OMOIDE IN MY HEAD/NUMBER GIRL について

 恵まれた時代に生まれたなぁなんて自覚は一応あるのですが、仕事で徹夜したことが一度しかありません。そのときも確か二日目の朝には上司命令で帰らされましたし。

 それにしても長時間労働とは人の頭脳を腐らせるもので、早朝の光を浴びながら帰途に就いた私はといえば、通勤の人達とすれ違いながら「よっしゃナンバガ聴こ!」とウキウキしてました。馬鹿ですね。


 ◇ ◆ ◇ ここから引用 ◇ ◆ ◇ 


ねむらずに朝が来て ふらつきながら帰る

誰もいない電車の中を 朝日が白昼夢色に染める


ああ制服の少女よ 気が狂いそうな青空と朝日のせいで白くまぶしい

俺はうすく目を開けて 閉じてそしてまた開く!!


 ――――NUMBER GIRLの楽曲「OMOIDE IN MY HEAD」(作詞:MUKAI SHUTOKU)より


 ◇ ◆ ◇ ここまで引用 ◇ ◆ ◇


 ここまで歌詞解釈ばかり書いてきましたが、ナンバガについては歌詞の内容よりも情景と、突き抜けっぷりが好きです。内容も好きですけどね。


 目を開けて閉じて開くってどういうことだよ、と、まぁ思いますよね。私も未だに思います。

 でもふと、その情景が理解できる瞬間があるんですよ。理屈じゃなくて、脳が夢で体験するような、ある種の閃きにも似た感覚です。

 疲れて頭がぼうっとして、立ってるのか倒れてるのかもわからん中、制服をちょっと気崩した風の女子が独りだるそうに歩いている。あぁ、あの少女は日常を生きてるんだなぁ、と感動するんです。でもそれが現実か過去かは判然とせず、なぜか涙がこみあげてくる。あぁ、ここがセンチメンタル通りだったのかと気づくのです。

 衝動的に深夜テンションで書いてるからわけわからんな。とにかく続けますけど。


 なんか、ダサかっこいいとかいう言葉あるじゃないですか。

 ブサかわいいとか。

 孤独じゃなくて孤高とか。

 ネガティブ要素が突き抜けて逆にポジティブ、みたいな。


 私、そういう風潮がクッソ嫌いなんですよ。

 ダサいものはダサい。ブサイクはどこまでいってもブサイクで、ボッチはボッチで、結局は笑いものになるしかないんです。ダサい、だからなんだ! 俺は俺だ! みたいな開き直りがかっこいいみたいな風潮も、一歩引いて見れば無様なだけです。

 どれほど言葉を弄して世間を変えようとしても、なにも変わるわけがないんです。仮に変わったとしても、ほんの一押しの力が加わるだけで元通り。なんの意味もないんです。


 はっきり言ってナンバーガールはダサい。ルックスはぱっとしないし、日本のポップスとロック(笑)に慣れ切った人間が聴いたら最初の感想は「で、どこがサビだったの?」になること請け合いです。「演奏がうるさすぎてボーカルが聞こえない」「歌が下手」かもしれない。

 しかし彼らはダサさを強調することはありませんでした(個人の印象)。仮にダサさを武器として使い始めていたなら、それは瞬く間に錆びて切れ味を失い、なまくら刀が折れるようにぽっきりあっさり終わっていたでしょう。


 これは歌詞ではありませんが、ナンバーガールのラストライブのMC? 曲紹介? で向井秀徳が言った言葉を書き起こします。


――売れる、売れない、二の次で

――格好のよろしい、歌ば作り

――聴いて、もらえりゃ、万々歳!?

――そんな、あたしは傾奇者

――人呼んで、NUMBER GIRLと発しやす


 痺れましたね。

 売れなくても自分の道を貫くんだ! なんて言葉はダサいに決まってます。しかしそれを、日本ロック界の一時代を築き、数多のアーティストに影響を与えた彼らが言うからこそ意味がある。(肝心のフォロワーがイマイチ大成しないままバンドブームが終わってしまったのは非常に残念)


 彼らは最後までダサかった。鋭い刃物のまま鞘に収まり、そしてまた引き抜かれて各々の舞台で活躍しているのです。といいつつ、実のところ私がナンバガを知ったのは解散後で、その後のメンバー達の活動を追っているわけではありませんけど。


 最後にもう一度歌詞の引用を。

 ナンバガの曲の歌詞でもトップクラスに好きなところです。


 ◇ ◆ ◇ ここから引用 ◇ ◆ ◇ 


現実と残像はくりかえし 気がつくとそこに

ポケットに手を突っこんで センチメンタル通りを

練り歩く 17歳の俺がいた


 ――――NUMBER GIRLの楽曲「OMOIDE IN MY HEAD」(作詞:MUKAI SHUTOKU)より


 ◇ ◆ ◇ ここまで引用 ◇ ◆ ◇


 思春期のカッコ悪さと、青春の輝きが、このフレーズに詰め込まれていると思うのです。

 ひよわな子供が大人ぶって(あるいは悪ぶって)いる無様さを「ポケットに手を突っ込んで」「練り歩く」という絶妙な言葉選びで表現しているのがすさまじい。前に日本の作詞家ですごいのは草野マサムネとCoccoだって書きましたが一人足りなかった。向井秀徳もでした。無論、このセンスが爆発している箇所はここだけではありませんし、この曲だけでもありません。


 まぁ平成も終わる今となっては一世代前の存在ですし、ぶっちゃけ人を選ぶアーティストだと思います。

 正直、最初はナンバガあんまり好きじゃありませんでした。好きじゃないのになんとなくウォークマンで選んでしまう、なんでだろうなぁ、というのを一年近く続けてからふと、あ、俺ナンバガ好きだわ、と気づいた感じです。

 星の数ほどいる歌手から、大量の楽曲を消費しまくる現代において支持されやすいアーティストではもはやないのかもしれませんが、聴いたことないという人にはぜひ勧めたいですね。

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