第二話 榊兄弟の物体連携

「5.6.7.8.…っと、準備体操終わり!いっちょやりますか!」


僕達は今体育館の更衣室で試合を前に最後の調整をしていた。

初戦の相手は一番始めに挨拶した榊兄弟。

兄の方は去年戦った事があって、"特異"は把握している。


問題は弟の方だ。

兄の力があるとはいえ、一年生にして予選を勝ち抜いた事は僕達を警戒させるのに十分だった。


けれど、情報を集める時間も無く、今試合が始まろうとしていた。


「烈火!俺は今宣言しよう!漢 榊示道(さかきしどう)たった一発でこの試合に蹴りをつけてやろう!」


榊先輩は右腕を空に突き上げ、高らかにそう宣言した。


「お…お兄ちゃん…カッコいい…」


弟の造は兄の側で目を輝かせている。


「榊先輩…お手柔らかにお願いしますよ…」


烈火がそうやって啖呵に啖呵で返した。

すでに烈火の手の周りには火花が飛んでいる。

近くにいると眩しい…ていうか熱い。


「それでは試合を始めます!試合開始!」


カーン!とゴングの音が鳴り響いた。


「造!"例のアレ"頼むぞ!」

「わ…分かったよお兄ちゃん!」


弟の造は兄に指示を出されると胸の前で手を合わせ、ゆっくりと開いた。

造の開いた手からは眩い光が溢れ出し、とても目を開けれるような状況では無かった。


光が消え、僕たちが目を開いた時、目の前には手に槍のような物を持つ兄の示道の姿と、隣で胡座をかきながら目を瞑っている造の姿があった。


「俺の弟、造の"特異"は物体作成。頭に浮かべた物をそっくりそのまま造る事が出来る。

そして、俺の"特異"、物体操作でこれを操作するとどうなるかくらい分かるよな?」


「条、逃げる準備をしろ。俺の予感だがこいつは相当やべぇ…」


烈火が…危機感を感じてる…!?


「さあ槍よ行け!まずは条!お前からだ!」


先輩がそう叫ぶと、手にあった槍が一人でに動き…僕の方に突っ込んできた。

これが榊先輩の"特異"…物体操作だ。


僕は迫ってきた槍を避け、榊先輩の方向へと走り出した。

榊先輩の"特異"は命令された事を達成するか、榊先輩自身が指示を出さない限り命令に従う。


去年はこれを逆手に取って、榊先輩の方向へ走り出すことによって、僕たちは勝利を掴んだ。


「条…あまいな、去年と同じように俺に勝てると思いきやそうはいかねぇぜ!造、今だ消せ!」


先輩の号令と共に後ろの槍が消えた。

あの槍は弟の造が作り出した物。

それならば消す事も可能だろう。


「条!危ない、接近戦に持ち込む気だぞ!」


烈火の声で、ハッと我に返ったけど既に遅かった。

既に僕の襟首を先輩の手が掴んでいた。

先輩は右腕を振り上げて、思いっきり殴ってきた。

僕は吹っ飛び、一瞬意識が朦朧とした。


「どうした!条!なぜお前は頑なに"特異"を使わないんだ!?」

「先輩!僕を忘れてもらっちゃ困りますよ!」


烈火が人差し指を銃の様にして、先輩へ向けた。

指先から出た火は空気を伝って、弾丸のように飛び出した。


辺りに煙が立ち込んだ。


その間に僕は体勢を立て直した。

まだ少し頭がガンガンするけれど、立ち上がらなければやられるのは僕だ。


やがて煙が消え、僕達の前に現れたのは2メートル程の壁だった。


「造、もう解いていいぞ。」


先輩と思われる声が響き、僕達の目の前の壁は消えた。

そして、姿を見せたのは無傷の榊兄弟だった。


「見たかぁ!これが俺たち兄弟の"特異"だぁ!お前達に俺は倒せない!」

「も…申し訳ないですけど…この試合…僕達の勝利です…」


榊兄弟はすっかり勝ち誇っている。

すると、弟が手を合わせてまた何かを作り始めた。


「今度こそお前らは終わりだ!俺たち兄弟の最強技で締めくくってやるよ!」


そう言った先輩は終わり既に手にナイフの様な物を構えていた。


「烈火に打っても焼かれて終わりだからな、

ナイフよ、条の体を貫け!」

「条!とにかく逃げ回れ!俺に考えがある!」


烈火の言う通り僕は追ってくるナイフから逃げ回った。


「無駄だあ!お前達が何を考えているかは知らないが、俺たち兄弟は倒せない!」

「それはどうですかね?やってみないと分かりませんよ?」


烈火は指を造に向けた。

造は物体を維持するために集中しているので目を瞑っていた。


「造!危ない!避けろ!」

「もう遅いですよ!」


烈火の指先から飛び出た火の玉は造の方向へ飛んでいき、爆発した。


「榊造が戦闘不能の為!この試合、暁烈火と一条一の勝利!」


審判の声と共に終了のゴングが鳴り響いた。

また、保健の先生が造に駆け寄っていった。


僕達の保健の先生…八乙女治尋(やおとめちひろ)は怪我を治す"特異"の持ち主。

八乙女先生がいるからこそ僕達は本気で戦えるんだ。


榊兄弟と握手を交わして、僕達は待機部屋に戻った。

烈火は氷室さん達の勝負がどうなったかを見に行った。


そして、今帰ってきた烈火がした報告に僕は耳を疑った。


「氷室達が…ボロ負けしたらしい…」


烈火も半ば信じられないといった様子でその事実を伝えた。


氷室さん達は去年最終決戦で戦って、その強さは烈火が認めるほどだった。

対して氷室さん達の相手は去年、決勝にすら出ていないペアだ。


あの氷室さん達がどうして…

僕達は信じられないまま、氷室さん達との戦いを前にした。

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