第50話 9-2 真の四度目の奇跡

六年の年月が経ち、帰るべき家はもう存在せず草木が覆い茂げ何もない更地だろうと、“彼女”はこの場所へと帰って来た。


「遅くなりました。お父様、お母様。リアティス=スティルレント、ただいま帰りました」


六年前、フロストとソルの凶行によって両親が殺され、助けに来たセージが犯人にされてしまった殺人事件の現場―スティルレント邸の跡地に、セージとジーン、そして当のスティルレント邸の跡地の元主で一人娘・リアティスの三人はそこにいた。


「六年前、お父様とお母様らを殺め、わたくしも狙われたフロストとソルは、彼の謀略によって犯人にされてしまったセージちゃんや、セージちゃんの冤罪に力を尽くしたジーンちゃんらによって解決した事を、わたくしの無事と共にご報告します。安心して安らかにお眠りください…」


スティルレント邸跡地で唯一残っていた樹の下にある簡易なお墓に、リアティスは六年ぶりに帰って来た今は亡き両親へ事件の解決と自身の無事を報告に手を合わせ、その姿をセージとジーンの二人は後ろから見守っていた。


「リアティス先輩。やっと、自分の家に帰って来られましたね」

「ああ。六年は長かったね。本当に…」


六年前、フロストとソルによって殺人事件の犯人にされたセージが全てを失った所から、セージの無実を訴え続けた者、セージの過去の事情を知って力を貸す者、一度はセージを裁いておきながら、僅かな疑心から事件の真実の任を託した者によって六年間止まっていた時を動かした結果、事件の真犯人であるフロストとソルの逮捕と行方不明のリアティスを救出し、フロストとソルは最終的に何者かによって殺されてしまったとはいえ、改めて事件を解決を実感した二人に、黙祷を終えたリアティスが、二人の元へと戻って来た。


「もういいのか?リアティス」

「ええ。それにまだわたくし達にはやるべき事が残っているのでしょ?」

「そうですね。そろそろ宿屋に戻りましょう。スカーレッドさんの件を詳しく知りたいですし」


スティルレント邸跡地の訪問を終えた三人は、今やるべき事である打倒フェイラン撃破の為、今頃スカーレッドが“活気ある港町”から“色族首都”に遠路遥々と来た事に驚いているだろうカージナルらがいる宿屋に戻ろうとしたその時だった。丁度帰路に向かおうとした三人に、老齢の女性の声が三人を呼び止めたのだ。


「セージ、ジーンさん。それに…」


今まさにリアティス邸跡地に墓参りに来たばかりのリーフが三人を呼び止め、セージとジーンの名前を呼んだが、三人目であるリアティスの所で言葉が止まったのを見かねて、リアティスの方から名乗り出た。


「お久しぶりです、リーフ様。わたくしです。六年前、殺人事件で行方不明になったリアティス=スティルレントです」

「スティルレント家のお嬢様、ご無事だったのね。良かった。ジーンさんらと共に息子の無実を訴え続けた六年間は無駄ではなかったのね。良かった…」


セージの冤罪への最後の希望だった行方不明のリアティスの無事に、リーフの目に涙が溢れ始めては、リアティスを優しく抱きしめた。その姿はまるで親子のような感じだったが、やる事が残っている今、セージが意を決してリアティスの再会に喜ぶ母親のリーフに、これからの事を告げた。


「母さん。落ち着いて聞いて欲しい。僕達はこれからフェイランと戦う。でも心配しないで。僕は新たに得た仲間達と共に、必ずまたこの場所に戻って見せる。もう二度と、全てを失う事はしない」

「先輩!?」

「セージちゃん…」


セージの覚悟に、ジーンやリアティスまでも驚く中、当のリーフも最初は二人と同じ反応をするも、息子の覚悟の目を見て、一拍おいて口を開いた。


「セージ。今の貴方はかつての貴方に戻ってきているわ。ジーンさんが始めた貴方の冤罪の呼びかけや、貴方の過去を知りたがっていたカージナルさんとの出会いが、犯人にされて全てを失った貴方を変えたのでしょう。ホント、いい仲間を持ったものね」

「母さん…」

「だからこそ、貴方のその覚悟の目を信じるわ。必ず、ここに帰って来るのよ」

「はい」

「リーフさん、騎士団として自分も誓います。自分と共にセージ=フォレストとリアティス=スティルレント。両先輩方を必ずこの場所に帰って来る事を」


セージの決意と覚悟に、リーフは止める事なく息子の意を尊重し、ジーンもまたリーフに帰還への誓いを立てた所で、リアティスが話題を変えたのはその時だった。


「そうだ。フェイランを倒した後、ここで改めて祝言を開きましょう。フェルメールちゃんやカージナルちゃん、ガーネットちゃんも招いたみんなで」

「え?リアティス、突然何を?」

「お言葉ですが、リアティス先輩。それは、今の段階では不吉で危ない台詞だとどこかで聞いた事がありますが…」

「え?そうなのですか?」

「でも、緊張をほぐすには十分だったよ、リアティス。そうだね。六年越しの祝言はここでやろう。尚更戻る理由が出来たな」


突拍子もないリアティスの発言に、忠告をかけるジーンや、驚くセージと反応は様々だったが、これからフェイランと戦うという緊張をほぐすには十分過ぎたのか、その後の一行はただ笑うしかなかった。

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