第55話 9-7 真の四度目の奇跡
ジーン達と別れ、クロム城の上層部へと進むフェルメール・カージナル・セージの三人だったが、先程のエクアとラーニアの和解から、フェルメールに新たな決意が芽生えていた。
「ねぇ、“カージー”」
「なんだ、“フェル”」
「私、決めたの。やっぱり、色族と黒族は争ってはいけないと。エクアさんとラーニアさんを見て、尚更思ったわ」
「確かにな。とはいえ、黒族王様が殺されては…と言ってられないな。フェイランさせ倒せば…」
「二人共、それっぽい大扉が見えてきたが、準備はいいかい?」
「ああ。このまま突撃だ」
フェルメールの決意をカージナルが返す間に、セージが目的地と思われる大扉を見つけ、恐らくこの先にフェイランが居るであろう大扉の先へ、三人は躊躇わず突撃した。
突撃した先は薄暗い大きな部屋で、三人は武器を構えて辺りを見回す中、突然周囲から明かりが照らされて咄嗟に目を瞑るも、対面に黒いマントを羽織った人影を確認から、求めていた敵がそこにいた。
「こんな夜中に謁見とは…レイン・カラーズを統べる王に何用かな?」
「そうだな…「王だとほざく似非王様のお命を奪いに参りました」でいいか?」
「これは大変。急ぎ応援を…と言いたい所だが、生憎我が兵士を“色族首都”に全軍進軍させてたな。いやぁ、困った困った」
求めていた敵―フェイランの間の抜けた発言にカージナルが苛付くも、セージが宥めては、カージナルの代わりに冷静な口調で代弁した。
「やはり全軍を“色族首都”に出払ってたようだね。でも、奇襲される可能性を抱えながら、僕達をここまで到達を許してるのに余裕ですね」
「それはこちらの台詞ではないかね?たった三人で王に挑むとは」
「三人じゃないわ。レインも一緒よ!」
「おっと、これは失礼しました。“希望の奇跡”よ。ですが、“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”がこちらにある事をお忘れなく」
フェイランの「三人」発言にフェルメールが真っ先に反論するも、フェイランは詫びを挟みながら、自身の手から“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を見せては、三人に二十九年前の“開戦しなかった戦争”の黒族側の話を語り始めた。
「せっかく来たのだ。お前達には、エルム城でのおとぎ話の続きを話そう。今度は、“奇跡”によって“開戦しなかった戦争”に敗れた黒族の話だ…二十九年前、我が黒族を良しとしない色族への不満が爆発し、“色族首都”に侵攻した黒族だったが、あと僅かな所で、突如上空からの謎の攻撃から反転者が続出し、撤退を余儀なくされた」
「まるで、知っているような言い草だな…」
「知っているからな…我もその奇跡を目撃した一人だからな!」
おとぎ話が、フェイラン本人の“開戦しなかった戦争”の体験談に三人は驚いた。フェイランの高齢の歳からして、二十九年前はまだ若いのだろう。
「だが、その後だ。あの奇跡で自分達が勝者と思い込んだ色族が、一層我が黒族を差別し始めたのだ。報復には報復を。こちらも色族に対抗すべく、“色族首都”侵攻に出払った前線基地から一つの街を造るも、時が経つに連れて、和平を唱える黒族初代国王・ブラックによって色族を恨む物が少なくなる中、我は参謀をしながら、裏で二十九年前の続きを目論もうと暗躍した。“開戦しなかった戦争”を指揮したクリムゾン=ブラウンらの暗殺、息子を犯人にさせてジェード=フォレストを陥れようとしたスティルレント家殺人事件…」
「くだらねぇ…」
「何?」
フェイランが語る過去話を言い終えるよりも先に、これまで黙っていたカージナルが、クリムゾン=ブラウンやスティルレント家殺人事件に反応し、フェイランに向けて反論した。
「さっきから黙って聞いてりゃ、用はお前の我儘から俺の父さんが殺され、セージの人生が狂わされ、黒族国王を殺してクーデターを起こすといった行為全般がくだらねぇんだよ!」
「フン、無礼者めが。あのまま行けば、我が黒族が勝っていた所を邪魔された気持ちが、色族に何が分かる!」
そう言うや、フェイランはカージナルに向けてエルム城で仕掛けた束縛術を仕掛けようとしたが、寸前の所で視線を外したカージナルによって、足に石像のような感覚は起こらなかった。
「“カージー”!」
「大丈夫だ。しかし、リクさんの助言は当たりのようだな。発動動作さえ見逃さなければ、せっかくの束縛術も大した事じゃねぇな」
「成程。流石に対策されましたか。なら、これであの世へと送らせて貰おう!」
束縛術を攻略されたカージナルを見て、フェイランは束縛術を諦め、玉座の横に据えた蛇腹剣を持ち、まずは束縛術を回避したカージナルに向けて、まるで生きた蛇の如く刃を延ばすも、カージナル双剣で易々と迎撃した。
「なかなかやるな、色族。では、これはどうだ!」
フェイランは延ばした蛇腹剣に少し角度を変え、今度はセージの背後に狙いを変えるも、殺気に気付いたセージも反転から、槍で何とか迎撃に成功した。
「セージ!」
「今度は“希望の奇跡”、君だ!」
間髪入れず、今度はフェルメールに狙いを変えたフェイランの蛇腹剣に、フェルメールも長剣で迎撃するも、女性の力でははじき返すのもやっとだった。
「“フェル”!」
「だ、大丈夫よ。これくらい…」
カージナルからの心配をよそに強がるフェルメールだが、“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を持つフェイランからの初撃でこれでは、いくら“希望の奇跡”になったとはいえ、このままでは先に倒れるのはどちらか目に見えていた。
「やはり、ラピス君の言う通り、このままじゃ倒れるまで互角…しかし、どうやってフェイランから“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を取り戻せるのか…ん?」
何とか打開策を考えるセージに、ふと無意識にポケットに右手を入れるや、中から小さな球体に触れた感触の一方で、フェイランは不敵な笑みを浮かべながら、三人にある事を告げた。
「ククク…やはり、形だけの“希望の奇跡”では、我の持つ“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”には遠く及ばぬ。王に盾突いた無礼、我の“絶望の奇跡”の裁きを受けよ!」
「“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”が光った?」
「おい、フェイランの蛇腹剣が…」
フェイランは手に持つ“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を光らせると、その光に応えるかのように、蛇腹剣の刀身が分離し始めたのだ。フェイランの周囲に浮遊する蛇腹剣の刀身に、カージナルとセージの嫌な予感が的中した。
「危ない、“フェル”!」
「え?しまっ…」
カージナルの忠告と同時に、蛇腹剣の刀身がフェルメールに向けて攻撃し始めたのだ。あまりの予想外から反応が遅れたフェルメールはたまらず目を瞑ったが、痛みはやって来ない事に恐る恐る目を開けると、彼女の前方に迎撃しきれず攻撃を受けてボロボロのカージナルとセージがいた。
「“カージー”!セージ!」
フェルメールが急ぎフェイランからの攻撃を受けた二人の元へと駆けつけようとしたが、叶わなかった。何故なら、動きたいはずの足が動かないからだ。
「アレ?足が…動かない!?」
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