第24話
「よし、デュオ、これ持ってみろ。」
「盾、ですか?」
「ああ、俺の予備、つうかお古の普通の盾だけどな」
魔法を扱えるようになった日の翌日、レオルさんはそう言って、僕に盾を渡した。
場所は昨日と同じく裏庭だ。今日は表の方で仕事をしているのか、ジョージさんはいない。
「俺の見た感じ、今のお前に一番合ってるのは盾だと思うぜ」
「はぁ・・」
いきなりそんなことを言われても、実感がない。
僕の怪訝そうな表情を見て察したのか、レオルさんはこう続けた。
「いいか、どんなに硬い盾でも、ハンマーみたいな鈍器の衝撃は伝わってくる。俺らは防御魔法を重ねたり、魔力で耐久を強化してしのぐしかねぇ。だが、お前の音魔法がありゃ別だ。お前の魔法なら、衝撃を消すことも、強めることもできる」
「そんなことが戦ってるときにできるんですか?」
「おう、煙草吸うヤツが指に火をつけんのとおんなじだ。見てろ」
レオルさんはそう言って、指先に火を灯して見せた。
「こんな風に簡単なことならなんの予備動作も魔法名もいらねぇ。特化型のお前ならなおさらだ」
「へぇ~」
そういえば、ジョージさんが庭の土いじりをするときも魔法を唱えるようなことはせず、地面に手を当ててるだけだったな。
僕が思い返していると、レオルさんは続けてしゃべった。
「話戻すが、盾ってのはな、ただ防ぐためだけの武具じゃねぇ。うまく逸らしたり、受け流したりして隙を作ったり、思いっきりぶん殴ってやるって使い方もある。どれもお前の魔法とは相性いいと思うぜ。ハンマーなんかも考えたが、お前にはまだ重いだろうし・・・それに、今まで片手剣も教わってたんだろ? 剣と盾の組み合わせもやりやすいしな」
「なるほど・・・・」
僕はレオルさんが貸してくれた盾に目を向けた。確かに、剣と盾は騎士の標準装備だ。
「ま、そういうわけだ。んじゃ、ガンガン行くぜぇ!!」
「え、ちょっ!?」
突然、レオルさんが殴ってきたので、僕は咄嗟に盾をかざした。ガン!!と鈍い音が響き、盾を持った手がビリビリと痺れる。衝撃を殺せず、僕はそのまま後ずさる。
「おうおうどうした!? もっと魔力込めろよ!!」
「そ、そんなこと言われても・・・・」
「いいか、昨日と同じだ。机の上で勉強してるだけじゃ意味がねぇ。やるんなら全力で練習しな!!」
無茶を言うな。僕は対人戦なんてほとんどしたことがないのに。というか、言われたばかりなんだからもうちょっと待ってくれても。
「まあいい、習うより慣れろだ。全部受けきってみなぁ!!」
「ヒィィィィ!!」
そして、再び突撃するレオルさん。
こうして、僕とレオルさんの特訓が始まったのだった。
そんなこんなで1週間経った。相変わらず僕はレオルさんに殴られ、ジョージさんに転ばされているが、盾と魔法の扱いは多少慣れた。特化型だからか衝撃の殺し方や強化は1日で覚えることができたし、盾で防げば痛くもないし、ビリビリもしないという当然のことを自覚してからは下手に避けず、盾で受けることにだけ集中できた。あと、ジョージさんからは魔力による身体強化も教わった。まずは素の状態で剣を扱えるようにとのことで教わっていなかったが、レオルさんとの練習を見て、コツを教える気になったという。
魔力に満ちたこの国で育った僕らの体は魔力というエネルギーと親和性が高いようで、魔力を流すことで筋肉の働き、皮膚の強度といった機能を上げることができるのだとか。これには適正は関係なく魔力があればいので特化型の僕でも関係ない。そして、僕は魔力保有量が高いらしく、この強化の恩恵も他の人よりも多い。もっとも、他の魔法適正がなければ自力で魔法による強化を行うことはできないが。
「バーンライトはいるか?」
訓練が終わって、風呂に入ってさっぱりした後のことだった。リビングでくつろいでいたところに、父上がやってきた。
「へい!! ここにおります!!」
ソファーで寝っ転がっていたレオルさんは飛び上がって敬礼した。その間約0.3秒。
その様子を見ても父上は1ミリも表情を動かさない。さすがにもう慣れてしまったのだろう。
「最近はデュアルディオの稽古ばかりさせてしまってたが、仕事だ。ゴブリンが出た」
「!!!」
僕は思わず身を起こす。とうとう来たか。見ると、窓の外を見ながらトマトをかじっていたジョージさんも父上を見ていた。
「ゴブリン・・・・規模はどんくらいか、分かりますか?」
「街道で荷を運んでいた漁師の話では、5匹が走っていたらしいが・・・」
「5匹・・・んじゃあ全体じゃぁ30匹ってところですな」
ジョージさんがそういうと、レオルさんも頷いた。
ゴブリンはコボルトと並んで最もよく見られるモンスターの1種であり、最も身近な脅威だといえる。一匹ならば大人一人でたやすくあしらえるが、ゴブリンは群れで行動する。おそらく、今回遭遇したゴブリンは斥候で、偵察に出すのが5匹なら本隊はもっとたくさんいる。知能は低いが、集まるといろいろと考えるようになるらしい。
「30匹なら・・・・行けるかい、爺さん?」
「ま、そんくらいなら大丈夫でしょ」
二人は顔を見合わせるとそう言った。レオルさんもジョージさんもかなりの腕利きということは身をもって知っている。確かにこの二人ならばゴブリン30匹くらいはなんとかするだろう。僕は早々になんとかなりそうだと安心して・・・・
「んじゃ、行くぞデュオ!!」
「え!?」
突然、レオルさんはそう言った。
「な、なんで!?」
「なんでってお前、この領地を守りたいから散々練習してるんだろうが。ここでどうにかせずにいつやるってんだよ」
「で、でも・・・」
僕は震える声で続けようとした。僕なんかが付いて行って大丈夫なのかと。
そこで・・・
「大丈夫大丈夫。今の坊ちゃんならゴブリンの1匹や2匹どうとでもできますよ。それに、街から男手を10人ばかり連れて守らせます。んで、俺らが数を減らしてからやってもらうんで・・・それならいいでしょう、旦那様?」
「・・・・ああ」
なんと、父上が許可をだした。
「よ、よろしいのですか、父上!!」
「お前の最近の訓練のことは知っている。屋敷中のガラスを割ってくれたり騒音を出したりといろいろやってくれたが、貴重な時間を割いて得た力を使わんでいるより無駄なことはないだろう」
「は、はぁ」
意外だ。僕が騎士になりたいと剣を教えてもらうときにも母さんがとりなす中、渋そうな顔をしていたというのに・・
「ほら、アインシュ様がそう言ってんだ、腹ぁくくれよ。それに、俺はモンスターが出たら連れてくって約束しちまったしな」
そういえばそんなこと言ってたな。あの時は冗談だろうと思っていたが・・・
「坊ちゃん、男ならいつかはやらなきゃならないときってのがあるんです。誰だって初めてだけど、みんなそれを乗り越えていったんだ、坊ちゃんなら絶対にできますよ」
ジョージさんはそう言って励ましてくれた。
「そうそう、ここんとこ毎日やってきたんだ。あの通りにしときゃ余裕だ余裕」
「少なくとも、屋敷のガラス代に見合うくらいのことはしてみせろ」
レオルさん、そして父上までそれに続く。
結局、この場にいる男全員に発破をかけられてしまった。それに対して、僕は・・・
「・・・・わかりました。行きます!!」
気合を入れて返事をした。
あの父上までああ言ってくれたのだ、ここは行くしかないだろう。それに、ジョージさんとレオルさんもいるのならば、誰か死んだり、村にまで被害が出るような最悪の事態にはならないはず。なにより・・・
「僕は、どこまでやれるんだろう・・・」
さっきまでは怖かったけど、レオルさんが言うように、僕はここの人たちを守るために特訓していたのだ。ここで出なければ特訓の意味がない。そうだ、その成果をどれだけ出せるか、試してやろう。
「よし、決まりだな!! んじゃ、明日行こうぜ。今日は早く寝ろよ」
「あ、明日ですか!?」
「おう、偵察が出たんなら、本隊も動くかもしんねぇから早めに潰さねぇとな」
「被害が出てからじゃ遅いですしな」
「私は街の者に知らせに行ってくる。護衛の件も今日中に決めておかねばならん」
「わ、わかりました」
こうして、明日が僕の初陣となるのだった。
シークラント領中心シレスと西の村ウェフトとの間に街道がある。ウェフトは海に面した村であり、村で採れた海産物をシレスに運ぶために賑わいのある道であるのだが、今日はこのあたりに出没するゴブリンを恐れて、その賑わいも鳴りを潜めていた。そして・・・
「キーキー!!」
「オラァ!!」
「グェェ!?」
今現在は悲鳴と怒号で埋め尽くされいた。ちなみに、悲鳴はゴブリンのもので、怒号は人間のものである。
手に籠手を着けた男、レオルさんがゴブリンを殴ると、グチャッと何かが潰れるような音とともに、ゴブリンの緑色の体が吹き飛んでいった。それを見た他のゴブリンはおびえるように逃げていく。
「おっと、敵前逃亡とは感心できねぇですな。 アースウォール!!」
剣を持った老人、ジョージさんが地面に手をつけると、2mほどの高さまで土の壁がせりあがってきた。大きくても大人の肩くらいまでしかないゴブリンには越えられないだろう。
「ほっ!!」
そして、壁の前で右往左往するゴブリンに向かって剣を振ると、ゴブリンの首がポロリと落ちた。使い手の腕前か土属性の付与魔法「硬化」がかかっているのか、先ほどから切れ味は全く落ちていない。
「ジョージさん、レオルさん・・・・」
「あの二人、やっぱすげぇな・・・」
「ああ、爺さんなんかいつもと変わんねぇように見えるのにさっきからバンバン倒してやがる」
僕はというと、町の男たちに囲まれて二人の活躍を見守っていた。ちなみに、さっきのセリフは八百屋と魚屋の店主さんたちの言ったことだ。他にも、肉屋のおじさんに本屋のお兄さんも来ている。みんな手に剣やら盾やらを持っているが、あの二人が強すぎるせいで使われる気配がない。
「俺ら、ここにいる意味あんのかね・・・・」
「まあいいんじゃねぇの、領主様からバイト代出るし。それに、さっきはちょっとやばかったろ・・」
「ああ、初めのあれか。ありゃびびったな」
最初、ここに来たのはジョージさんとレオルさんの二人だけだった。その二人が魚屋と肉屋から買い取った魚と肉を乗せた荷車を引いて来たのだが、すぐには戦わなかった。
偵察役だけ倒しても、本隊に逃げられたら意味はない。そこで、ゴブリンの群れを引き寄せるためにしばらくの間なんとか応戦できているという風に見せかけたのだ。頭のあまりよろしくないゴブリンはそこで増援の投入を決めたらしく、予想通り30匹くらいの新手のゴブリンが現れたところで土魔法で逃げ道を塞いだ。そして、僕らは二人の討ち漏らしや森に残っているかもしれない残党を潰すのに備えてやってきたのだが・・・
「一斉に若様目がけて突っ込んできたんだものな」
「ああ、若様に傷の一つでも付けたら領主様と家のかみさんに殺されちまう」
そう、僕らがここに来ると、森の中に残っていたらしいゴブリンが突撃してきたのだ。その数は10匹ほど。どうやら最初の30匹という見積もりは甘かったらしい。そして、僕らの声を聞きつけた二人が土壁の内側から出てきて今に至る。
「お、見てみろ。ほとんど終わったみたいだぞ」
「あ、ホントだ」
おじさんたちがそんな風に話しているうちに決着はついていたようで、あとは2匹を残すのみとなっていた。と、そこで二人は攻撃を止めて、ゴブリンを追い立て始めた。
追い立てられたゴブリンはこちらに向かって走ってきた。これも計画通りだ。数が減ったら、後は僕が始末するという手筈になっている。
「おいデュオ!! そっちに行った!! 逃がすんじゃねぇぞ!! あと、おっさんたちは離れてデュオにやらせてくれ!!」
「さあ坊ちゃん、男を見せるときですぜ!!」
「う、うん!!」
レオルさんの言葉を聞いて、おじさんたちが離れていって僕一人になる。
僕は鉄の剣を手に、こっちに向かってくるゴブリンをにらんだ。さっきから心臓がバクバクしている。大丈夫だ、ジョージさんもレオルさんも言っていたじゃないか。いつも通りにやれば大丈夫。大丈夫ったら、大丈夫。大丈夫大丈夫ダイジョウブ・・・・・
「キシャァ!!」
「えーい!!」
「グホッ!?」
僕は突撃してくるゴブリン相手に、体ごと剣を素早く突き出すと、剣は突撃の勢いもあって深々とゴブリンに突き刺さった。
「よし!!」
「よし、じゃねぇよバカ!! さっさと抜け!! あと一匹残ってんぞ!!」
レオルさんの怒鳴り声がして、僕は急いで剣を抜こうとするが・・・・・抜けない!!
「キシャアアアアア!!」
「うわぁぁあぁ!?」
どうやら、やっぱりいつも通りというわけには行かなかったようだ。
見ると、もう一匹のゴブリンが僕に向かって体当たりしてくるところだった。僕は反射的に抜けない剣を離して腕に付けた盾を構えた。
「キシェェェ!!」
ガンッとゴブリンの体が盾に当たるが、僕はノーダメージだ。ゴブリンがぶつかった衝撃が遅れて伝わってくるが・・・
「くっ!!」
痛みを恐れたのか、やはり反射的に魔力を操って衝撃を和らげた。ここしばらくレオルさんに盾ごしに殴られ続けて体が覚えていたのかもしれない。ともかく、僕はゴブリンの攻撃に耐えきった。
「えいっ!!」
「ギァっ!?」
僕は盾で裏拳のように思いっきりゴブリンを叩く。体勢が崩れていたゴブリンの頭を狙った一撃。そして、盾を叩きつけた瞬間その衝撃を魔法で強化する。いくらゴブリンとはいえ、子供が叩いたくらいでは普通死なないが、僕が殴ったゴブリンはそのまま動かなくなった。
「ふぅー・・・」
「やれやれ、少し危なかったが、まあ及第点だ。初陣お疲れさん」
「あ、ありがとうございます・・」
レオルさんがそう言って僕の肩を叩いた。そう、スケルトンに襲われたときを除き、今のが僕のモンスター遭遇、討伐の初陣だった。
「ほい、坊ちゃん」
「あ、ありがとう」
ジョージさんが僕が倒したゴブリンから剣を抜いて渡してくれた。僕は持っていた布で血をふき取る。
「剣で突きを出したのはマズかったが、盾を使った攻撃は中々決まってたぜ?」
「いや、レオルさんが鍛えてくれたおかげです・・」
さっきの一連の攻防は本当に反射的だった。これまで地面を転がった甲斐があったというものだ。もっとも、剣の方も普段は一対一なので突きを出したのも反射だったが。
「今度は多対一の訓練もしなきゃいけませんな」
「うん、ごめんなさいジョージさん・・・」
僕はジョージさんに頭を下げた。
僕は今回もジョージさんの教えを守れなかったのだ。
「気にせんでください。口だけで言って教えなかった俺も悪い。それに、あの突きは様になってましたぜ」
「そうだな。いいカウンターだったぜ」
ジョージさんだけでなく、レオルさんもそう言ってくれた。
「こっからは、多対一の訓練と、剣と盾、あとは魔法との組み合わせの訓練だな」
「1匹目は魔法で迎撃したほうが良かったですしなぁ」
「あ・・・」
そうだ、魔法を使うことが頭から抜けてた。まだ距離のある内から仕留めて確実に一対一にするべきだった。やっぱり混乱していたのだろうか。
「おいおい落ち込むなよ。初陣なんてそんなもんだ」
「そうですな。むしろ、今回でそういう失敗ができたのは運がいい。俺らがいないときにおんなじ失敗してたら死んでましたよ」
「はい・・・・」
明日から・・・いや、帰ってからまた訓練しよう。僕はそう心に決めた。
「さて、ゴブリンどもも倒したし、死体燃やしてさっさと帰りましょうや」
「そうだな、よし、んじゃ死体を集めてくれ。俺は火魔法も得意だから一気に燃やしてやるぜ」
「はい」
おじさんたちも手伝って、アンデッド対策に集めたゴブリンの死体に火をつけて灰にしてから穴を掘って埋めた。そして、念のため討ち漏らしや巣穴がないか周囲を調べてから僕らはその場を去った。
こうして、僕の初陣、初のモンスター退治は終わったのだった。
ちなみに、その日の夕食は、僕らの一家とレオルさん、護衛として来てくれたおじさんたちと庭で一緒にバーベキューだった。肉も魚も囮に使ったもので、途中、野菜が足りないと言い出した母さんが八百屋から野菜を買うと言い出し、なぜか屋台を引いてきていた八百屋のおじさんは満足そうな顔をしていた。
「それで、思ったよりも盾にはまっちゃって・・・一応他の武器もそこそこ使えるように教わったんですけどね」
「そうなんですか・・・・でも、立派な人、というか元気な人なんですね」
「ええ、それはもう。底がないんじゃないかってくらい元気だし、僕が尊敬する人の一人です」
「それで、そのあとは?」
思ったよりも長い話になってしまったが、シルフィさんは飽きずに聞いてくれたようである。
「ああ、それからしばらくして、レオルさんは帰っちゃったんです。けど二年くらい後に魔装騎士を呼んだら、来てくれたのがレオルさんだったんです」
レオルさんいわく、上役が頭の柔らかい人物になったから昇進できたとのことだ。そのときも、モンスター討伐を手伝いつつ、稽古をつけてもらった。それからも魔装騎士を呼ぶたびに来てくれたが、最近は近衛騎士になったということで会えなくなってしまった。
「なんだか縁のある方なんですね・・えっと、デュオさんは今王都にいるんですよね? 会いに行ったりは?」
「うーん、忙しそうですから行ってないですね。でも、試験の前になら会えるかもしれません。だから、もうすぐですね・・」
試験の前には現国王陛下より激励のお言葉をいただくことになっている。そのときは王族近衛も来るはずだし、レオルさん、グラン殿にも会えるかもしれない。
「もうすぐ・・・確か、後2日でしたか?」
「はい、明後日ですね」
明日で僕が王都に来て6日目。
そう、もうすぐジョージさん、レオルさんから教わったこと、そして自分が高めてきたものの集大成を見せるときが来るのだ。そのためにもしっかり準備しなければならない。
「とりあえず買い物だな・・・」
「デュオさん?なにか?」
僕の独り言に返事が返ってきた。やはり顔が見えないと独り言が多くなるな・・・
「え? ああ、明日準備のために買い物に行こうかなって」
「買い物・・・何を買うんですか?」
買うものか、そうだな・・・
「まず、魔鋼製の槍、魔力回復ポーションに解毒薬・・・ああ、トラップとかの魔道具もあったな」
「魔道具ですか・・・」
魔道具といってもいろいろあるが、僕は主に宝珠を買うつもりだ。宝珠とはある特定の術式を刻んだ魔鋼のことで、魔力を込めれば適正のないものでもいろんな魔法を使うことができる。ただし、基本的に使い捨てで、一度使ったらもう一度魔力と術式を刻みなおさなければいけない上に、適正がない場合は一定の威力しか出せない。そしてなにより高額だ。だから宝珠含め魔道具を作る職人というのは高給取りである。きっとシルフィさんも腕の良い魔道具職人になれるだろう。
「シルフィさんが作ってくれたら、百人力ですね」
「え!?」
冗談めかしてそう言ってみたら、思ったよりも驚いたような声が返ってきた。
「そ、そんな、私まだ魔道具をいじったのなんて1日しかやってないし、失敗してしまったら・・・」
「いやいや!! 冗談、冗談ですから!! あ、いや、シルフィさんの腕前はいいと思いますけど、それじゃマッチポンプになっちゃいますから!! 心、心読んでください!!」
いかん、冗談が通じなかった。
今日スライムの魔鋼を持ってきた男が「魔道具欲しいな~」と言ったらあからさますぎだろう。そうだ、この「幻霧」の中ではシルフィさんのチカラはかなり弱まっているのだった。
「・・・・えっと、はい、冗談で言ってくれたのは分かりましたけど・・・」
「とりあえず忘れてください。本当に大丈夫ですから。無理はしないでくださいね!!」
「は、はぁ・・・」
シルフィさんはなんというか、ものすごく謎な行動力を発揮するところがあると思っている。徹夜でなにか術式を刻んだりしないか心配になった。自分で思ってアレだが、シルフィさんなら本当にやりかねない。
これ以上いるとまた何かぼろを出しかねない。正直に言うと、天才と思われるシルフィさんの作った魔道具のことを考えると、現在進行形で欲しいと思えてくる・・・いかん、早めに退散しよう。
「とりあえず、今日はもうだいぶ長居してしまったし、帰ります!! また明日!!」
「えっ、デュオさん!?」
僕は椅子に置いてあった紙に素早くモンスターの名前を書き込むと、「幻霧」から出るために立ち上がった。
「それでは!!」
「デュオさーん!?」
去り際、シルフィさんの声が聞こえてきたが、やはりいつものように意識が薄れていくのだった。
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