。


 ジャケット、シャツ、ベルト、パンツ、靴、時計などなど、なかなかの高級品を揃えている。


 大人のファッション誌で勉強して、出来るだけ高い物を揃えた。さらに流行に乗っている。


 香水だってブランドものだぞ。


 クソみたいに高い美容室に行って、カット、カラーはもちろん眉の手入れもしている。爪はわざわざネイルサロンで手入れしてるんだ。


 無駄毛も処理済み。メンズエステにも通っている。


 どれだけ金をかけてると思ってるんだよ。ぶっちゃけカツカツだ。これだけ努力をしているのは、女の子をこの部屋に連れ込んでいい関係になりたいからだ。


 なのにあいつら、まったく相手にしやがらない。店ではあんなに楽しそうに俺と話しているのに、これからって時になんだかんだと言い訳して、結局誰一人誘いに乗ってこない。


 金か?金だけが目当てか?


 どれだけ店に払ってきたと思ってんだ。店ももっと気い使って俺に付き合うように即せよ。俺は昨年40歳になった。独身だ。これだけ努力しているのに、成果がゼロなんてありえないだろ。

 

 今日もしこたま飲んで金ばらまいて、帰ってきたら独りとかありえないだろ。


 リンの野郎、あのネックレスは安物じゃないぞ。それがなぜヤフオクにでてる?ありえないだろ。


 キョウコもキョウコだ。何回寿司食いに連れてったと思ってんだ。分かってんのか?回転しないんだぞ?安かないぞ?むしろ高いぞ?ありえないだろ。


 ああウンコウンコ。バカらしい。寝よ。


 こんな世界なんか、目覚めたら壊れてたらいいなあ。


 寝よ寝よ……



 ――翌日、目が覚めると世界は壊れていた。




◇◇

2019年10月20日 誤字修正。

2020年6月23日 誤字修正。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る