Digress.13
【シャドウパペットコール】
目の前に立つ少女が口元に笑みを浮かべる。彼女は幼いながらも魔王軍の幹部という位置に属しており、先日小さな村をいたずらに壊滅させた張本人だ。人は見かけによらないなどと軽口を叩いている暇があるほど状況は芳しくない。
自らを奇術師と名乗る奇抜な出で立ちの少女は光ない瞳でこちらを見つめると口を開く。
「キミ、そうか。粋がるためだけに光魔法を取得した、英雄気取りの魔法使いさんなのね」
「口が悪いな。さすが魔王軍」
驚いた。少女はひとつしか見せていない解呪魔法から自分が光魔法が得意だと見抜いた。
英雄気取りではない、自分は消えた村の無念を晴らすためにここにいる。
「キミ強い?少しはワタシを楽しませてくれるかな」
何を……。自分の返答を待つより先に少女の姿が暗く霞んでいく。これは闇を操る魔法だろうか、少女の姿を目で追っているうちに少女は闇に溶けてしまった。
「テーマは『シャドウパペット』……」
いつの間にか右も左も暗い闇に包まれていた。自分自身も闇に呑まれそうになる感覚に自分は光を呼び出し足元を照らす。
「く……小癪な真似を。私が光魔法使いと知った上で闇魔法を使うだと?」
たしか事前に聞いた情報では火の魔法を使うのではなかったか。こんな高度な闇魔法を使うなど聞いていない。
いや、今はそれどころではない。冷静になれ。少女はどこだ。
自分が右に左に首を動かしていると背後から衝撃が走る。続いて大型のモンスターのタックルをもろに食らったような痛み。防御姿勢を取ることもできずに自分は前のめりに倒れ込んだ。
「くそ……ナメるな!」
なんとか立ち上がって攻撃された背後に向けて光魔法を放つ。光の線が暗闇を焼き裂いて照らすが、すぐに闇に呑まれて消えてしまう。当然少女の姿はなかった。
また、今度は横側からだ。面白いように飛ばされ闇の中に横たわる。正体のわからない何者かと対峙しているようだ。
「ミナのショータイムにようこそ!」
指を鳴らす音がこだました。体勢を直した自分の見る先にひと際目立つ光の焦点が現れ、そのスポットライトのような光の中心に少女がステッキを地面につけて立っていた。
少女の背後には黒い闇で形作られたウサギのような生き物がズラリと並んでいる。どれも楽しそうに跳ねているが、ちっとも楽しくない。悪い夢でも見ているようだ。
「キミ、つまんない。だから早々に終わらせようか」
少女の顔に笑顔はなかった。さもつまらなそうに、手に持ったステッキを自分に向けると、闇のウサギ軍団が光の射程から抜け出し暗闇に消えた。
そして何度も何度もタックルされたような衝撃と痛みが続いて自分は――。
「久々に使ったけど相変わらず地味ね。ミナにはつまんないわ」
辺りから闇が引いて明るくなったその場には光魔法を使う魔法使いの男が倒れていた。防ぎようのない物理魔法の弾丸をくらい続け気を失ったようだった。
「そもそも魔法使いが魔法使いに戦いを挑むの、おかしくない? よっぽど自分に自信があったの?くっだらない」
ミナは興味を失ったように吐き捨てた。
「おなかすいたわ。帰ったらおいしいケーキでもせがんどこー」
そして魔王軍のミナはその場から去った。
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