大好物/スピッツ について

 またスピッツかよ!

 またスピッツです。もうスピッツ用の記事にした方がいい気がしてきた。


 「スピッツが新曲を11/3に発売。劇場版『きのう何食べた?』主題歌」。

 このニュースを見たとき、私の脳裏をぎったのは「一年に二度も新曲をリリース? 働きすぎでは?」と、「スピッツがタイアップするとコケがち(要出典)だけど大丈夫?」でした。あまりにも失礼が過ぎる。なお後者は本当に杞憂で、大ヒットしているとのことでした。

 『きのう何食べた?』は見たことがなく、あらすじと題材しか知らないものの、身内からはスピッツぴったりだよと太鼓判でした。


 そして楽曲のタイトルは『大好物』。ありふれた言葉なのに、むしろだからこそ、あまり取り上げられない言葉。でも素敵な言葉です。

 だらだら講釈を垂れるのも無粋なので、サビだけ歌詞を引用します。



 ◇ ◆ ◇ ここから引用 ◇ ◆ ◇ 


君の大好きな物なら 僕も多分明日には好き

期待外れなのに いとおしく


忘れられた絵の上で 新しいキャラたちと踊ろう

続いてく 色を変えながら


 ――――スピッツの楽曲「大好物」(作詞:草野マサムネ)より

 ◇ ◆ ◇ ここまで引用 ◇ ◆ ◇ 



 君の大好きな物なら僕も多分明日には好き。

 ここを初めて聴いたときに「ぬわー!!」となったファンは多かろう。私は無論そうなった。草野マサムネ節炸裂である。こんな歌詞は草野マサムネにしか書けないし、草野マサムネしか書いちゃいけないと思う。


 好きなものを共有したい。同じものを好きになりたい。これは紛れもなく好意の表れです。しかしそこで「君が好きなら僕だって絶対好き」みたいな傲慢……失礼、盲目的な感じはありません。かといって「君と同じものを好きになれるかなぁ」なんて自己陶酔的……失礼、自信なさげでもない。

 多分明日には、と驚くほどあやふやなのに、言い切る形には不思議な力強さがある。この辺りの感情表現の妙は昔から変わらない。1995年の楽曲『涙がキラリ☆』の一節『君の記憶の片隅に居座ることを今決めたから(引用)』を思い出しました。


 それでいて、サビの歌詞には前向きさがあります。

 きっと「僕」は君の大好きなものをよく知りません。なんなら好きな人が好きだとしても自分には理解できずガッカリするかもしれない。でも、明日にはその良さを少しでも理解して、君に近づいていきたい。これはひどく身近な感情です。

 今まで知らなかった物事に、恋人の影響で興味を持って、気づけば自分の方がハマっていた。そんな経験談も時々耳にします。よく「等身大の歌詞」みたいな陳腐……陳腐な評価をされる歌詞がありますが、『大好物』の歌詞は正に人の普遍的な心の動きを捉えているのではないでしょうか。恋愛したことないので知らんけど。


 また、草野マサムネの歌詞には忘れられたもの、軽んじられたもの、今にも損なわれそうなものが度々登場します。そういったものを、安易に「きっと大丈夫」なんて歌うことはありません。

 忘れられた絵の上に新しいキャラを。割れ物は手に持って運べばいい。置いてきたなにかを見に行こう。優しかった頃の心を取り戻せ!

 どっかで書いた気がしますが、草野マサムネの歌詞には「続く」ということが頻繁に、そして前向きな意味で出てきます。『紫の夜を越えて』も強い現状打破の決意と同時に、今にも崩れそうな現実を越えて日常を「続けて」いこうという意志とも取れます。

 良いことも、悪いことも、ひっくるめて『続いてく 色を変えながら』。

 これは30周年の大台を超えたスピッツの楽曲だからこそ深みを増す素晴らしい歌詞です。11/14までオンライン上映で視聴できた『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE” THE MOVIE』のMCで三輪さんが紹介されていた『幸せは途切れながらも続くのです』(『スピカ』から引用)も同様ですね。


 そしてスピッツファンなら誰も疑問には思わないでしょうが、穏やかなラブソングという印象の『大好物』の歌詞にて、「僕」が「君」を好きだという直接的な表現はただの一度も出てきません。ただ婉曲的に「冬の終わり」⇒「春の訪れ」⇒「恋をした」という暗喩であったり、前述したような好物を共有したいと願う気持ちで感情を表現しているんですね。

 更に言えば「大好物」という単語も歌詞には出てきません。これはポンコツなら、歌詞内にあるからという理由で「君の大好きなもの」とかいうタイトルにしそうですが、あえての『大好物』。

 「君の好物」「僕の好物」「君と僕の好物」「僕が好きなのは君」という多くの意味を内包し、そのことを小難しく考えずとも理解できてしまうという、もはや解説もどきをしているのがバカらしいくらいシンプルで奥深いタイトルです。


 優しいラブソングを歌うスピッツ。しかし実は歌詞は怖かった! みたいな取り上げ方をされることが増えました。いや、それはそれでいい。それも魅力だ。私もそういうとこ好き。

 その一方で、素直に優しいラブソングだなぁ(それにしては影が見え隠れしているけれども)と思える曲を発表してくるあたり、さすがだなって感じがしますね。



 あと詳しくないので殊更取り上げたりしないですけど、スピッツの皆さん最近特に上達著しくありません? 草野さんとか昔より明らかに歌唱力上がってるし。

 『SPITZ JAMBOREE TOUR 2021 “NEW MIKKE” THE MOVIE』はスピッツファンなので当然履修してますが崎ちゃんさんドラムますます上手くなってません? 田村さんと三輪さんも……なんならクージーも……気のせいかな……。

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