第3話 私は偉い

 俺はいま、玉座にいる。


 玉座にはかなり憧れたものだが、いざ座る立場になると地獄である。


 時に威厳を示せて誇らしいのだが、普段はただ座っているだけ、つまり暇だ。


 あまりに暇なため、1つルールを作った。


 何事も無い時は1日に1回、側近以外の普段顔を合わせないような者が、俺に挨拶に来る――というものだ。


 もうすぐ時間だ。俺に恐れおののき敬うがいい。


 ドアが開き一匹入ってきた。

 なんとも見事なまでに下っ端だ。これは期待できる。


 ところが下っ端は表情一つ変えず、というか ずっとうつむいたまま無言で、のそのそと俺の前まで進んで来る。


 全く俺の顔を見ようとしない。


 「……ご、ごぎげん、い、いががでずが」

 下っ端は片ひざを着いて言った。


 ――なまりが凄いな。


 「まあまあだ」と俺は言った。


 「……ば、ばかりまじた」

 そう言って下っ端はゆっくりと立ち上がる。


 結局、俺の顔を見ることなく、喜んでいる様子もなく、のそのそと帰っていく。


 俺は帰り行く下っ端の背をただ見ていた。

 下っ端が歩いた跡は、なぜか湿っているようだった。


 下っ端が部屋を出て、ドアは閉じられた。


 ……つまらん。俺は皇帝だぞ。


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