SSまとめ

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SS集 №01~№05

01

最初に人を××した後は、涙が止まらなかった。鉛の銃を持つ手がガタガタと震えていたことを覚えている。大して詰め込んでいないのに胃の中がひっくり返すような酸っぱい嫌悪感が溢れた。

次に××した時は、赤が飛び散って咽返る死の臭いが胸を満たした。胸焼けがした。赤がこびりつくのは嫌だ。その日から同じ赤色の手袋をつけるようになった。

いつの日か、涙は枯れ果てたのか。ある時からはたと涙が零れ落ちなくなった。良心まで吐き出した覚えはない、吐き出さないよう努めたつもりだったが目の前に横たわる物言わぬ赤いそれに関心は示さなかった。麻薬の硝煙に脳までやられたのか。空っぽの胸が軋む。銃口を向けて、その引鉄に手をかけるだけでお金がもらえる。良い方だ。まともな資金など巡らない乾いたこの街は嫌いだ。空気が乾けばそれだけ赤い霧は起きやすい。

神様とやらがいるのなら、随分残酷な輩なのだろう。今日も赤い霧に呑まれないように言葉だけの祈りを捧げる。

黒と赤と白だけの世界で。




02

《剣ドン》

どッ、という重く小さい破壊音が彼女の視界端を貫いた。今、殺意の篭った人をも貫く銀色が彼女の顔の横で鈍く光っていた。

「―ッ!」

「お前に何がわかるんだ?知らず口が大層なこと吐かすんじゃねぇよ」

「っ、それはアンタが!」

「………………………」

見下すような彼の瞳と目が合った。その瞳には何が映っていたのだろうか。何も感じさせない冷たい光の中にある、無言の殺意と言葉。心宿らない精悍な顔つきは今まで見た中で一番人間味のある顔だったなど、呑気な皮肉にしても悲しい。

「……ああ、わかったよ。これ以上は言わねえよ。剣を降ろせカズト」




03

《ようこそギルドへ》

差し出された彼女の手の平には赤い果実と青い鳥を模したブローチが握られていた。

「今、あなたに問いましょう。もしもあなたが望むなら、ここを拠点とすることを認め喜んでこのギルドへ迎え入れましょう。あなたにその覚悟と意志があるのなら、この赤い果実を手に取ってください」

水色の髪を揺らし、ギルドマスターはニコリと微笑んだ。

少年は静かに赤い果実を受け取る。

「ようこそギルド『ルリツグミ』へ」




04

ぼお、と立ち尽くす少年にどこからか声が聞こえた。

 姿を探すも形は無い。色も無い。天より注ぐ声はどこか女性のようで、子供のようで、掴み所の無い風のように思える。

 声はいたずらっぽく微笑みかけた。

『キミの進むべき道は右か、左か』

 ふわふわと軽くはずむような話し方。少年は声に耳を傾けつつも答えようとはしない。

 じゃあ、と声。

『ひとつお噺をしよう』

 鈴が鳴ったような音で笑った。




05

《行方を探す兄》


「一つ聞きたいことがあるんだ」

「……ご注文は」

「ウィスキー。ロックで頼むよ」

「かしこまりました」

妹がいなくなってから、どれほど経ったのか。

いくつの町を抜けて、いくつの赤を踏みつけて、ボクも少しは頭が冷えただろうか。

「この辺りでボクに似た少女を見たという噂はないか?」


店主は何も言わず、グラスを差し出す。そうか。

ここでも門前払いか。

風来坊なボクのみてくれと憑き纏う死臭は勘の鋭い犬共には目障りに映るらしい。

目の前のグラスを呷る。喉を灼くほど強い酒が通っていく。酒も楽しまずに飲むなんてイカれてる。


店主の顔も見ず、カウンターの上にチップを乱雑にばらまいてボクは店を後にする。


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勇カズの与太話集 色杷(いろは) @I_loha-Marblecolor

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