第三話 氷結点
氷室さんと雨宮さんがどうして負けたのか…
その疑問を抱えたまま僕たちは戦いに臨んだ。
目の前には虚ろに立っている二人…
「どうしてお前らがポッと出の奴らなんかに負けるんだよ!氷室!雨宮!なんとか言えよ!」
烈火が怒鳴りつけるように二人に聞いた。
「すまない、暁君。今は何も言えないんだ。許してくれ」
氷室さんが重々しく口を開いた。
隣の雨宮さんも何か言いたそうに見えたけど、何も言わなかった。
「ちっ…じゃあやるしかねぇな。条!いくぞっ!」
僕は正直なところこの状態の二人と戦うのは不本意だけど、戦わないといけない使命感のようなものに襲われた。
「暁君…君たちを優勝させるわけにはいかない。雨宮、行くよ」
周囲の温度が一気に下がったように感じた。
すると、突然氷のカケラが烈火の上に降り注いだ。
「こんなもの…俺の炎で溶かしてしまえばなんの問題もないぜ!」
烈火が上に火を放って降ってきた氷を溶かした。
氷は溶けて雨となって僕らの元へ降り注いだ。
「これでいいんだ。君たちが濡れてさえくれれば」
僕たちの濡れた体が更に寒くなってくる。
そこで僕は相手の作戦を全て理解した。
(あの二人…僕たちを氷漬けにするつもりだ。烈火に溶かしてもらっても恐らく雨宮さんが僕たちの周りに水蒸気を集めているからイタチごっこになるだけだ)
隣では烈火が服や肌を乾かしている。
このままでは僕たちの不利は覆らない。
どうにかしてこの状況を変えなければ。
「烈火君…もう諦めたらどうだい?君の足は既に凍っているのだから…」
氷室さんの言う通り、烈火の足元は既に凍っていた。
最初に落ちてきた氷のカケラ、あれは烈火を狙ったものだった。
それにより出来た水溜りが烈火の足ごと凍ったのだった。
しかし、僕の足は凍ってなかった。
烈火が動けない今、僕がこの二人を相手に戦わなければならない。
特異を持たない僕がどうやって…
思いっきり殴っても多分大したダメージにはならないだろう。
僕は考えた…
どうしたらこの絶望的状況を打破できるのだろうか。
僕の頭の中には一つだけ勝算があった。
「一条君…次は君だ…僕たちは君たちを絶対に優勝させない。」
氷室さんが悲しげに話す。
「条!もう諦めよう!優勝しなくたっていい。自力であの手紙の主を探そう!」
烈火がそう言ったけど僕は無視して烈火の方向に右腕を向けた。
右腕がパキパキと凍る音がした。
一か八か、やるしかない…
氷室さんは僕の行為を見て困惑の表情を浮かべていた。
この困惑している間にやるしかない…
僕は氷室さんの方へ走った。
凍った床によって僕は加速し、凍った右手で氷室さんを殴った。
氷室さんは思わぬ攻撃に後ろへ吹っ飛んだ。
周囲の温度が一気に上がった。
僕はその隙に凍った烈火の足を右腕を使って砕いた。
「ナイス!条!これで一気に形成逆転だぜ!」
烈火に褒められて嬉しかったけどまだ勝負は続いたままだ。
「くっ…零一君がやられちゃったか…けれどもこの仇は必ず僕が取る!」
今まで沈黙を守っていた雨宮さんがそう言った。
彼の特異は水蒸気を集めるだけ、氷室さんと組めば確かに脅威だけれど単体では大したことない筈だ。
「雨宮!向かってくるなら容赦はしねぇぜ!」
そう言って烈火が炎放った瞬間、パンッ!と音が鳴り響いた。
余りの音量に耳を塞いでいると雨宮さんが走り出して、烈火を殴った。
烈火は耐えたけれど結構なダメージにはなっているようだ。
「僕の水蒸気中の水素を多くして君の炎と反応させたんだ、どうだい?良い音だろう?」
何故だろう…?何だか違和感がある。
「雨宮ぁ、中々良いパンチしているじゃねぇか…オマケに炎もきかねぇときた。けどなぁ!絶対に優勝しなきゃならねえんだよ!」
烈火はまた炎を出そうとしている。
けれどまたあの音の隙にやられるだけだ…
音の隙…?何で雨宮さんは平気なんだ?
僕は雨宮さんの耳元を見た。
よく見ると耳栓がしてある。
(あれを抜けばチャンスはある…雨宮さん一人では火力は出ないはずだ)
考えた時には既に僕の体は雨宮さんの後ろに立って、耳栓を抜いていた。
当の本人は水蒸気を操作するのに必死で気づいていない。
パンッ!とまた音が鳴り響いた。
雨宮さんは思わぬ衝撃に驚いたようで、そのまま倒れてしまった。
「条!やったな!後一回勝てば優勝だ!」
どうやら二人ともノックアウトと判定されたようで、試合は僕たちの勝ちになった。
けれども、僕たちの心には共通した黒い雲がかかっていた。
試合後、僕たちは氷室さんと雨宮さんの下に赴いた。
「氷室、雨宮、教えてくれ、どうしてお前たちが負けたんだ?」
烈火が聞いたけれど二人は何も喋らなかった。
しかし、突然聞きなれない声が聞こえた。
「私が直々に教えてあげましょうか?」
声の主は女性だった。
見た事の無い女性だったけどこれが次の相手である事は氷室さんが青ざめたのを見て分かった。
「暁君!一条君!離れて!」
「あらあら、物騒ね。せっかくあなたにかけた呪いを解いてあげようと思ったのに。」
「…本当か?」
「本当よ、あなたへの口封じはもう用が済んだわ」
僕と烈火は置いてけぼりになった。
その内女性は部屋から出て行った。
氷室さんに聞くと、突然上から岩が落ちてきて、そのまま倒れたという事だった。
そして、彼女のことを話そうとすると声が出なくなったという事だった。
彼女の特異とは一体…
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