第19話
「・・・何だコレ?」
今日もやってきた、というかいつの間にか入っていた「幻霧」にて、僕が座っている椅子の目の前にそれはあった。一言でいうと扇風機とストーブのスイッチの部分を紐で結び付けたものだ。
「あっ! デュオさん、気づきました?」
「あ、シルフィさん、こんばんわ。 コレ何ですか?」
「えっとですね・・・」
僕の声に気付いたのか、シルフィさんが声をかけてきたので、僕も返事をする。ここはシルフィさんの部屋なんだし、このよく分からないモノを置いたのもシルフィさんだろう。案の定、彼女は少し得意げに語りだした。
「これは、名付けて熱風機です!」
「熱風機?」
「とりあえず、その紐に魔力を流してもらっていいですか?」
「魔力を?」
今日はそれなりにはっちゃけたから、魔力消費はなるべく避けたいのだが、まあ日用魔道具に使うくらいならば問題ないだろう。
「うおっ!?」
僕が紐をつかんで魔力を流すと、ブオオオオオオと温かい風が吹き始めた。少し寒かったから、いきなり温かい風を受けてちょっとビビった。
「今はまだ夜は寒いから、暖房として使えないかなって思ったんですが・・・・ご迷惑でしたか?」
「いえいえ、そんなことないです。正直少し寒かったから、ありがたいです」
「そうですか・・よかった」
今の時期は春。昼は暖かいが、夜はまだ冷える。けど、宿で厚着をしてベッドに入るのは暑すぎると思ったからちょうどいい。
「それにしても、これってどうやって作ったんですか? 魔道具の術式書き換えって専門の人じゃないと難しいっていいますけど」
魔道具の作製というのは専門的な仕事だ。一応エンチャント系の魔法で行うようだが、僕が今日やったみたいに戦闘中に武器を強化するのとはわけが違う。例えば、このストーブのように単純に熱を出すように設定する魔法の術式でも、注がれる魔力に対する上限設定、熱の強さや範囲を細かく調整して永続的に発動するように付与しなければ、ちょっとしたことで火事になってしまう。もし術式にミスがあったり、術式を上書きしきれなかった場合、魔力を注いで効果が発揮されないのはまだマシで、ひどい場合だと暴走して大変なことになる。特に、複数の術式が使われる魔道具や魔武器はかなり作製難度が高いという。この熱風機とやらは見た目はあれだが、本来は異なる二つの魔道具をつないでその二つの魔道具の機能をうまく組み合わせるのは相当難しいはずだ。
「えっと、わ、私がいじって作ってみました・・」
「えっ!? 本当ですか!? それってスゴイですね!!」
「そ、そんな、すごいだなんて・・・ただ少し術式をいじっただけで・・」
「いやいや、それがすごいんですよ。普通の人はそんな簡単に魔道具の術式なんていじれませんから」
嬉しそうに、それでいて恥ずかしそうにシルフィさんは答えるが、それは本当に中々できないことだ。
魔道具職人には高度な魔力制御と術式に関する知識が必要とされ、特に物に魔法文字で刻まれた術式の操作は素人には不可能だ。
魔力量の問題か、魔力制御が下手なのか、身近に魔道具を扱うのがダメだった人がいるから、魔道具をうまくいじれたり、直したりできる人というのはスゴイ人なんだなと子供のころから思っている。家では魔導レンジや魔導湯沸かし器、魔道コンロなんかは頻繁にダメにされていた。母さんとか母さんとか、母さんとかに。そんでもって、父上やジョージさんではどうすることもできず、一時期はシークラントでも工業が盛んな東のイスト村に住んでいた魔道具職人のおじさんに月1間隔で来てもらっていた。
「えっと、でも、その・・・」
シルフィさんはなにやら困ってもいるようだった。人とあまり話してこなかったらしいし、あまり褒められることに慣れてないのだろうか。
「シルフィさん、魔道具を加工できる才能は本当にすごいんです。あんまり謙遜していると、かえってよくないですよ。ここは胸を張ってどうだっていうべきとこですよ」
「え~!? そんなのできませんよ・・・でも、ありがとうございます。その、頑張ります!」
まだ少し困惑しているようだが、嬉しそうに答えてくれた。勝手ながら僕としてはこれからどんどんこういうことに慣れていって欲しいと思う。せっかくこんなスゴイ才能を持っているのだから。
「それで、その、デュオさん、今日はどうしましょうか」
「どうって、何がですか?」
「えっと、今日は何をしましょうかって・・」
「ああ・・」
昨日は特に約束もせずに話を終えたら帰ってしまったのだった。今日はとくに何をするのか決めてなかった。
よし、昨日は僕が話したんだし、今日は・・・
「じゃあ、今日はシルフィさんのお話しを聞かせてもらってもいいですか?」
「え!? 私のですか!? 話せることなんてないですよ! 私、引きこもりだし・・」
僕としても、シルフィさんのことはもっとよく知りたいと思って聞いたのだが・・どうやら乗り気ではないようだ。しかし・・
「でも、確か前にたくさん本を読んだことがあるって言ってましたよね。そんな風にシルフィさんの好きな本とか、魔道具を加工することみたいに得意なことを教えてもらえたらなって」
「え、ええ~!?」
僕がそういうと、シルフィさんは困ったように声を上げるのだった。
私、オーシュ王国第四王女、シルヴィア・アシュト・オーシュの趣味は読書である。毎日毎日、一日の大半を今みたいに読書に費やしている。王族のわりに普通の趣味だと我ながら思うが・・・
本はいい。どんな内容であれ、その本を読んでいる間、私は私の忌々しいチカラのことを忘れることができた。没頭できるものならば何でも読んだ。魔法理論、王国史、王国地理、王国伝記、ジャンルはバラバラだが、本当にいろいろな本を読んだ。そして、その中でもお気に入りは架空の物語だ。
今日も私の日課で、空間魔法からランダムで選んだ本を取り出したのだが、それで読んだ本が「付与魔法の奥義」やら「魔道具今昔」などの魔法理論関係の本ばかりだったので、流石に飽きて物語をいくつか選んで取り出したのだった。まったく、一体誰が物語本の本棚にこんな魔法関係の本を入れたのやら。
「もう読み終わっちゃった、これの3巻も持ってくるんだった」
今まで読んでいた本のタイトルは「黒の狂戦士」。ある悲しい事件をきっかけに歪んでしまった心優しい青年が、復讐のために旅をするという物語だ。歪んだ主人公のもとには歪んだヒロインばかり集まるのか、ヒロインもいろいろとぶっ飛んだ個性の持ち主ばかりである。一見暗い作品に思えるのだが、旅の様子は王道モノで意外にも児童書として扱われたことに作者も驚いているとあとがきに書いてあった。
「次はどんなのにしようかな・・・」
新シリーズ開拓のために持ってきたのは、「魔竜スレイヤー」、「賢者の使い魔」、「魔弾の狩人」だ。私は「魔竜スレイヤー」を手に持ってページをめくる。
「タイトルからちょっと予想できたけど・・」
どうやらこの本は多くの物語のように、この国の建国神話を元に作られたお話しのようだ。
かつて突如として天から堕ちてきた魔竜と呼ばれる怪物がところかまわず暴れまわっているのを、不思議な力を秘めた鎧を着た人物が激闘の末に打ち取り、後のことを仲間に託して新たな冒険に旅立っていくというのが王道である。ただ、この本はやたらと特徴的な擬音やら口調が使われているが。
「なんで挨拶をアイサツって書いてあるのかしら?」
不思議に思ったが突っ込んで考えると何かとんでもないものに触れそうなのでやめた。
とりあえず後で読むことにして、次の本を手に取る。
「これも似たような感じね・・」
手に取ったのは「賢者の使い魔」。突然賢者によって召喚された少年が、探求心の塊のような賢者につき合わされていく内に成長していくというお話しだ。ただ、賢者という存在も物語では非常によく見られる。
賢者は魔竜が現れるよりもはるかに昔の時代、魔法文字やら詠唱、中級以上の魔法などの魔法関係はもちろん、魔法を介さない物理法則やそれらの単位なども作り出して広めた実在の人物とされる。実在の人物ではあるが、その来歴はまったくわかっておらず、突如として歴史上に現れ、魔法を伝え終わるとまた突然姿を消したという。名前は名乗らなかったため、物語ではいろいろな名前があるか、最後まで名乗らないかのどちらかだ。姿は共通していて、どれも純白の衣を着た白髪の男で、今でいう眼鏡のようなものを着けていたらしい。まあ、このスタイルを崩して書くのも流行っているらしく、新しい物語では、必ずしもその姿とは一致しない。「賢者の使い魔」では、髪と服の色は白だが、性別は女の子で、なぜかつっけんどんな態度をとりつつも、ところどころで不器用な優しさを見せていた。
「最近はこういう女の子が流行りなのかなぁ」
これもじっくり読むのは後にしよう。
「あ、これは面白そう・・」
魔弾の狩人は少し珍しい作風のようで、高度に魔法技術が発達した結果、荒廃した架空の世界、ニホンを舞台に描く作品のようだ。主人公の赤毛の青年カイトは非合法の組織に改造人間にされてしまうが、銃に変形する女性のリディアと出会い、自分たちの住処を見つけるために犯罪者たちと激しい戦いを繰り広げるという物語らしい。銃は古代のアンティークとしてたまに見つかることがあり、レプリカも作られているが、整備の煩雑さや銃弾のコストの問題で使用者は少ない。銃弾の魔鋼をエネルギー源にするため、魔力の少ない人でも使えるいい武器だとは思うのだけど。
「ちょっと読んでみようっと」
そして、私はページをめくり始めた。
ドンッ
雨が降り続ける灰色の空の下で、銃声がこだました。
「グッ」
「チッ、逃げ足の早え野郎だ」
デカい犬を無理やり歪めたようないびつな形の獣が逃げていく。弾は当たったが、致命傷ではないらしい。
俺は思わず舌打ちする。弾もタダじゃない。あのターゲット、近くの非合法研究施設から脱走しやがった変異魔獣を取り逃がしたら赤字確定だ。研究者どもは片付けたが、あいつを逃がしたらやべえ。
「カイト、ターゲットは現在地より北東に時速90㎞で逃走中。おつむが不安なマスターのために忠告しますが、廃墟区画を選択しているため、銃撃は困難であると推測します」
「わーってるよ、いちいち余計なこと言うんじゃねぇよ、リディア」
女の声で答えるのは俺の銃だ。コイツは銃の形をした機工魔装「RDA004」の能力を持たせた人造人間だ。銘はリディア、今は銃形態に変形してナビゲーションしている。いつもは大してしゃべらねえくせにこんなときだけやたらと饒舌だ。
「しゃーねぇ、とっとと追っかけて仕留めるか」
環境汚染の結果、異常気象が起きてこの街にはいつも毒の雨が降っている。俺はきつく締めた防毒コートの紐をさらに締め直しながらマナ・モービルに飛び乗った。
ブォォォォォォンという腹に響く音を立てて、大型魔道バイクを起動すると、ターゲット目がけて走り出す。まずは目の前のゴミ山に突っ込んだ。
「さぁ、第二ラウンドだ!!」
展開した魔力シールドにガンガン瓦礫がぶつかるが、気にしない。どんな悪路だろうが、これまでコイツは走り抜けてきた。なら今回も駆け抜けるまでだ。
「オラァァァァァァァァァ!!」
ゴミ山をぶち抜いたマナ・モービルはそのまま崖を降りる、いや落ちていく。
「ターゲット発見。私の性能でこの距離ならば命中率99.99999・・・・」
獲物を見つけたリディアがなにやら言ってやがるが関係ねえ。
「うるせえよ。俺が使うんなら100%だ」
ドンッ!!
「グガッ!?」
雨空の下に二度目の銃声が響く。その後、ドスンと崩れ落ちる音がした。
当然だが、今度はあの犬コロの頭をぶち抜いてやった。
「全く、てこずらせやがって。おい、運ぶの手伝え」
俺は弾を撃ったばかりの銃を放り投げた。
放り投げた銃が光ったかと思うと、紫色をした長髪の若い女になって立っていた。恰好はなぜか大昔に流行ったとかいうメイド服なるやたらヒラヒラした服だ。
「手伝う必要性を感じません。貴方がボックスに詰めればよいのでは?」
「面倒くせぇ。お前がやれ」
「了解しました。はぁ、こんな自堕落横暴野郎の武器になるなんて、なんと不幸な機工魔装なのでしょうか」
人型、リディアはヨヨヨと泣き崩れる。ポンコツのくせに見てくれだけはいいからやけに様になっている。
「いいから、さっさとしろ。ナンバーズの連中がこれ以上好き勝手しやがると面倒なんだよ」
ナンバーズ、この汚染された世界を牛耳ってやがる政府組織直属の13匹の犬どもだ。政府のくせにろくな福祉もしねえ連中の手下だけあってやっぱりろくでもないやつらばかりだ。
さっきの研究所で一人、5番とかいうヤツをぶっ殺したが、次から次に生き返って湧いてきやがってキリがねぇ。
「はぁ、一つの案件が終わったと思ったらまた次の仕事が・・・ストライキを起こしても?」
「ぶっ壊すぞポンコツ」
「やれやれ、了解しましたよ。・・・ナンバーズの機工魔装の放つオーラは南東の方角、距離1万」
「南東か。よし、さっさとぶち殺すか」
俺はもう一度マナ・モービルのエンジンを吹かす。すると、後ろに体温を感じた。
「何してやがる、銃形態に戻れよ」
「いいじゃないですか。私も女ですからご主人様と心から慕う男につかまって二人乗りしたいのです」
「・・・・銃がナマいってんじゃねぇよ」
たまにコイツはこういう訳の分からないことを言い出す。本当に見てくれだけはいいもんだから対応に困る。バグだってんなら直すか直さないか考え中だ。
「たくっ、しょうがねぇな。舌かむんじゃねぇぞ」
「しっかり捕まってるのでご安心を」
俺たちは雨の中を走り出す。次の敵がいる場所に向かって。そして、現れる敵をすべて倒して倒して倒しまくるのだ。この改造人間の俺様と、このポンコツの一人と一丁、いや二人で。
いつの日か、俺の、俺たちの居場所をつくるために。
「くぅ~、やっぱりいいなぁ!!」
私は読み終わった「魔弾の狩人」をベッドに置いた。
やっぱり物語はいいものだ。物語の登場人物の心は私にも読めない。そして、私たち読者は神の目線ともいえる場所から登場人物たちの心が分っても、彼らは作中でその人物が明かしてくれるまで考えてることは分からない。それは普通の人にとっては当たり前のことなのだ。物語を読んでいる時だけは、私だって普通の人のように思える。だから、私は物語を読むのが大好きだ。
「きっと、このカイトって人もリディアさんのこと・・・」
多分カイトが主人公ならばリディアはヒロインで、作中では言い争っているけど、心の奥底では実は、というやつだろう。こういうところはある意味お約束の王道だ。
「うん、いいなぁ・・・」
こういう風にキャラクターの心情に思いをはせるのも好きだ。だって、その答えは私の忌々しいチカラでも分からない。知りたければ、私が考えてあたりをつけて、続きを読むしかないのだから。
「それにしても、今よりもずっと未来の異世界か・・・」
魔弾の狩人の世界、ニホンは魔法技術が発達しすぎた未来の世界らしい。
過去でも未来でも、この現実ではない世界というものに私は強くあこがれる。もういっそのこと本の中の住人になりたいと思うほどに。実際にそういう想像も何回もしてきた。
この現実では、私には重石にしかならないものがあるから。私を苦しめる外せない鎖があるから。
ここではない世界ならば、私の想像の世界の中では街を歩く普通の女の子になれる。未踏の地を探検する冒険者にだってなれる。あるいは、あるいは・・
「私も、いつか・・・・」
私もいつか、このカイトとリディアのように、自分の居場所ができたらいいなと思う。
「でも・・・」
できたらいいな。それが限界だ。私には、彼らのように現実を変える力なんてないのだから。
「・・・とりあえず、これの続きを探してこよう」
暗い気分を振り払うように口に出して、私は書庫に向かうのだった。
ちなみに、魔弾の狩人はその一巻しか置いてなくて、泣く泣く部屋に戻って魔竜スレイヤーを読み始めたのだった。
「えっと、あの、面白くなかったです・・・よね?」
「いやいや、面白かったですよ。なんというか、意外っていうか、新鮮というか・・・新しい一面を知れたみたいで。なんなら心を読んでくれてもいいです!!」
今僕が思ったことは口に出して言ったように真実だ。
楽しそうに本が面白かったとセリフの一つ一つまで語るシルフィさんは、見ていて僕も嬉しくなった。まあ、霧のせいで実際には見えないんだけども。
しかし・・・・
「ところで、本の内容がえらく詳しかったですけど、ひょっとして一字一句覚えてるんですか?」
「え? はい、そうですけど・・・? 私、集中して読んだ作品は絶対に忘れないんです。一日に多い時だと20冊くらい読むけどそれも全部。デュオさんは違うんですか?」
「違うも何も・・・そんなことができる人なんて初めて見ましたよ。というか20冊って・・」
「そうなんですか?」
速読と暗記とはかなり実益のある特技だろう。僕では一日に5冊くらいが限界だし、セリフまで覚えるのなんて3ページできればいい方だ。
「でも、物語系が一番好きなのはちょっと意外でした。魔道具をいじるくらいだから、魔法理論関係の本が好きなのかと思ってました」
「そんなことないですよ。私が魔道具の術式を書き換えたのは今日が初めてだったし・・・魔法関係の本は半分くらい流し読みしちゃうから今日も復習したばかりで・・」
「初めて!? 初めてで魔道具の連結までやったんですか!?」
「えっ? そ、そうですけど・・・その、私もデュオさんみたいに、何かしてみたいって思って・・」
なんというか、半端ない。読書やら記憶力やら魔道具やら、この人かなり多才な人なんじゃないだろうか。
「シルフィさん、田舎とはいえ仮にも貴族の僕が断言します。あなたはスゴイ人です。間違いなく、いろんな人相手に胸を張って自慢できる才能の持ち主です」
「え、え~!? そんなこと・・・」
「そんなことがあるんです!! もっと自信を持ってください!! 普通の一般人に一日に20冊の本の内容を全部暗記できたり、魔道具の術式加工がいきなりできるなんてありえませんから!」
この人の才能が埋もれているのは勿体ないと思う。もっとシルフィさんは自信を持っていいはずである。
「うう・・デュオさんがそう言ってくれるのは嬉しいんですけど・・・・知らない人相手に自慢するとか・・というか、デュオさん以外の人に関わるのは、怖いです・・」
「あ・・・」
そうか、この「幻霧」の中ではチカラが弱まるらしいから僕も気に留めていなかったけど、シルフィさんには本音を強制的に聞いてしまう心を読むチカラがある。それならば、他人と関わるのが嫌になってしまうのも仕方ないのことだろう。ずいぶんと図々しいことを言ってしまった・・
「その、申し訳ありません。シルフィさんの気持ちも考えないで・・・僕が無神経でした」
「き、気にしないでください!! 他の人は怖いけど、デュオさんは大丈夫ですから! それに、他でもないデュオさんが私をスゴイって言ってくれるのはとっても嬉しいのは本当なんです!!」
「シルフィさん・・・」
本当に、この人は優しいというか、とにかくいい人だと思う。普通の女の子と会話した記憶はあまりないが、無神経な男というのは嫌われるものだと思ってた。
「シルフィさん、すみません。ありがとうございます」
「いえいえ、本当に気にしないでください・・・本当に私はデュオさんになら無神経だなんて思いませんから、お互いこの話はもう終わりにしましょう?」
「わかりました」
彼女がこう言っているのだ。僕ももうこの話題は終わりにしよう。
「えっと、じゃあ気を取り直してというか・・・シルフィさんも「黒の狂戦士」読んでたんですね」
「あっ、もしかしてデュオさんも読んでいるんですか!? あれ、面白いですよね!!」
話題を変えるために振ったのだが、予想以上に食いついてきた。偏見かもしれないけど、本好きの人が自分の好きな本を語るときって異様にテンションが上がっている気がする。
「は、はい、一応。家の本棚にあったので・・・」
「そうなんですか~! あのお話し、臨場感のある闘いの話に、殺伐としたヒロインどうしの修羅場があっって・・・」
「そうなんですよね。あのギスギスした感じが妙にリアルで面白いんですよ。特に2巻での魔法使いのヒロインがいいなって思います」
「はい!! わかりますとも!!」
やっぱり、シルフィさんは乗りに乗ってきた。ああいう修羅場のある話って、女の子でも読むのか・・・
「あ、そうだ、2巻といえば・・・話は変わりますけど、デュオさん、「魔弾の狩人」ってお話しの2巻以降をしりませんか!?私、すっごく続きが気になっていて・・・」
「魔弾の狩人、ですか? すみません、聞いたことがないです・・・今度王立図書館で探してみますね」
「ほ、本当ですか!? ぜひ、ぜひお願いします!!」
「わ、わかりました・・・」
それからしばらく、僕がまた紙にモンスターの名前を書いて帰るまで、僕とシルフィさんは本のことについて語りあったのだった。
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