第6話

「ええと、まずは自己紹介から・・僕はデュアルディオ・フォン・シークラント。呼びにくいようであればデュオと呼んでください。あと、こんな夜中に部屋に上がり込んでしまい、大変申し訳ありませんでした!」


「あの、もう謝らなくてもいいですよ? 気持ちは十分わかってますから・・・えっと、私はシルヴィ、コホンッ・・・ええとシル、シル・・・そう!シルフィっていいます!」




 あれから僕たちは少しお互いに落ち着いてから、話し合いを始めていた。ちなみに埃が舞うのでもう土下座は止めているが、一歩も前が見えないくらいの霧に覆われているため、お互いその場から動いていない。というか、まずは自己紹介からと思ったが、なんとなく彼女は本名を名乗っていないような気がする。・・・どうしよう、僕も本名を名乗らない方がよかっただろうか。いや、こっちは闖入者だ。せめてそれぐらいの誠意は見せるべきだろう。




「? また何かが伝わってきてる? ・・・・感情の強弱が原因なのかな・・・ううん、それだけじゃあ・・・」




 シルフィさんは何やらつぶやいているが、僕のところまではうまく音が届かない。魔法的な特性上、普段ならばまず聞き取れるのだが・・・




「もしかしたら・・・・やっぱり聞こえなくなった!!」




 あ、まだなんか言ってる。ここは、さっきみたいなことにならないように早めに突っ込んでおくか。




「あのー、どうなされました?」


「あっいえいえ! ちょっとここに来てから体調が落ち着かなくて・・・・やっと安定してきたんです。 もう大丈夫ですよ」


「なるほど、そうでしたか・・・」




 確かにシルフィさんはなんだか情緒不安定だった。こんな訳の分からない場所にいるのもあるのだろうが、日ごろから体調が悪ければああなるのも仕方ない。まあ、そもそもこんな不衛生な部屋に住んでいるから体が弱いのかもしれないが。




「あの、お節介かもしれませんが、部屋の掃除はしっかりした方がいいと思いますよ? 埃を吸い込んでいると肺の病気にかかるそうですから」


「へっ? あ、はい。 そうですね、明日にでもきちんと掃除しようと思います・・」




 うん、実はさっきから言いたかったことを言えて少しすっきりした。っと、ずいぶんわき道にそれてしまっているな。落ち着いて話し合おうと決めたではないか。




「えっと、それじゃあ本題というか、現状の確認をしてもいいですか?」


「は、はい。・・・・とはいっても、私も何がどうなっているのか・・・・霧で見えませんが、私の座ってるベッドは私がいつも使ってるものみたいなので、多分ここは私の部屋だとは思います。 でも、こんなことが起きたことなんて一度もないし、何の心当たりもないんです。 えっと、デュ、デュア・・・・・デュアr・・痛っ・・うう、舌噛んだ・・・」




 僕の名前、そんなに言いにくいだろうか?




「だ、大丈夫ですか? 僕のことはデュオでいいですよ。 僕の周りの人は皆そう言いますし・・・」


「うう・・・じゃ、じゃあ、デュ、デュオさん・・・・デュオさんは、心当たりは何か?」




 シルフィさんは痛みからか、若干震える声でそう聞いてきた。しかし、僕としても・・・・




「いえ、僕もなにがなんだか・・・昨日は王城の近くにある宿に泊まったはずなのですが、目が覚めたらいつの間にかここに・・・・あの、本当ですよ? 嘘じゃないですから!!」




 理由は分からないが、気が付いたら夜遅くに女性の部屋に侵入していた・・・・自分で言っておいてなんだが、相当疑わしい発言だと思う。もし、シルフィさんが王城の司法機関に訴えたら、まず僕では勝てまい。そんな僕にシルフィさんは・・・・




「・・・・・痛っ・・頭痛? なんで? でも「声」は聞こえた・・・・・えっと、デュオさんの言うこと、私は信じますよ。 普段だったらわからないけど、今はとても不思議なことが起きてるみたいですし・・・」


「ん?」




 なんだ?今一瞬ザワッとした感覚が・・・・


 いや、置いておこう。それよりも小声で前の部分はよく聞こえなかったが、シルフィさんは僕の言うことを聞き入れてくれたみたいだ。確かに、屋内なのに前が一歩も見えないくらいの霧が立ち込めるなんてそうそう起きることじゃない。




「助かった・・・」


「? デュオさん?」




 本当によかった、濡れ衣で訴えられて騎士試験を受けられなくなったなんてことになったら末代までの恥だ。そんなことにならなそうでよかった。


 僕はホッと胸をなでおろした。












「ふむ、それじゃあ、お互いに気が付いたらここにいたって感じですか・・・・霧をだせるような水や風の魔導具もなし・・と。」


「はい。あ、一応空間魔法への適正はありますけど、ほんの少ししか・・・ワープなんてとても・・」


「ああ、小さい物ならともかく人間を跳ばすのはすごく難しい上に何人かで協力しなきゃできないらしいですしね・・」




 あれから少しして、私と霧の向こうの男の人、デュオさんは現状をどうにかすべく話し合いをしていた。まずはお互いがどうしてここにいるのかということについての話になった。まずは空間魔法、それだけでなくいろんな魔法の面から考えてみている。


 私は生まれてこの方「義務」のために教えてもらった魔法しか使ったことはない。しかも実際に「義務」のために使ったことはまだ一度もない。一応他にも「ボックス」という空間魔法は使えるが、精々本を数冊運ぶときの鞄がわりになる程度だ。使い手の多い汎用魔法の水や風に至ってはそもそも適正がないから使えない。彼にはいっていないが、部屋にあるお風呂に使う魔導具でもこんな濃い霧を出すのはできないはずだ。


 さっき使った魔法も効かなかったし、そもそも、この霧は普通の霧ではないのだろう。




「しかし、空間魔法に適性があるなんて珍しいですね・・・僕も母が空間魔法使いなんですけど、特に受け継がれなかったみたいで・・・」


「わ、私だってそんな上手い方じゃないと思いますし、最近はほとんど使ってませんから・・・あと、空間魔法みたいな特殊な魔法は個人個人の資質が大きいみたいですから遺伝は関係ないらし・・・あっ、その、デュオさんのこと、才能ないって馬鹿にしてるわけじゃないですよ!?」


「? えっと?」




 失礼なことを言ってしまったかと、取り繕ったような杜撰な言い回ししかできなかったが、なんとか弁解の言葉を送れた。さすがに初対面の人にいきなり嫌われるのは嫌だ・・・・・


 ともかく、空間をいじくる空間魔法について、デュオさんがそうした能力を持っている可能性は限りなく低いだろう。最初にこの部屋に誰かがいるんじゃないかと思った私も相当驚いたが、先ほどから伝わってくる感情から、彼にとってもこの状況は予想外であり、今の会話からこの状況を解決する手段も持っていないということがわかる。というか、この人は今まで私が接してきた人たちに比べるとかなりいい人のようだし、そもそもこんなことを起こそうとする人だとは思えない。




「・・・・・・」




 と、私はなぜか冷静に分析できていた。元々私はお家柄からこういった分析は得意な方なのかもしれないが、今日はとりわけ冴えていると思う。それはおそらく彼が悪い人ではないことが分っているから・・・いや違う、それだけじゃあない。こんな状況がどうでもよくなるくらい関心のあることがあったからだ。




(本当に、コントロールできるようになってる・・・・)




 相手の考えていることが伝わってくる。小説なんかではそれなりによく目にする設定だし、政治の世界に身を置く者ならば喉から手が出るほど欲しい能力かもしれないが、私にとっては呪いでしかなかった。笑顔で私に贈り物を渡してくる人でも、心の中では王族に媚びを売ってライバルを出し抜くことに腐心している。城で働く執事やメイド、衛兵であっても、汚いことを考える連中がいた。


 小さなころは頭に響く「声」としゃべっていることが違うことを不思議に思って問いかけてみたりしたが、はぐらかされるばかりだった。もっと詳しく聞こうと、相手の思っていることをそのまま口に出して言ったらとても嫌な顔をされることがよくあった。それからは、頭の中に響く「声」は口に出してはいけないんだということに気づいたけど、いろんな人に避けられるようになっていた。そうして城の書庫で気晴らしになるものはないかとたくさん物語を読んでいるうちに、自分が周りと違っていて、普通は他人の考えていることなんて分からないということが分った。そうなるころには、私は上っ面では笑顔なのに私を疎ましいと思っている周りの人達と関わるのが嫌になっていた。・・このチカラのせいで嫌な思いをしたことは数えきれないが、もうたくさんありすぎていちいち思い出すのも難しくなっている。


 ともかく、私の人生はこの忌々しいチカラに振り回されてきた。




(でも・・・今日の夜は違う。)




 今日はだれかがしゃべっていることに気が付いて目を覚ましたが、それは耳から入ってくる声で、頭の中には何も聞こえてこなかった。これまでだったら、話し声が聞こえてくるくらいの距離にいる人ならば、壁の向こうにいようと「声」は聞こえてきたのだが・・・。デュオさんとこうして話している内に、その伝わってくる感情や「声」にムラがあって、もしかしたらこの場所では自分の感情によってコントロールができるのではないかと思ったらその通りだったのだ。常日頃、こんなチカラなんてなくなってしまえと思い続けていた私の意識がデュオさんの感情の強さと拮抗していたのだろう。魔法の威力は感情のコントロールによってある程度制御できることを知ってからは、常にこのチカラを嫌うようにしていたが、無駄ではなかったようだ。




(でも、なんでいきなりこんな風に・・・もしかしてこの霧、魔法を弱める効果が・・・?)




 このチカラに対する憎悪ならば、人ひとりを余裕で呪い殺せそうなくらい強い自信がある。それでも今まではダメだったのだから、いきなりこうなった原因があるわけで、それは多分この霧か、この空間そのもの・・・・




「あのー、シルフィさん? もしかしてまた・・・・」


「あっいえ、違います!! もう本当に大丈夫ですから!」




 いけないいけない、また思考に没頭してしまっていた・・・私の悪い癖だ。もしまたさっきみたいに怒鳴られたら今度は泣いてしまうかもしれない。人に不気味に思われるのは慣れているが、怒られるのは本当に久々だ。




「そうですか・・・・」




 デュオさんは不安そうにそう言った。


・・・・・伝わってくるのは不安と罪悪感。特に聞きたいと思っていないのに伝わってくるということは、相当強くそれらを感じているからだろう。こんな見ず知らずの私に。




(本当に変わった人)




 私は内心そう思った。


 デュオさん、デュアルディオ・フォン・シークラント。まだ顔も見ていないが本当に変わった人だと思う。気づいたら部屋にいて、怒ったり謝ったりととても目まぐるしい動きのある人だ。でも、私のことを知らないのもあるのだろうけど、私を騙そうとは考えていないようだったし、襲い掛かってくる気もないようだ。さっきは私の部屋が汚いのを悟らせないようにしていたし、きっといい人なのだろう。その後掃除しなさいと言われてしまったけど・・・考えてみれば、私が「いい人」と思った人に出会うのはいつ以来だろうか。




「ならいいのですが・・・シルフィさんは、その、体が弱いのですか?」


「シルフィ? あっ、えーと、む、昔は弱かったですけど、今は元気ですよ!!」




 咄嗟に嘘をついてしまった。本当は引きこもりの今より、昔の方が健康体だったろう。


 しかし危なかった、一瞬誰のことを言っているのか分からなかった。王族だと打ち明けるのはマズいと思って偽名を名乗ってしまったが、ぼろを出さないようにしないと。・・・そういえばシークラントはこの国の地方の名前だったが、フォンというミドルネームといい、貴族なのだろうか。




「ならいいのですが・・・・じゃあ、話を続けましょうか。さっきここは自室だと言ってましたけど、この霧については?」


「えっと、ごめんさい、私にも分からないです。自室でこんなことになったのは初めてですし・・・私も結構本は読んでいる方だと思いますけど、こんな魔法は聞いたことないです・・・」




 私はベッドの上からそう答えた。彼に言ったように、私は暇をつぶすために時折城の書庫から本を持ってきて読んでいる。物語から魔法の実用書、歴史書や地形図などジャンルは適当に選んできたが、それでも昔から魔法関係の本はたくさん読んできた。霧を発生させる魔法は水、風系統の汎用属性を得意とする者が使用する魔法だ。目くらましのために、ただの霧を出す魔法がほとんどだが、毒や麻痺を引き起こす効果を持たせたり、酸性を持たせて攻撃に使うものも存在する。もしかしたら魔法を弱める効果があるのかもしれないが、幸いなことに目の前の霧はダメージを与えるものではないようだ。




「そうですか・・・・この霧、危険なモノではなさそうですけど」


「はい・・・毒とかではなさそうです」




 一応私は王族だからさらって身代金を請求なんてことを考える輩がいないとは言わないが、一向にこの魔法を使った術者が出てくる気配はない。というか、王城の警戒をかいくくぐって部屋に霧を出せるような手練れならもっと他の手がありそうな物だ。そもそも、長いこと引きこもっていた私の知名度なんて大したことはないだろうし、チカラのことだって小さな子供の戯言だと思われているだろう。人質としての価値があるかも怪しいものだ。




「本当に何なんでしょうね、この霧。というか、この場所そのものか・・・・一体何が原因なのやら」


「原因ですか・・・・」




 私は再び思考の海に潜る。そろそろ自分のことだけでなく、今の状況について考えなくてはならないだろう。原因・・・・「声」から私やデュオさんの魔法という線はない。ならば他の誰か・・・・これの可能性が一番高いだろうか。しかし、こんなことをする意図が思いつかない。ならば誰の意志も介さないことが原因?・・・偶然こんなことが起こる・・・絶対にありえないとはいわないが、天文学的確率に違いないから除外する・・・・この部屋にある魔道具の誤作動・・・これもない。この部屋の魔道具の構造は完全に把握しているが、間違ってもこんな空間に作用するような変化は起こらない。ならば、ならば・・・・




「うーん・・・・」


「シルフィさん?」




 デュオさんが何か尋ねてくるが、思考にふけっている私の耳には入らなかった。


 駄目だ、直接原因を探ろうと思ってもヒントが無さすぎる。もっと視点を変えよう。こんな異常事態が起こっているのに、王城が騒ぎになっている様子はない。王城の戦力が全滅するような何かがあった?・・・・これは保留、しかしかなり可能性は低いだろう。恐らく、この部屋でしかこの現象が起きておらず、空間的に隔離されているから気づかれていない・・・多分これだ。王城には警報もあるし、アレが鳴っていればすぐにわかる。戦いがあったとしてもやはりその音で気づくはず・・・・それを踏まえて考えると、どうして私とデュオさんがこの空間にいるのだろうか? 王城には夜でも多くの人間がいる。なぜ王城の外にいたデュオさんがここにいるのか? 私とデュオさんには一体何がある?・・・・・結局はここに帰結する。・・・・デュオさんのことは分からないからこれも一旦保留、私のことを考えてみる・・・が、やっぱり私に変わった部分なんてあの忌々しいチカラ以外・・・・




「・・・・・うーん」


「? どうしました?」




 チカラ・・これだろうか? まさかこの事態にはあの忌々しいチカラが関わっているのだろうか? 確かに、私自身自分のチカラのことはほとんどわかっていないから何があっても否定はできないのだが・・・他に怪しい要素が思い当たらない以上これしかないはず・・・・




「なら・・・」


「あの、シルフィさん?」




 だとするのならば、チカラが原因だとするならば、どうして私以外にも人が、デュオさんもいるのだろうか。




「・・・・もしかして」


「あの? シルフィさ~ん? またですか? またなんですか? また怒ってもいいんですか?」




 もしかして私と同じようにここにいるデュオさんにも私と同じような要素、私と似たようなチカラがあるのだろうか?・・・そうだ、チカラに原因があるのなら、デュオさんもチカラと何らかの関係がある可能性が高い。


 私は、にわかに高まる期待を抑えきれずについ聞いてしまった。




「えっと、デュオさんは、その、不思議な何か・・・えーと、そう!変わった体質だったりしますか!?」


「怒りますよ? 怒りますか・・・・えっ!?た、体質!?」




・・・・質問の仕方を間違えてしまったかもしれない。いや、いきなり「あなたには不思議なチカラがありますか」なんて聞けないし・・・・でも、いきなり体質のことを聞くなんて失礼だし・・・あれ、あんまり変わんないかも・・・・そんなふうに少し後悔していると。




「うーん、体質か。まあ他の人では見たことないようなことが起こったりはするけど・・・関係あるのかなあ?」


「えっ!?ほ、本当ですか!?」




 驚きのあまり声が上ずってしまった。まさか、本当に私の同類なのだろうか。




(デュオさん、ごめんなさい・・・)




 私は心の中で謝りつつ彼の言っていることに意識を向けた・・・・




「痛っ」


(・・・・・にあった時以来、なぜかアン・ッド・・スターに・・・すくなっ・・だよなあ。僕が・・スター退治に森・・に行くとすぐに・・ル・ンとかが・・てくるし・・・他のモン・・・にもやたらとよく・つ・・し・・・・。でもそれって関係あ・・かなあ?・・・まさ・・シル・ィさんってアンデッド・・か!?リッチみ・・な高位アンデッドは人間の・・をしゃべれた・・だぞ・・・!ってい・・か、また・ワッ・した感・が・・)




 一瞬頭が痛くなったかと思えば、疑問と恐怖の感情とともにそんなことが頭に聞こえてきた。コントロールができるなら、逆に心の「声」を聴くようにすることもできるハズ。その仮説の検証がてら、さっきデュオさんが私の部屋にいた理由について言っていたときに試したらできた。今回もノイズ混じりでよく聞こえない上にすぐに聞こえなくなってしまったが・・・・というか、なぜ私がアンデッドと誤解されているんだろう・・・




「シルフィさん・・・もしかしてあなたは、その・・・・」


「あ・・・」




 私がデュオさんの体質とやら把握しようとしていると、身じろぎするような音とともにデュオさんが震える声でそんなことを言ってきた。さっき、デュオさんが部屋にいた信じられない理由を不思議なことが起きているからといって信じたのはこの私だ。デュオさんが自分の考え信じ込んでも不思議ではない。




「え、えっと、違いますよ? 私はただの人間で・・・アンデッドなんかじゃありませんよ?」


「そ、そうですか・・・・よかった・・・」




 よかった、デュオさんの誤解は解けたみたい・・・




「あれ? 僕、アンデッドなんて言いましたっけ?」


「あ・・・・」




 あ、しまった。




「え、えっと、ほら!! あの、えっと・・・・その・・・・」




 ど、どうしよう、何も思いつかない・・・・




「というか、どうして僕はあなたの部屋にいるんでしょうか・・・もしかして、僕をここに呼んだのは、シルフィさんなんじゃないですか?」




 伝わってくるのは、強い疑念。そして、恐怖。


 マズい、このままではアンデッドと勘違いされて襲われてしまうかも・・・!!とにかく、何か、何か言わなきゃ・・・!!




「そうじゃなくて!!わっ、私は人の考えてることが分るんです!けど人間です!」


「え!?」


「あ! いえ、その・・・」




 ああ、 言ってしまった・・・・


 デュオさんにとっては、誘拐ともいえる事態の中、私にずっと心を覗かれていたということに他ならない。というか、本当に覗いてしまっていたし・・・・どうしよう・・・アンデッドじゃないとわかってもらえてもこれでは意味がない・・・・




「人の心を読むチカラだって?・・・なんだよソレ・・・」


「ひ・・・」




 何かが伝わってくる前に、私は両手で耳を塞いだ。伝わってくる感情も聞こえないようにするために・・・


 どうしようどうしようどうしよう・・・・・本当に怒らせてしまったのかもしれない、本当に殺されてしまうかも・・・!!




「・・・・・・・」




 私はただ震えて霧の向こうの顔の見えない彼の行うことに覚悟を決めることしかできなかった。

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