第52話 9-4 真の四度目の奇跡
「見えました。皆さん、あれが“黒族首都”の象徴、クロム城です」
騎士団の遊撃部隊副隊長であるリクの先導の元、各々用意された馬に乗って進軍するフェルメール一行は、遊撃部隊が知る近道―“黒族首都”まで一直線の森林地帯を突き進み、やがて遠くからでも見える高層物―クロム城が目視で確認出来る程、目的地である“黒族首都”までもう少しの所まで迫っていた。
「そこにフェイランがいるんじゃな!」
「反国王派が“色族首都”へ進軍を始めたとはいえ、ブラック王亡き城を空けるわけにはいかないはず。恐らく…いえ、確実に居るでしょう」
「“開戦しなかった戦争”の続きを託して、自分は高みの見物か…で、この近道でどれくらい時間を稼げるんだ?」
「移動による時間を含めても、半日はないかと」
「となると、マジで短期決戦になるのか…」
近道しているとはいえ、それでも回り道から“色族首都”へ目指しているフェイラン率いる反国王派の“色族首都”到達までそんなに時間がない事に一行に緊張が走ったが、ふとガーネットが思い出したかのような口調から、緊張感が途端に和んだ。
「そういや、この任務の部隊長って誰じゃ?」
「ちょっ!兄貴、何だよ突然」
「そんなの、副隊長とはいえリクさんに任せておけばいいんじゃない?」
「我々は部隊長の命である“希望の奇跡”一行の護衛の任を受けて行動してる故、フェイラン撃破としての部隊長の権限は貴方方にあるのかと」
「そうなのか?なら、このままジーンに…」
ガーネットから発した部隊長決めに、カージナルは呆気にとられるも、リクは自分の任務とフェイラン撃破の任務は別という事で、このまま現役の騎士団であるジーンで話を纏めようとしたが、当のジーンからの返答は違っていた。
「あの…お言葉ですけど、セージ先輩はどうでしょうか?」
「ジーン!?」
「わたくしは賛成ですわ。有り得た未来がようやく叶いますしね」
「だな。せっかくだし、セージ。お前がやれ」
ジーンからのまさかの指名にセージが驚くも、彼の過去を知るリアティスがセージの部隊長指名の同意に発し、彼の今を知るカージナルやフェルメールも同意に、今はもう騎士団ではないただの一般人であるセージは困惑した。
「でも、僕は…やっぱり、ジーン。君が」
「自分が部隊長での任務は、リアティス先輩の保護と、先輩を冤罪に至らしめたフロストとソルの逮捕。フェイランやラピスさんの件でゴタゴタしましたが、任務は達成した今、自分はもう元の騎士団の新米騎士です。それに、自分も見たいです。セージ部隊の騎士団を…」
「ジーン…分かった。僕が引き受けよう」
六年前の事件が無ければ、自分の部下になっていたかもしれなかった夢を断たれたジーンを想ってのセージの承諾で、今ここにセージ部隊長によるフェイラン討伐への新たな部隊が結成された所で、もうすぐ到着する“黒族首都”を知るリクから、フェルメール達にある事を告げた。
「新たな部隊長が決まった所で申し訳ありません。そろそろ“黒族首都”に到着しますが、正面からではなく、回り込んでクロム城裏手にある地下水道に向かいます」
「確かに正面突破は愚策だし、俺達は“黒族首都”はよく知らないから、ここはリクさんに従おうか」
リクによる“黒族首都”到着の手順を確認し、決戦の時が迫る中、たった今フェイラン討伐任務の部隊長となったセージが、フェルメールら仲間達に最終確認の指示を出した。
「よし、改めて確認しよう。フェイランを倒す鍵である“フェル”以外の僕達は、“希望の奇跡”となった“フェル”のサポートだ」
「了解。セージ“隊長”」
「今や、“フェル”ちゃんはレイン・カラーズの未来を背負っていますしね」
「邪魔する黒族がいたら、ワシが蹴散らしてやるぜ!」
「援護は任せてください」
「みんな…ありがとう」
「では、行こう。フェイランを倒し、「真の四度目の奇跡」を起こしに!」
決意を新たに、一行は少しでも時間を稼ごうと、急ぎ“黒族首都”へと向かうのであった。
昼前に“色族首都”を出発し、到着した時には夜の“黒族首都”の象徴であるクロム城の裏手にある地下水道前には、既に数人の遊撃部隊が前線基地を用意して待っていたが、辺りは“レッド・アイ”の火の力による松明以外は薄暗く、月明かりがクロム城を魔城の如く照らし出していた。
「しかし、近くで見るとデカいなぁ…」
「エルム城の構造を基にしていると聞きましたが、まるで別物に見えますね」
カージナルとジーンが間近で見るクロム城の圧巻に嘆く中、ガーネットとリアティスがこの状況に喝を入れた。
「おいおい、“カー坊”。こんなんで怯んでどうするんじゃ?フェイランは、これよりも怖い力でワシらを待ち受けてるんじゃぞ」
「その通りです。フェルメールちゃんに不安させるようなことを言わないで下さい」
「そうだな、兄貴。悪い、“フェル”」
「いいよ、“カージー”。私だって、本当は怖いから…」
“希望の奇跡”となったフェルメールですら恐れる殺気にカージナルらも感じつつ、先に水路内に偵察に赴いているリクら数人の遊撃部隊が戻って来たのはその時だった。
「お待たせしました。皆さんをクロム城内部へご案内します」
「ヨッシャ!いよいよ敵の本丸に殴り込みじゃー!」
「兄貴、静かに。奇襲の意味無くなるって」
ガーネットの場を考えない大声にカージナルが慌てるも、出撃の合図が来たフェルメール一行は、リクら数人の遊撃部隊達と共に、地下水道からクロム城へと入城した。
地下水道からクロム城内へと突入したフェルメール一行だったが、城内は不気味な静けさに包まれていた。
「何じゃ?歓迎はなしか?やけに静かじゃのう」
「罠…にしても、流石に不気味ですね」
「とはいえ、敵の本丸だ。何が来てもおかしく…!?散るぞ!」
自分達以外一人もいない不気味な静けさの中、敵は居ないか武器を構えて慎重に動く一行だったが、やがて広大な広間に入った所で場の均衡が破れた。広間の何処からか、フェルメール達に向けて無数の投げナイフが降り注いできたのだ。いち早く殺気を感じ取ったカージナルの合図で、各々振り注ぐ投げナイフからの回避に成功した。
「クソッ、一体誰じゃ!」
「ガーネット君、落ち着いて下さい。しかし、この投げナイフ。何処かで…」
誰も命中せずに失敗に終わったらしい敵の先制攻撃だったが、セージが冷静に床に刺さっている投げナイフを分析しては、投げナイフを使う敵に思い当たろうかというその時、上層部へと続く回廊から、フェルメール一行とは別の声が聞こえたのだ。
「ようやく来たのね。色族。“裏切り者”のエクア=セフィーロは何処なの?」
「貴方は?」
上層部へと続く回廊から現れたのは、エクアを求め復讐鬼と化したラーニアだった。
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