第51話 9-3 真の四度目の奇跡
「遊撃部隊からの報告です!反ブラック国王派勢らしきと思われる馬軍が、“黒族首都”から経った模様!」
その頃、未だ内部に瓦礫が残るエルム城では、一人の騎士団が声を荒げながら、アザレアとジェードがいる謁見の間に急行し、アザレアは昨夜の件で寝ていないとはいえ、顔色を一切変える事なく騎士団に応対した。
「“開戦しなかった戦争”の続きを始めたか、フェイラン!」
「これは、ジーン部隊の面々にも伝えたか?」
「いえ。しかし、ジーン部隊は…」
「今のジーン部隊は、フェイランを倒せる唯一の希望。急ぎ伝え…てないなら、童が行こう。確か、宿屋にいるはず」
「アザレア様は昨夜は一睡もしていないとお聞きします。我もお供します」
フェイラン率いる反国派による“色族首都”侵攻の報をジーン部隊にはまだ伝えていない事に、アザレアは寝ていない体を奮い起こし、報告に来た騎士団とジェードと共に、一路ジーン部隊がいると思われる宿屋を目指すのであった。
一方、リアティス邸跡地の訪問を終えたセージ達と宿屋で再合流したカージナル達は、宿屋でフェイラン撃破への作戦会議を始めていた所だった。
「さて、フェイランがいると思われる“黒族首都”は…回り道とはいえ、“色族首都”から近いな」
「元々は、二十九年前の“開戦しなかった戦争”に至った黒族達の野営場だった所ですからね。そこからの街への発展は、和平派だった黒族国王・ブラックの手腕あってこそと言われておりましたが…」
「同時に、攻めようと思えば簡単に攻める事も出来る辺り、フェイランにとっての要地でもあるのか」
「でも、そこにフェイランの野郎がおるのじゃろ?近いのなら、こっちにとっても好都合。何事にも先手必勝じゃ!」
「兄貴。俺達は“希望の奇跡”となった“フェル”のサポートだ。とはいえ、奇襲策も悪くはないが…」
レイン・カラーズの大陸地図を広げながらの作戦会議に、一行の意見が飛び交う中、さっきから黙っている“希望の奇跡”ことフェルメールに、一行の話から見守っていたスカーレッドが声をかけようとしたその時だった。
「どうしたの、フェルメールさん。さっきから黙って…」
『すいません。皆さんには別れ方が急だったので、詳しい事を伝え忘れましたが…』
「フェルメールさん!?カージナル、フェルメールさんが…」
「ん?どうした、“フェ…じゃないな。ラピスさんか?」
突然のフェルメールらしくない口調に、事情を知らないスカーレッドが驚く一方、カージナルがいち早くフェルメールではなく融合元であるラピスと察し、仲間達もフェルメールの方に注目する中、ラピスはフェルメールの体を借りてカージナル達にある事を伝え始めた。
『今の“希望の奇跡”のフェルメールは、“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を持つフェイランと互角でしょう。しかし、片方だけでは本当の奇跡は起こらない…』
「本当の奇跡?それは一体何じゃ!?」
ラピスが語るフェイラン撃破の策に皆が注目する中、苛立つガーネットが問い詰めては、一拍置いてラピスは口を開いた。
『今まで、レイン・カラーズには百年毎に災厄が起こり、その都度七つの「色」を受け入れた「色族」が、「絶望」と「希望」の奇跡を用いて災厄を回避させるという言い伝えが存在していました』
「「百年毎に災厄」…「四度目の奇跡」と言っていた“開戦しなかった戦争”は、四回目の災厄だったのでしょう」
「「七つの「色」を受け入れた「色族」」は、虹族しか出来ない奇跡の事ですね」
「しかし「「絶望」と「希望」の奇跡を用いて災厄を回避」という事は…」
『ええ。災厄の回避に「希望」だけでなく「絶望」も必要な以上、フェイランが持つ“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を取り戻せない事には、どちらかが倒れるまで永遠に互角のままで終わります。私はあの決闘で“希望の奇跡”―フェルメールを殺し、私が“希望の奇跡”となってフェイランと刺し違い、罪滅ぼしに「絶望」と「希望」と共に闇に葬ろうと考えてました』
「やっぱり、“フェル”を殺す気だったんだな…」
ラピスが語るレイン・カラーズに伝わる言い伝えから、フェイランを倒す方法は、“希望の奇跡”であるフェルメールに、フェイランが持つ“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”を取り戻す必要があるという事が分かった。
『ですが、仲間を「希望」を信じるフェルメールと仲間達の存在で考えが変わりました。貴方達なら、私が“開戦しなかった戦争”を止めた「四度目の奇跡」とは違う、「真の四度目の奇跡」を起こせると…』
「「真の四度目の奇跡」か。そういや、「七つの「色」」が仲間の事なら、今ここには丁度七色分の色族がいるな」
赤目のカージナルが言う七色分の色族―ラピスと融合し、水色と青目のオッドアイとなったフェルメール、緑目のセージ、黄目のジーン、橙目のガーネット、紫目のリアティスに朱目のスカーレッドも居るが、確かに頭数は揃っていた。
『ふふっ、確かに七色分いますね。本当、私と違いフェルメールは良い仲間を持ったものね。それでは、私は改めて見守りましょう。彼等が作る「真の四度目の奇跡」を…』
仲間を喪い「四度目の奇跡」を否定した自分から、仲間がいるフェルメール達に「真の四度目の奇跡」を託したラピスは、意識をフェルメールに返すべく、再び眠りについた。
「アレ?え?私、今まで何を…?」
「フェルメールさん、良かった。突然人が変わったような口調で何があったのかと…」
「お目覚めか、“フェル”。何、お前の代わりにラピスが俺達への覚悟の問い詰めたまでだ。気にすんな」
ラピスと融合による意識乗っ取りの影響で、フェルメールは今まで何が起こったのか、何故スカーレッドが自分に抱き着いているのかが分からず最初は混乱したが、カージナルらの仲間達の結束している姿を見て、大体は把握した。
(私の代わりに…有難う、ラピスさん)
フェルメールが落ち着いた所で、宿屋から大勢の新たな客が訪れたのはその時だった。数人の護衛の騎士団と共に、アザレアとジェードが宿屋に現れたのだ。
「やはり、ここにいたのか」
「アザレア女王様!?」
「護衛やセージの父さんと共に女王様ら直々とは」
「ちょっと、カージナル。色族の女王様にそんな口の利き方は…」
色族を統べる女王であるアザレアの登場に、彼女を知るカージナル達と初対面であるスカーレッドとの違う反応を見せながらも、目的であるジーン部隊を見つけたアザレアは、一行に先程の騎士団からの情報を伝えた。
「フェイラン率いる反国王派の部隊が我が“色族首都”に侵攻を始めたらしい」
「フェイランが!?」
「野郎、先に動きやがったか!」
「それで、市民の避難や迎撃に出る騎士団とかは?」
「避難は始まっている。迎撃に出る我が騎士団も直に整うだろう」
「もう、猶予は迫っているのですね」
アザレアからのフェイランの宣戦布告に、一行の反応は様々ながらも、フェイランの目的である“開戦しなかった戦争”の続きへの時が刻一刻と迫っていた。
「それでだ。“開戦しなかった戦争”の続きから変える運命に立ち向かうのなら、我が騎士団を数人貸そう。彼等と共に、“黒族首都”に奇襲をかけるなら今しかない」
「いいのですか、父さん。貴重な騎士団を僕達に」
「構わん。“希望の奇跡”がいるセージらの為なら、少しぐらい兵を割くぐらい大したことではない。詳しくは遊撃部隊副隊長であるリクから」
「リク?…どこかで聞いたような」
“黒族首都”奇襲の為に貴重な騎士団を貸すというジェードの厚意よりも、その遊撃部隊副隊長である「リク」という名前に、フェルメールは心当たりがありながらも、その「リク」という人の登場で確信へと変わった。
「これはこれは。まさかここで再会するとは」
「リクさん!?貴方、騎士団だったの!」
「何だ、“フェル”。知り合いか?」
「え?ええ。色々と…ね」
フェルメール達の為に貸す騎士団の遊撃副隊長であるリク=クレフォルトの登場に、彼を知るフェルメールが驚き、事情を知らないカージナルらが問うも、恥ずかしい事情を知るフェルメールはあたふたとしながらもはぐらかした。
「我々遊撃部隊は、「絶望」と「希望」がフェイランに渡らぬよう、裏で暗躍をしていましたが、力及ばず“絶望の奇跡”の“レインボウ・アイ”はフェイランの手に渡ってしまいました。だが、“希望の奇跡”が残っている今、貴方達の水先案内人として我々が知る近道から“黒族首都”までお連れ致しましょう」
「という事は、“黒族首都”を知っているという事か?スカイの知り合いらしいし、足の確保には助かる!」
「なら、セージの父さんのご厚意に乗ってあとは“黒族首都”に向うだけだ。よし、みんな行くぞ!」
カージナルの檄に仲間達が応えて準備を始める中、リクはフェルメールの元に歩み寄っては、耳元でこう囁いた。
「生き別れた“お父さん”も、貴方の無事に影ながら喜んでおります」
「“お父さん”?お父さんを知ってるの!?リクさ…アレ?もういない」
「どうした、“フェル”?主役だろ。早く来い」
「わ、分かってるわよ…」
“お父さん”の言葉に反応したフェルメールが返そうとした時には、既にリクの姿はなく、カージナルの催促で、仕方なくフェルメールも騎士団の遊撃部隊と共に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます