第58話 9-10 真の四度目の奇跡
「クロム城が崩れます!」
「前線基地は放棄。全員退避!」
「退避って、まだ“フェル”が中に!」
「んな事言っとる場合か、“カー坊”!逃げるぞ!」
「“フェル”!“フェル”ー!」
クロム城崩壊から響き渡る地響きは、前線基地の地下水道前にいたカージナル達にも届き、サックスとリクの指示で全員退避を済ませた直後、先程まで居た前線基地に無数の瓦礫が降り注ぎ、物凄い轟音と土煙と共にクロム城が完全に崩れ落ちた。
「皆、無事か?」
「はい。隊長」
「どうやら、全員無事のようだね」
土煙が立ち上る中、サックスが無事を確認してはリクとセージが応えた後、サックスの近くに居たジーンがまず問い質した。
「一体、何が起こったのですか?」
「分からぬが、少なくともクロム城が崩れたという報は、“色族首都”に向かっている反国王派にも伝わるだろう。二十九年前と同じ“奇跡”によってまた開戦せずに終われるはずだ。君達には感謝している」
立ち込める土煙と無数の瓦礫の山と塊と化したクロム城の崩壊から、サックスが戦いの終わりを確信し、カージナル達に労いの言葉をかけるも、カージナルは府に落ちないのか、痛む右手を我慢しつつ、この場にいないフェルメールの名前を叫んだ。
「待てよ。まだ城内には、“フェル”が…アンタの娘さんがいるんだぞ!」
「君の気持ちは分かる。煙が晴れ次第、直ぐに捜索したいのだろう。クロム城崩壊の原因は分からぬが、フェルメールと共にフェイランの生死も分からない以上、迂闊に動いて何かあっては…」
「しかし、この崩壊です。これでは、流石に隊長の娘さんも…」
「クソッ、これが「真の四度目の奇跡」かよ…認めねぇぞ」
フェルメールの救出に急ぎたいカージナルだったが、サックスの言う通り、クロム城崩壊の原因がフェイランの悪あがきの可能性も捨てきれず、崩壊したクロム城に向かう事も出来ない歯がゆさに、左手を強く握りしめながら俯く事しか出来ず、無情に時が進む中、いつの間にか稲光が止んでいた上空の雲が徐々に晴れ始め、青空がのぞき始めた。
「いつの間にか、夜が明けてたのですね…」
昼に“色族首都”を経ち、クロム城到着時は夜だった長い一日から新たな一日の始まりを告げる夜明けだったが、今のカージナルにとっては、それすら慰めにもならず尚も俯く一方で、一人の遊撃隊が崩壊したクロム城跡地から何かを見つけたのはその時だった。
「サックス隊長!クロム城跡地から、人らしき何かが見えます!」
「何?」
遊撃隊の報告から皆一斉にクロム城跡地の方向を見ると、人らしき姿が真っ直ぐこちらに向かって歩いていたが、立ち込める土煙でフェルメールなのかフェイランなのかは分からず、中には武器も構える遊撃隊も居る中、俯いていたカージナルも遅れてクロム城跡地の方向を見るや、まるで変な物でも見たかのような顔で小さく呟いた。
「“フェル”…?」
「え?“カー坊”、今何て言ったんじゃ?」
ガーネットからの催促すら聞く耳持たず、カージナルは今一度確認する中、丁度雲の切れ間からのぞき始めた太陽からの光が、向かってくる人へと照らし始めた所で、疑心が確信へと変わった。
クロム城の崩壊の影響か、所々破れている服に傷だらけの体ながらも、力強くこちらへと向かって歩き続ける細身の姿、髪も崩れてボサボサのロングヘアーの水色の髪は、いつもの姿では無くてもカージナルには分かっていた。
「“フェル”!」
戦いの勝者となった人の名を叫んで先行するカージナルに、セージらも確認した後でカージナルに続いて行く一方、サックスとリクは信じられない思いで、この奇跡の生還劇を見つめていた。
「信じられません。あの崩壊の中を生き残るとは…」
「何を言う、リク。彼女は私の娘であり、“絶望と希望の奇跡”だ…皆、勝鬨を上げよ!」
戦いの勝者となった我が娘の奇跡の帰還に、サックスは涙をこらえながら、戦いの終わりと勝利を告げる勝鬨を、部下の遊撃隊と共に高らかに上げた。
私を色族に転生する為、ラピスさんと永遠の別れをした後の事はよく覚えていない。
気が付いたら、崩壊したクロム城にいて、“カージー”やみんながこっちに近づいてきて…う~ん、やっぱり思い出せない。
あっ、でも一つだけはっきりと覚えていることがあった。
虹…空一面に覆い尽くす程、七色に輝く綺麗な虹を見た。
凄く綺麗だった。
この虹を、レインと一緒に見たかったな…
こうして、二十九年前の“開戦しなかった戦争”の続きを目論んだフェイラン=イルトリート=マーダラーによる反ブラック国王派のクーデターは、“黒族首都”のクロム城崩壊の報から降伏者が続出し、最終的にジェード率いる騎士団によって鎮圧された。
このクーデター鎮圧に貢献したフェルメール・カージナル・セージ・ジーン・ガーネット・リアティスは、後にアザレア女王から各々の主力属性と虹の配色に合わせた“英雄”として称えられることとなる。
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