第5話 重要なお仕事

 寝れなかった。


 そりゃそうだ、なんたって今日は皇帝に挨拶をしに行く重要な仕事の日なのだから。


 ドキドキが止まらない、とにかくノドが乾き、手の平は汗で濡れている。さらに体の震えが止まらない。


 これが緊張というやつか。


 さあ時間だ。

 俺は玉座の間のドアの前に立った。衛兵がゆっくりとドアを開く。


 すると玉座に皇帝が見え……

 ――まっ、眩しい!なんと神々しいお姿だ!想像を超えている!これでは俺の目がもたない。


 俺は皇帝を見れなくなった。


 体の震えはなお強くなり、まともに歩けない。

 ――ここでコケるのはまずい。大変失礼だ。というか失礼で済むはずがない。


 俺は確実に1歩をこなし、歩を進めることに集中する。

 ――なんて重々しい空気だ、これが皇帝というものか。


 やっとこさ皇帝の眼前にたどり着き、すぐに片ヒザをついた。

 ――やべえ、まじで皇帝の前にいるよ……テンション上がるー!


 「ご、ごぎげん、い、いががでずが」

 ――やべえ!タンが絡んでしまった!


 「うむ、まあまあだ」と皇帝は言った。

 ――タンが絡んだのスルーですか!?皇帝パねー!


 「分かりました」と俺は言って立ち上がろうとする。

 ――うまく立てねー!腰抜けてんのか!?膝がガクガクなんですけどー!!


 なんとか立ち上がり、私は振り返った。


 ――!? やっちまった。何てことをしてしまったんだ。皇帝に背を向けるなんて……


いやまて、今皇帝の方を向きなおしたら、逆に失礼に気づかれるんじゃないか?このまま行こう!


 ドキドキが止まらない、体の震えが止まらない。


 膝はガクガクするし、気を抜けば確実に腰が抜ける。

 ――汗?冷や汗だちくしょう。手の平も汗でビッショリだ。垂れた汗で床が濡れるし。


 ドアまでが長い。まるでこの世に生を受け今に至るまでに費やした時と同じであるかのように長い。

 ――歩くことに集中だ。


 背に感じる皇帝の視線が痛い。突き刺さる。

 ――きっと背を向けたことに腹を立ててるんだ。でも、それをとがめない皇帝……漢だ!あんたこそ漢だ!!一生ついて行くっすー!


 やっとこさドアの前にたどり着いた。


 ゆっくりとドアが開く。


 ――まだか、まだか?もう無理。ほんと無理。死ぬ。マジ死ぬ。開けドア!開いた!!


 俺はドアの外へ踏み出し、そして振り返る。

 皇帝へ頭を下げドアが閉まるのを待つ。


 ドアが閉まると同時に、俺はその場へへたり込んだ。

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