春の歌/スピッツ について(前編)

 たまには季節に合わせた記事を書こうと思いました。二か月くらい前に。


 音楽番組では大体その季節にまつわる楽曲を特集しているようです。例にもれず、スピッツの30枚目のシングル曲にして、アルバム「スーベニア」に収録されている「春の歌」も春頃に何度か耳にしました。私は年がら年中ウォークマンで聴いますけど。


 スピッツのシングル曲にしては疾走感のある曲です。メロディラインは言わずもがなの素晴らしさで、その上で歌詞には清々しさと少しの影がある。

 大人気漫画「三月のライオン」がこの曲のイメージに影響を受けていることはあまりにも有名で、また同作品が実写化した際には主題歌に(カバーでしたが)起用されたのは記憶に新しいところです。


 スピッツの楽曲には珍しくタイトルが歌詞の中に、しかもサビの頭に目立つ形で現れます。わかりやすくガッと盛り上がるサビはCMソングに起用されることもありました。私はケータイの着うた(死語)に設定してましたね。

 草野正宗さんは婉曲な詩的表現に定評のあるシンガーソングライターですが、ちょうどこの頃からストレートな表現を重視するようになりました。ストレート……? これで……? という気もしますが、まぁ、その前と比べれば。


 「春の歌」。


 「春のうた」でも「春ノ歌」でも「はるのうた」でも「ハルノウタ」でも「HARUNOUTA」でも「春歌」でも「Spring Song」でも「春の歌 ~愛と希望より前に響く歌~」でもありません。


 「春の歌」。


 数え切れない選択肢がある中で、考えうる限り最もシンプルな字面です。仮にもミリオンヒット飛ばしたことのあるアーティストにこんなことされて困った人はそこそこいるんじゃないでしょうか。

 草野正宗氏の歌詞は奥深さだけでなく、ここぞというときにシンプルな表現を叩き込んでくる大胆さにこそ真価があると考えます。


 さて、春といえば、どんなイメージでしょうか。

 穏やかな気候という感じもしますが、春の嵐という言葉もあります。草木の芽生える季節でもあり、しかし冬の名残が散見されることもあります。

 多くの物事に多くの側面があるように、春にも様々な顔があります。


 つまり、タイトル「春の歌」だけでは、どんな曲なのかがわからないのです。

 特にスピッツは季節感を前面に押し出した作品がそれほど多くないので、スピッツの表現する春とは? と期待に胸躍らせたファンも多かったのではないでしょうか。


 歌詞を見るまでもなく、歌を聴くまでもなく、スピッツの「春の歌」はイントロの一発目ですべてが表現されます。

 キラキラしたギターの音、そわそわと浮き立つようにかすかな音を鳴らすドラムと重いベース。


 スピッツは決して超絶技巧をウリにしているバンドではありません。それでもなお演奏のすごさが度々話題となるのは個々のスキル以上に、それぞれが噛み合ったときの一体感、そして音自体の表現力にあります。特徴的なメロディがあるわけでもないのに、「春の歌」のイントロには鮮烈な春の匂いがするんですね。

 私はまったく機材に詳しくありませんが、少し前にスピッツがテレビ出演した際にはSNSで「スピッツの足元やべぇ」みたいなことが話題になっていました。ギター担当の三輪さんの足元に、ギターの音に効果をつける類の機械がめちゃくちゃたくさん置いてあったのが理由らしいです。


 スピッツは楽器の音色そのものに深いこだわりがあることが見て取れます。

 どうしてもポップ音楽は歌詞とボーカル、せいぜいギター程度しか注目されることはありませんが、スピッツについてはより多くの音を聴くようにするのが楽しめるポイントだと思います。


 歌詞について書こうと思ったら既に長くなりすぎたので分割します。後編はそのうち……。

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