第18話

 エンチャント、付与魔法はどの属性にもある攻撃魔法や防御魔法と並ぶオーソドックスな魔法だ。強化や弱体化を司る魔法で、前衛、後衛を問わず広く使われる。魔技は性質上、瞬間的な攻撃や防御にしか使えないので、持続的な強化を行う場合には付与魔法の方が効率的な場合も多く、付与魔法を使用した上で魔技を使うことで消費は大きいが、かなりの威力の攻撃を行うことができる。魔法の性質が色濃く反映され、炎の付与魔法ならば、武器に炎をまとわせたり、鎧に炎に対する耐性を持たせることができる。僕の場合は・・・




ブゥゥゥゥゥン・・・・・




 僕の剣の刃が震えて、重い音を立てる。




「やっぱり、ちょっとうるさいなぁ」




 中級魔法よりはマシな音量だが、手に持ってるくらい距離が近いとさすがに気になる。


 僕の音魔法の場合、武器に使えば、高速振動する刃で岩をも切り裂き、防具、僕がつけているグローブに使えば、その振動が持ち主にまで及ばぬように耐性をつけることができる。




「ガアアアアアアアアア!!」


「セイッ!!」




 走る僕に対して、鈍重な動きで殴ろうとするトロールの腕をかわしてから、振動する剣で斬りつける。




「ゴォォォォォ!?」


「っと、危ない・・」




 剣は僕の胴ほどもある腕の半ばまで食い込んだが、腕を引こうとするトロールにそのまま持っていかれそうになったので振動を強化して慌てて引き抜いて後退する。ここで剣を失うのはマズい。




「エンチャントしただけじゃ、力不足か・・・」


「グウウウウウウ・・・・」




 右腕をやられたトロールは警戒しているのか、向かってこない。アンデッドならば考えなしに突撃してくるからカウンターを決めるのも楽なのだが。


 しかも、さっきのトロールゾンビと違ってこの生きたトロールは全身に脂肪がついてる。骨太の腕にはあまり肉がついていないようだが、腕を斬っても致命傷にはならないし、なにより警戒していて斬らせてもらえないだろう。音魔法も僕が使える最高威力の魔法は衝撃波を出す中級のクライ・インパクトやその派生魔法だから、おそらく大したダメージにはならない。盾を使った魔技も効き目は薄いだろう。




「どうしようかな・・・」




 トロールとにらみ合いをしつつ考える。


 トロールゾンビはかなりあっさり倒せたが、それは、基本的にアンデッドは生前よりもやや強くなるタイプか、より劣化するタイプに分けられ、トロールは後者だからだ。正確には一部の能力が上昇する代わりに、別の能力が下がると表現する方がいいだろうが、トロールは脂肪の鎧を失うなど、アンデッド化した場合のデメリットの方が大きい。さっきはあちらの攻撃は当たらず隙だらけで、こちらは弱点に簡単に攻撃を当てることができた・・・・よし、そうだ、まずは攻撃を当てる隙を作ろう。




「隙を作って・・・強いのを叩きこむ!!」


「グオ!?」




 魔力を溜めつつ、もう一度僕の方からトロールに突っ込む。トロールはいきなり突っ込んできた僕に驚いているようだが、ケガをしていない左腕を僕の方に向けて構えている。僕の攻撃を受けるなりいなすなりしてから反撃するつもりなのだろうか。それに対し、僕はトロールの頭に手をかざす。




「バンシーズ・シャウト!!」


「グギャァァァ!?」




 キィィィィィンという女の悲鳴のような甲高い音が響く。この魔法は攻撃力はないが、思わず耳を塞ぎたくなるような嫌な音を発生させて相手を鈍らせる魔法だ。威力のことに気を割かなくていいので、そのぶん音の響く範囲を調整することもできる。感覚の鈍いアンデッドには大して効果はないが、思惑通り、突然耳元で発生した金切声のような音を聞いてトロールは構えを崩して両腕で耳を塞いでいる。僕は勢いのままトロールの足元に駆け込んだ。狙うのは、地に立つために欠かせない、足。




波斬クライ・エッジ!!」


「オアアアアアアア!?」




 エンチャントをかけた剣で、クライ・インパクトを元にする魔技、波斬を出す。足にもついている脂肪で剣を走る振動がいくらか減衰されたが、魔法と魔技の相乗効果で僕の剣はトロールの太い右足を切り落とした。




「グゥゥゥ!!」




 足を切られたトロールはケガをした右腕を地につけつつ、苦し紛れのように健在な左腕で殴り掛かる。ここまで近づいていると避けるのは難しい。僕は咄嗟に盾を構えた。




反甲カウンター!!」


「ガッ!?」




 元々の力が弱かったのか、脂肪に吸収されたのかは分からないが、トロールゾンビのように吹っ飛びはしなかった。しかし、自分の力で殴り返されて痺れたのか、動きが止まった。そして、僕は剣を手前に引いて、溜めつつ、突き出すように構える。




震穿クライ・スラスト!!」


「ギュボォォォォ!?」




 最後に狙うのは、脚を斬られたことで低い位置に降りてきた、首。高速振動する一本の剣は、ドリルが土を掘り返すように、トロールの首の肉を抉っていく。




「ハアッ!!」


「ヒュー、ヒュ・・・カ、ボ・・・」




 最後の一押しと、力を込めてねじ込むと、剣はトロールの首を貫いた。剣を引き抜くと、夥しい量の血が噴き出して大地にしみこんでいき、トロールは動かなくなってドスンと地に伏した。




「ハアハア・・リーゼ、後始末お願い・・」


「フゥゥゥ!!」




 エンチャントを維持したままで魔技を3発も連発するのは堪える。さすがにに魔力が少しヤバい。早く帰りたいと思って、少し焦っていたかもしれない。もうちょっと魔力を抑えて戦ってもなんとかなったんじゃないだろうか。


 見張りを続けて上から見ていたリーゼロッテが降りてくると、トロールの死骸に炎のブレスを吐いた。


 アンデッド化を防ぐためにキチンと灰にせねばと思っていると、火が消えた。なんだ、と思っていると・・




「グォっ、グオッ」


「お腹減ってたの? 昼間のオークがまだ残ってるだろうに・・」




 リーゼロッテはトロールの焼肉の味がお気に召したようだ。保存するよりも焼きたてを食べたかったのだろうか。それとも、このトロールも胃の余剰空間に詰め込んでいるのか、トロールの脂ののった肉は瞬く間にリーゼロッテの腹に収まった。今は僕が切り落とした足を生でかじっている。ドラゴンのエネルギー消費は謎が多く、胃に何も残ってないのに年単位での絶食にも余裕で耐えることもあれば、今みたいに満腹状態のはずなのに胃に収まらない量をがっつくこともある。パートナーとしては食費に悩まなくて都合がいいのだが、不思議なものだ。




「あ、そうだ。せっかくだし、骨はもらっておこうか」




 僕が切断するのに苦労したトロールの頑丈な骨は、それなりに高く売れる。というのも、中級以上のモンスターには魔鉱化したような部位があることが多く、オーガやトロールの場合は骨が良質な魔鉱と極めて類似しているのだという。この骨やスライムの核などのモンスターからとれる素材を買い取ってくれる組織は、どこの町にも一つはあり、国が資金を出して運営している。僕の泊まっている宿の近くにも大きな買取屋があったはずだ。昨日のスライムの核と合わせて、資金の足しにしよう。けど、トロールゾンビのやつは止めておこう。脆くなってるだろうし、なにより臭い。




「キュル?」


「リーゼ、あっちもお願い。燃やすだけでいいから」


「グアアア!!」




 そういうと、トロールゾンビの死骸も瞬く間に炎に包まれ、今度は消えることなく炭の山になった。やっぱりアンデッド化した影響なのか、劣化していたらしい。


 一方、生きていたトロールの方は、リーゼロッテも硬い骨は食べる気にならなかったのか、骨は綺麗に残してくれた。一片の肉も残っていないのは流石というべきか、意地汚いというべきか。僕はリーゼロッテの鞍に括り付けていた空間魔法のかかった鞄に骨を詰めていく。容量ギリギリだが、なんとか収まった。




「はぁ、流石に疲れた。よし、今度こそ帰ろう。リーゼも疲れて・・ないみたいだね」


「ギャウ!!」


「うん、じゃあお願い」




 リーゼロッテは食べすぎたのか、若干よろめきつつも、僕を乗せて夕焼けのオレンジの空に飛び上がる。


 今日は昼間にオークを倒してもらったとき以外、ほぼ見張りのためにあたりを飛び回ってもらっただけで、運動量は大したことないが、おいしい肉をたくさん食べて今朝よりもかなり機嫌がいいように見える。


相棒がご機嫌のようで、僕も気分がいい。




「これで、本番は少しは楽になるかな・・」




 今日の目的である、場所の確保は終わった。アンデッドの掃除もしたし、予行練習でトロールを倒せたのだ。かなりの収穫だったといえるだろう。




「ちょっと、今日はギリギリだったかもしれないけどね」


「ガウ?」




 僕の魔力保有量は同世代の間ではかなり高い方だ。元々貴族には魔力が多い人がよくいるが、僕の場合、母さんの魔力量が父上よりも多かったからその遺伝だろう。母さんが使うボックスという魔法は僕たちの住んでいたの屋敷を丸々しまえるくらいの容量があるらしい。


 ともかく、その魔力量が多めの僕でも今日はきつかった。音魔法特化の僕は、音魔法であれば他の人よりも高い威力を出しつつ、格段に魔力消費が少ない。下級魔法のインパクトならば一日中休まず撃っても耐えられるくらいだ。基本的に僕の戦闘スタイルは、スケルトンやゴブリンのように下級魔法だけであしらえる相手ならば魔法のみ、オークくらいなら魔法を複数撃つか、隙を見て剣か盾で倒すのだが、中級モンスターとの連戦ではこちらも中級以上の力を使わざるを得ない。今日みたいに下級魔法で攪乱してから強力な魔技を叩きこんで、動きを止めて、反撃させる間を与えずに仕留める。魔技の連続使用はもちろん、エンチャントと魔技の合わせ技は特化していてもかなりの魔力を消費するし、そのうえ今日はその前に結構魔力を使っていた。途中で魔力消費による脱力で攻撃の手を緩めたら、反撃を食らって倒れていたのは僕だっただろう。臨時報酬も入るだろうし、ちょっと高いけど本番に備えて、魔力回復のポーションを今よりも増やしておこう。




「さて、王都に戻ったら買取屋に寄って、いや、やっぱり宿に帰ってご飯食べて・・今日は何かな」




 あのアンデッドのような宿の老夫婦は、僕が部屋を汚したときは怒っていたが、ちゃんと謝ったら許してくれた上に、「今時の若者にしちゃあ素直じゃないか」と言って、その日のおかずを一品増やしてくれた。見た目は怖いがいい人たちだと思う。




「その後は、図書館で借りた本でも読んで、寝て・・・また「幻霧」か」




 ここ3日で、ずいぶんあの空間とシルフィさんに慣れたと我ながら思う。結局あの場所のことは全く分からないけど・・




「シルフィさん、今日僕がトロールを倒したことを聞いたら、驚いてくれるかな・・」


「グルルル・・・・」


「うわぁ!? ちょっと、いきなり何!?」




 突然、リーゼロッテが曲芸飛行を始めた。背中に僕を乗せたまま、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。そして空中で綺麗に一回転だ。




「ちょっ・・・本当に気持ち悪くなってきたから、マジでやめて・・・」


「・・・グルッ」




 僕の必死の願いが通じたのか、「しょうがねぇな」とでもいうように、リーゼロッテは安全運転に戻ってくれた。危ない危ない、昼間のオークを空中でリバースするところだった。


 そんなこんなで危うくなりつつも、シルフィさんの反応を少し楽しみにして、僕とリーゼロッテは王都に戻るのだった。










 王都の中心にある王城の一室、4階北の角部屋にて、銀髪の少女が一心不乱に本を読んでいた。本を読むことだけならば、この少女にとって珍しいことではないが、今日のそれはまさに鬼気迫るというべきものであった。




「・・・もう一度、復習しておこうかな」


 私は改めて目の前の魔法理論の本を読む。書いてある内容は基礎中の基礎なのだが、魔法はイメージが重要であり、その基礎から理解できていなければ発動は困難だ。とくに、久しぶりに魔法を使う私にとっては。




「・・・・・・」


本の内容に目を通す・・・・・




【魔法を使うための基本事項】




● 魔法という技術は魔力を己のコードによって加工、変換して放つ、もしくは他の物体になんらかの影響を及ぼすものである。大きく、「具現化魔法」と「変化魔法」に分けられる




● コードとは、この世のあらゆる物にある、その物をソレたらしめる「本質」、魂とも呼べるモノである。物体のコードは「コード」もしくは「物体コード」と呼ばれ、魔力のコードを「魔力コード」という。




● 魔力とは、生命力や精神力を持つモノからあふれたそれらのあやふやな力が、あらゆるものを内包する世界そのものの「コード」にあてられて変質したエネルギーである。大気中や体内の魔力コードはどの属性も均一を保つが、ある物体のコードの影響を受けて、特定の魔力コードのみが濃くなったとき、魔力はその物体に実体化する。例えば火の魔力コードが強められると、その魔力は火となって顕現する。




● したがって、「コード」と魔力はお互いに干渉し、「コード」はその物体にもよるが、強力な魔力やコード操作を目的とした魔法で弄ることができる。




「このあたりは基本中の基本ね」


このぐらいは子供が町や村にある小さな学校でも習うことだ。




「デュオさんは音魔法にしか適正がないっていってたけど・・・」


 そういう特化型の人も稀に現れる。そうした人たちは特定の魔法ならば他の追随を許さないが、他の魔法は使えない。特化型の人の魂は、特定の属性のみ、デュオさんの場合は音だが、が極めて強く、他の属性のコードを阻害するからだという。普通の人は多少のばらつきはあれどすべての属性がほぼ均一だ。そして、ある特定の属性を思い浮かべることで、その属性のコードを一時的に強めることで魔力を変換している。




【コードと魂】


● あらゆる物にある魂、「コード」は世界そのものの「コード」の欠片という説があり、世界の要素がどれほど含まれるかによって、その「コード」を持つモノが何になるか変わる。生物のような流動的で運命的に不安定な存在の場合、同じ種類ならば魂の誕生時、世界から放たれた時のコードはほぼ同一だが、肉体を得た段階、ヒトでいうのならば母体に宿った段階でコードに差異が見られるようになる。環境なのか才能というべきなのか、これの原因は不明。




● コードが宿っている物体そのもの、人間であれば肉体は肉体コードという大本のコードの一部がコピーされ、その影響を受けた魔力が実体化したモノだという説がある。また、コードが元になって物体は作られるが、一方で物体が傷つくなどの影響を受けた場合、コードにも欠損が見られ、常にコードと物体はリンクしているとされる。




● 魔法を介さない場合の変化は、コードが変化するために物体が変わるのか、物体が変化したためにコードが変化するのかは不明である。




「コードの違い・・才能か」




 本をめくる手を止めてふと考える。


 すべての人間はもともとは同じ「人間」のコードを持つが、細部で微妙に異なる部位が生まれ、それがいわゆる「個性」、「才能」として現れるという。デュオさんや私のチカラも忌々しいが、一種の個性といえるだろう。しかし、そんなチカラを持っている人なんて聞いたこともない。そして、そうした才能は家族で似通うというが、私よりもはるかに優秀な私の姉たちがチカラで苦しんでいる様子もない。ならば、私達がそんなチカラを持つようになった原因は何なのだろうか。




「考えても分かるわけないか・・」




 声に出して湧き上がる疑問を打ち払うと、私はページをめくった。どうやら次の章とその次の章はかなり関連があるようで、章の最初に注釈があった。




【コードと魔法】※次章も参照されたし




● 具現化魔法に分類される攻撃や防御の魔法は、体内の生命力、精神力を魂をもって魔力に変換し、イメージによって強まった特定の属性のコードによって属性に変換して放つものだ。イメージの際に形状も想像することで操作可能。




● 魔力から属性への魔力コードの変化度合いを想像力によって調整することでコードを書き換えるための中途半端に属性を持つ魔力を作り出し、コードに何かを加えたり、変えることで、外見や性質を変えるのが、変化魔法であり、付与魔法などがある。




● 特定の魔力文字を唱えることを詠唱といい、魔力コードをただイメージするよりも正確に加工するためのモノである。具現化魔法にせよ変化魔法にせよ、中級魔法は詠唱さえあれば発動するが、上級魔法には術者の想像力と詠唱の組み合わせ、そして下地となる膨大な魔力が必要不可欠である。




【コードと魔力文字】


● 「コード」というのは大多数の人間には見えないモノであり、一部の人間が特殊な魔道具や魔法を使って、初めて魔力文字の形で認識できるものであるため、細かい調整が困難。よって一時的な身体強化魔法ならばともかく、変化魔法の効果を永続的に持続させるのは難しい。




● 魔力文字というのは、この世界の理、この世界の「コード」を読み解いたとされる賢者という存在が、魔力のみが持つ「魔力コード」に影響を与える発音、形を作り出して残したモノとされる。物体に刻みこむと魔力を流すことで自動的に変換が行われる。




● 魔力文字そのものは魔法の詠唱のために唱えたり、教本に書かれているため読める者はそれなりに多い。しかし、魔力コードと違って物体の「コード」を表現する魔力文字は非常に情報量が多く、常人には解読は不可能。




「これが、王族の義務の理由・・・」


長い文章を一息に読み終わり、私は本を置いて、魔鋼を手に取った。


オーシュ王国の王族にはいろいろと体質として受け継がれているモノがある。そのうちの一つがコードを読むための処理能力と・・・




「スキャン」




 コードを読むための魔法だ。魔法が発動したことで、手に持った魔鋼のコードが見える。この魔鋼は私の部屋の近くの物置で埃をかぶっていた扇風機という風を起こす魔道具にはまっていた魔鋼だ。スキャンによって魔鋼には魔力が流れると風に変換する魔法が付与されているのが分った。そこだけ妙に不自然に映るのだ。




「・・・デリート」




 私の魔法を受けて、魔鋼に刻まれていた付与魔法を消去する。




「・・・・エンチャント」




次に、私はまっさらな魔鋼に付与魔法を施す。付与するのは、火。




「どうかな?」




魔法をかけた魔鋼を魔鋼の嵌っていない空のストーブに取り付けて魔力を流す。ストーブはとくに問題なく煌々と光を放った。




「なら次は・・・デリート、エンチャント・・・・エンチャント・コネクト」




 さっき火の付与をした魔鋼にもう一度デリートをかけてから、元の風の魔法を刻みなおす。そして、風の魔鋼とストーブに元々嵌っていた火の魔鋼の二つに魔法をかけて、火の魔鋼をストーブに、風の魔鋼を魔力を扇風機にとりつける。それから、二つの魔道具を並べて魔道具の魔力を流し込む魔力回路の始点を紐でつないでから魔力を流す。ちなみに、この紐も物置に転がっていたモノで、元は首飾りか何かの紐だったのだろう。贅沢なことに魔鋼でできた細い鎖が織り込まれていた。




「ん、うまくいった・・」




魔力を流すと、ストーブの魔鋼は赤く光るが熱を放出せず、ただ風を起こすだけの扇風機からあたたかい風が吹き始めた。久しぶりの魔法は成功のようだ。




「成功か・・・案外覚えてるものなのね」




 王族はある義務のために魔法を教わるが、基礎として教えてもらう魔法は今使ったスキャン、エンチャントとデリートの3つの魔法だけだ。あとはこの魔法を応用して「エンチャント・コネクト」のような魔法を憶えて義務を果たすことになる。・・・私はやってないが。


 今さっきやったのは、一度、魔鋼に刻まれた魔法Aを消してから、また別の魔法Bを付与するというもの。これはリハビリがてらの基礎の復習だ。そして、応用としては、二つの魔鋼に刻まれた魔法Aと魔法Bを組み合わせるというものだ。ある魔法が刻まれていた魔鋼から魔法を消去して別の魔法を付与する場合、消しきれなかったり、上手く付与ができないと失敗して何も起こらない。そして、魔法を組みあわせる場合は、上手く調整しないと、術者が想像もしていなかったようなことが起きたりする。例えば、私は火と風の魔法でちょっと熱いくらいの風を吹かせたが、失敗していたら風がストーブの火に吹き込まれて火事になっていたかもしれない。一応水を出す魔道具は用意しておいたが。




「使うようなことがなくてよかった・・」




 ともかく、腐っても王族の私は、引きこもる前にこの魔法を教えてもらっていたし、何気なく読んでいた魔法理論の本で応用の方法も知っている。なぜか、私がよく読んでいた国の伝説や物語がある本棚に紛れ込んでいたけど、誰かが間違えていれたんだろうか。




「コレ、ここに置いておこうかな」




 私は、さっきいじった熱風を出す魔道具を眺める。


 時期は春だが、夜はまだ少し肌寒い。私は布団にくるまっていられるが、デュオさんはひょっとしたら寒い思いをするかもしれない。部屋には暖房に使う魔道具はあるが、備え付けで動かせないから「幻霧」の中では使えないのだ。




「デュオさん、喜んでくれるかな・・」




 デュオさんがどんな反応をするのか、期待半分、不安半分で夜を待つのだった。


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