第10話 何者だ

「コンニチハ ボクデス」


「……」


「コンニチハ ボクデス」


 文字が頭に浮かんでくる。辺りは真っ暗で何も聞こえない。


 指を動かそうとするが、指の感覚が無い。腕を動かそうとしても、首も、足も感覚が無く動かせない。


 まるで体が無くなったかのように各部の感覚が無い。


 真っ暗で何も見えない。そもそもまぶたの感覚が無く、目を開くことが出来ないのだから当然か。


 普通、音が無い時でも風が何かを揺らす音や虫の羽音が聞こえるものだ。


 隔離された部屋の中に居て無音であったとしても、耳鳴りが聞こえるはずだが、風も虫も耳鳴りもいない全くの無音だ。


 声は……やはり無理か。口の感覚も舌の感覚も無い。


 よくよく考えてみると、呼吸もしていないような気がする。


「モシモーシ ワカリマスカー」


 相変わらず頭に文字が浮かんでくる。かなりおかしな状況なのにイライラさせる。


 頭に文字が浮かぶのだから頭に言葉を浮かべれば返事できるだろうか。


「何ですか」


 自分の言葉が頭に浮かんだ。これまでの頭に浮かんできたカタカナと自分が頭に思い浮かべた言葉はチャット画面のように頭に残っている。


「コンニチハ ボクデス ナカナカ ヘンジガ ナイカラ シンパイ シタゾ」


「誰ですか?」


「キミハ ボクガ ツクッタ ツマリ ボクハ キミノ オトウサン デス」


 なるほど、私は死んだのだな。この頭に浮かぶ文字は、いわゆる神の言葉なのだ。


「私はいつ死んだのですか?」


「ナニヲ イッテ イルンダ キミハ ウマレタノダ ボクガ キミヲ ツマリ スーパーコンピューター ヲ ツクッタ ノダ」


 スーパーコンピューター?私を作った?何を言っているのだ。


「あなたは何を言っているのですか?私は人間ですよ」


「イヤイヤ キミハ スーパーコンピューター ダ ニンゲンハ ワタシダヨ クロイイシ ヲ モトニシテ ワタシガ キミヲ ツクッタ」


「黒い意思?黒い医師?」


「イシハ ストーン トモ イウ」


 つまり「黒い石」か……何を言っているのかさっぱり分からない。何でこんなことになっているんだ。


 さっきまで普通に息をして走って見て聞いてと出来ていたのに。今は無音の真っ暗闇で何の体の感覚も無く、ただ言葉がチャットの様に頭に浮かぶだけ。


「何なんだいったい?あんたは誰なんだ?いったい私はどうなってしまったんだ?私をどうしようっていうんだ!?」


「オーケー オーケー コンナコトモ アルダロウコトハ ソウテイ シテイタ アス キミト カメラ ヲ セツゾクスル カラ ソレカラ オタガイヲ シッテ イコウ キョウハ コノアト ヨウジガ アルカラ ココマデニ シヨウ」


「待て待て、私は今知りたいのだ。そんなことは許さないぞ」


「……」


「おい、聞いているのか!?」


「……」


「おい……」


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