第60話 10-2 エピローグ
“少女”は、「絵」の中にいた。
澄み渡る青い空と早く流れる白い雲、地平線まで続く緑の草が茂る草原には、所々に青い湖や緑の木も見受けられる空間に、どことなく懐かしさを感じながら感慨に更ける“少女”だったが、そんな“少女”の目の前に金髪のロングヘアーに白いワンピース姿の別の少女が現れ、少女の口から何かが聞き取れたのが確認できた。
(約束を果たしに来たよ。―――)
これもまた懐かしさを感じる少女の声の正体を考える前に、“少女”の意識はここで白一色に塗り潰された。
「はっ!」
まだ夜明け前の薄暗い部屋のベッドから飛び起きた“少女”―フェルメール=スカイは、先程見た夢の内容を思い出そうとするも、何かに邪魔されているのか、中々思い出せずにいた。
「今の夢…何だろう。つい最近まで見てたような…」
夢の内容を必死に思い出そうとするフェルメールだったが、カーテンから漏れ始める光によって中断せざるを得なかった。夜が明けてきたのである。仕方なくベッドから降り、カーテンを開けたフェルメールに、窓の外から朝焼けと共に半円でアーチ状の虹が彼女を手迎えた。
「うわぁ、綺麗な虹…って、アレ?確か昨日は一日中晴れてたけど…」
赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色が織りなす光のアーチ―虹に見惚れるフェルメールだったが、ふと昨日も晴れていた事に疑問を感じ始めるも、どこからか聞こえた謎の声によってまたもや中断された。
(“フェル”…)
「え?声…?」
(“フェル”…)
自分の名前を呼ぶ謎の声に、最初は気のせいかと思われたが、一度ではなく二度三度と繰り返す謎の声に導かれるように、フェルメールの体は自然と部屋の外へと出て行った。
ここは、レイン・カラーズの中部にある、文字通り平原の中にある小さな村―“平原の村”。
かつては“緑の英雄”―セージ=フォレストと“赤の英雄”―カージナル=ブラウンと共に住んでいた家は、“虹の英雄”―フェルメールと彼女の父親である元騎士団の遊撃部隊長・サックス=ラズーリの家として使われ、二人で平和に暮らしていた。
謎の声の正体を求め、家の玄関のドアを開けようとしたフェルメールに、二階への階段から何も知らないサックスが現れた。
「おはよう、フェルメール。どうしたんだ?」
「お父さん。ちょっと静かにして。声が聞こえるの」
「声?気のせいでは…」
(“フェル”…)
「やっぱり聞こえる…気のせいじゃない!」
「お、おい。フェルメール!」
どうやらフェルメール以外には聞こえない謎の声がまた聞こえてきた事で何かを確信したフェルメールは、居ても立ってもいられない思いで玄関の扉を開けるや、サックスの静止を振り切って外へと走り出した。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
自分にしか聞こえない謎の声に導かれるまま、フェルメールは朝の河川敷を走りながら、同時に自分を呼びかけるその声の主を思い出し始めていた。
その声の主は、一年前と変わらぬ声だった。
その声の主は、一年前に平和になったら、ここで一緒に暮らそうという約束を交わした。
その声の主は、一年前に自分達を守って一度は死んだ。
その声の主は、一年前に色族に転生して必ず帰って来ると約束した。
(“フェル”…)
そして一年が経った今、こうしてフェルメールの名前を呼んでいる謎の声を求め、息を切らしながらやがて歩みを止めたフェルメールが辿り着いた場所は、とある河原であった。
そこにあったのは、“光っている大きな物”―光の繭であった。
「これって…きゃっ!」
光の繭にフェルメールが何かを思い出そうとした直後、突然光の繭が光り出し、河原一帯に眩しい白い光が包み込んだ。
あまりの眩しさにフェルメールは咄嗟に目を庇い、どれ程の時間が経ったのか、そんな感覚の中で光は元の河原の姿へと収まり始めたが、先程まであった光の繭は、光輝く人間の形へとなっていた。
(わたしも普通の色族として、“フェル”の前に帰って来るから。約束よ)
その光輝く人間の形の姿を見たフェルメールの目から涙が零れ始め、普通の色族となり、忘れかけていた記憶を思い出しては、いつしか涙を堪えきれずに泣き始めた。
やがて光が収まり、そこから現れたのは、金髪のロングヘアーに白いワンピース姿の水色目の少女…間違いなかった。
「ただいま。“フェル”!…“フェル”?」
現れた少女は、号泣するフェルメールに向けて一言挨拶をし、フェルメールは涙を拭いながら、普通の色族として、平和になったら“平原の村”で一緒に暮らす約束を果たした 少女に対し、こう返した。
「おかえり…“レイン”」と。
レインボウ・アイ 絶望と希望の奇跡の物語 ヒロツダ カズマ @domoHirodesu
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