Digress.14

【爆ぜた逃亡劇】

 『それ』が如何に異常で危険であると本能が悟った。

――彼らを殺さねば。ここから逃げなければ。

 リオは本能の忠告のままに従った。縛られた腕をこちらへ向けて藻掻いているそれを感情のない目で見下しながら一番手前のそれに狙いを定める。

 可哀想に、とは思わなかった。ただひたすらに憐れだと端的に感じただけだった。

 リオは引金を引く。撃ち出された弾丸が背中から心臓を抜けて貫通し、一瞬で物言わぬ肉塊へと変わった。


 傍らで言葉を失って立ち尽くすレンカを自分の方へと抱き寄せ、躊躇うことなく自ら設置した感知式の爆弾を起動した。辺りに蠢く『生きた爆弾』を巻き込んで爆ぜた。

 爆風にとばされながら彼はレンカを衝撃から守ることだけを考え強く抱え込む。窮鼠は無謀にもこの爆心地から逃れる術はこれしかなかった。


 二人は裏路地の一番奥にあった廃倉庫の壁を付き破って、瓦礫の中へ突っ込んだ。そこからリオは覚えていない。


***


 それは誰が見てもわかる危険な賭けだった。それでも彼はこの賭けに勝って生き残っている。悪運はあるからね、という笑みが浮かぶようだ。

「アンタ、まじでムチャクチャだな。なんで死んでないの?」

「ほ、褒め言葉って捉えていい?」

 話を聞いたレンカの第一声はそれだった。リオはそれを苦笑いで返した。

 そしてこの時点では敵側の者に見つかっている様子も無い。二人はせめて体力が回復するまで休むことにした。


「へえ、生きてたんだ。ゴキブリ並みに気持ち悪い……じゃなくてしぶいといね。いっそ死んでれば良かったのに」

 そんな二人の元に辿り着き、開口一番、彼女が仲間(主にリオ)に対して放ったのはそんな言葉だった。レンカとリオは追手がきたのかと警戒していた緊張を解く。

「な、なんだと? おまえ、それが仲間に言う言葉かよ!?」

「ミナ、クズリオのこと一度も仲間だと思ったことないもん!」

「はあ? ふざけてんか!?」

「見る限りボロっボロだけど、吠える元気はあるのね」

「とりあえず二人とも落ち着けよ……」

 いがみ合う二人を制して落ち着かせる。リオはごめんと俯いて、ミナは詫びれることもなくそっぽを向いた。

 いつもなら止めない二人の喧嘩だが状況が状況だ。レンカは静かにため息をついた。

「カズトはどこだ? 一緒にいただろ?」

「……」

「無視かよクソガキ」

 リオの話を聞こうとしないミナにレンカは二度溜息をついたという。とりあえず進まないからとレンカは情報交換をするよう促す。

 本人はとても不本意であったが話ながらリオとレンカに回復魔法を施していた。一人ケーキ三つという条件だ。

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